著者
佐藤 都子 長谷川 陽一 稲永 路子 瀧 誠志郎 逢沢 峰昭 高田 克彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.274, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

広義ヒノキ科に属するアスナロ属は日本固有の常緑針葉樹であり、北方変種のヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata var. hondae)(以下、ヒバとする)と南方変種のアスナロ(Thujopsis dolabrata)が知られている。これまでの研究から、アスナロ属21集団を対象に系統地理的な遺伝構造解析を行った結果、(1)ヒバとアスナロがそれぞれ単系統に分かれること、(2)群馬県水上集団では2変種の遺伝組成を共有しており、交雑が発生している可能性が示された。アスナロ属2変種の分布は群馬県や栃木県等の関東北部地域で重複しており、この地域に存在するアスナロ属集団の遺伝構造は不明な点が多い。 本研究では2変種の分布域が重複する地域に着目し、新たに栃木県日光の天然集団を集団遺伝解析に加えた。その結果、栃木県日光集団は、群馬県水上集団と共にアスナロのクレードに含まれることが示された。さらに、2変種の分布重複域の遺伝構造に関する知見を得るため、栃木県日光集団を対象に集団内の空間遺伝構造解析を行っている。
著者
長谷川 陽一 吉田 明弘 三嶋 賢太郎 高田 克彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

花粉化石に含まれる分解が進んでいるDNAを解析するためには、1細胞あたりに多数コピーが含まれる細胞質DNAを用いる必要がある。スギの葉緑体DNA(cpDNA)には、多くのマイクロサテライト(SSR)領域が含まれていることが明らかになっているが、スギの葉緑体SSRの多様性を天然林集団で明らかにした研究はない。そこで本研究では、高標高のスギ天然林集団として八甲田山1・2と秋田駒ケ岳カルデラ内の3集団を、低標高の集団として鰺ヶ沢、碇ヶ関、仙岩峠、鳥海、雄勝峠の5集団を対象として葉緑体SSR18座とクローン識別用に核SSR5座を用いた解析を行った。高標高の集団の、八甲田山1では全10サンプルが1クローンと、八甲田山2では全45サンプルが8クローンと、秋田駒ケ岳では全19サンプルが1クローンと推定された。また、八甲田山2における8クローンは全て、葉緑体SSRを使っても識別することが可能であった。低標高の集団では、69%~96%の個体が葉緑体SSRマーカーによって識別可能であった。これらの結果から、スギ天然林集団において葉緑体SSRマーカーに遺伝的多様性があることが明らかになり、花粉化石のDNA解析に使用できると考えられた。
著者
長谷川 陽一 高田 克彦 八木橋 勉 櫃間 岳 齋藤 智之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.261-265, 2015-10-01 (Released:2015-12-23)
参考文献数
21
被引用文献数
1 5

日本に固有の樹木であるアスナロ属ヒノキアスナロは伏条更新によるクローン繁殖を行うことが知られており, これまでにアイソザイムマーカーを用いたクローン構造の調査が行われている。しかし, 一般にアイソザイムマーカーの多型性は低いため, 正確なジェネットの識別は難しい。そこで本研究は,近年開発された多型性の高いEST-SSRマーカー 6 座を用いてマルチプレックス PCR を行い, ヒノキアスナロ天然林に分布する稚樹 359 本のクローン識別を試みた。その結果, EST-SSR マーカー を 3 座以上用いることで 45 ジェネットが識別された。また, 1 ジェネット当たりの幹数の最大値は 82 であり, 平均値は 8.0 であった。本研究の結果から, EST-SSR マーカー 6 座を 1 回のマルチプレックス PCR で増幅することで, ヒノキアスナロ天然林の稚樹のジェネットを簡便かつ正確に判別可能であることが示された。