著者
逢沢 峰昭 森嶋 佳織
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.65-69, 2018-04-01 (Released:2018-06-01)
参考文献数
83

1990年代以降,ニホンジカなどの増加と相まって,全国的にニホンヤマビルの分布拡大や吸血被害の増加が問題化している。被害対策を検討する上で,増加しているニホンヤマビルが昔はどこにいたのか,といった過去の分布情報は重要である。しかし,過去のニホンヤマビルの全国的な分布を扱った研究は少なく,特に1945年以前の分布情報は乏しい。本研究では,学術文献,紀行文および山岳書を基に,江戸時代中期から1945年までと,1946年からニホンヤマビルの分布拡大が生じる以前の1980年代までの二つの年代における全国のニホンヤマビルの分布情報を整理し,現在の分布と比較した。その結果,ニホンヤマビルは,東北地方,中部地方,紀伊半島および九州の一部の限られた山岳地に1945年以前から分布し続けていた。一方,九州の英彦山や伊豆の天城山のように,明治中期以降にニホンヤマビルがみられなくなった山岳もあることが示唆された。
著者
岡崎 千聖 逢沢 峰昭 森嶋 佳織 福沢 朋子 大久保 達弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.116-123, 2018-08-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
56

群馬県では県北部のみなかみ町において2010年に初めてナラ枯れが発生した。このような飛び地的被害を起こしたカシノナガキクイムシ個体群の由来について,隣接県から近年自然または人為的に移入した,遠方から人為的に移入した,在来由来の三つの仮説が考えられた。もし,移入個体群であれば遺伝的多様性の低下や遺伝的に遠い系統がみられると予想される。本研究ではこれらの仮説を遺伝解析に基づいて検証した。みなかみ町およびナラ枯れの起きている近隣6県において,カシノナガキクイムシ試料を採集し,核リボソームDNA,ミトコンドリアDNAおよび核マイクロサテライト(SSR)を用いて遺伝解析を行った。核リボソームDNAおよび核SSRの遺伝構造解析の結果,群馬個体群は福島や新潟と同じ日本海型の北東日本タイプに属したことから,南西日本から人為的に移入したものではないと考えられた。また,ミトコンドリアDNAと核SSRを用いて各個体群の遺伝的多様性を調べた結果,群馬個体群の遺伝的多様性は低くはなく,他個体群と違いはなかった。よって,群馬個体群は近年の移入由来ではなく,在来由来と考えられた。
著者
佐藤 都子 長谷川 陽一 稲永 路子 瀧 誠志郎 逢沢 峰昭 高田 克彦
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
pp.274, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

広義ヒノキ科に属するアスナロ属は日本固有の常緑針葉樹であり、北方変種のヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata var. hondae)(以下、ヒバとする)と南方変種のアスナロ(Thujopsis dolabrata)が知られている。これまでの研究から、アスナロ属21集団を対象に系統地理的な遺伝構造解析を行った結果、(1)ヒバとアスナロがそれぞれ単系統に分かれること、(2)群馬県水上集団では2変種の遺伝組成を共有しており、交雑が発生している可能性が示された。アスナロ属2変種の分布は群馬県や栃木県等の関東北部地域で重複しており、この地域に存在するアスナロ属集団の遺伝構造は不明な点が多い。 本研究では2変種の分布域が重複する地域に着目し、新たに栃木県日光の天然集団を集団遺伝解析に加えた。その結果、栃木県日光集団は、群馬県水上集団と共にアスナロのクレードに含まれることが示された。さらに、2変種の分布重複域の遺伝構造に関する知見を得るため、栃木県日光集団を対象に集団内の空間遺伝構造解析を行っている。
著者
石田 泰成 逢沢 峰昭 大久保 達弘
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-8, 2013-06-25

栃木県奥日光山域において,明治期の1905年に撮影された山火事跡の古写真がデジタルアーカイブスとして公開されている。本研究は,この写真の撮影地点の探査と樹齢構造の調査から,山火事が発生した林分を特定し,そこで炭化片分析を行うことで,同分析によって山火事発生が実証可能か検討した。その上で,山火事発生に関する文献記録のない同山域の1915年の古い地形図上にみられる広域的なササ地が,山火事によって成立したものであるかを炭化片析によって明らかにすることを目的とした。踏査の結果,山火事発生林分を特定することができた。山火事発生林分は, 1915年の湯ノ湖周辺の地形図ではササ地となっている場所と,その近くの広葉樹林であった。また,文献および樹齢構造の調査,この場所では約120年前(1890年代)に山火事が発生したこと,この周囲のカンパ林およびミズナラ林の樹齢は120年以下であることがわかった。この林分での炭化片分析の結果,いずれの林分においても炭化片が検出され,同分析によって,山火事発生の実証が可能と考えられた。次に, 1915年にササ地であった別のミズナラ・シラカンバ林において同様の調査を行った結果,すべての地点から炭化片が検出され,樹齢は最大で101年であった。以上から,奥日光山域では明治期に広域的な山火事が発生しており, 1915年地形図のササ地およびその周囲の広葉樹林にみられる現在の森林植生は山火事後に成立したものと推察された。
著者
佐原 奈々美 中村 俊彦 逢沢 峰昭 大久保 達弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.102-109, 2018-08-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
43

亜高山帯落葉樹林の実生の発生・定着におけるコケ群落の役割について明らかにするため,日本中部の亜高山帯において常緑針葉樹林の伐採約60年後に成立した落葉広葉樹優占林の森林構造および実生・稚樹の発生・生育状況についての調査を行った。その林分ではダケカンバ等の落葉広葉樹が高木層・亜高木層に優占し多量の種子を生産しているにもかかわらず低木層以下では落葉広葉樹よりシラビソやオオシラビソ等の常緑針葉樹が優占していたことから,今後この林分の常緑針葉樹林への遷移が示唆された。林床では地表面でカニコウモリ型とコミヤマカタバミ型の草本群落,また倒木上ではキヒシャクゴケ型とタチハイゴケ型のコケ群落が存在した。倒木上の2種類のコケ群落では多くのシラビソとオオシラビソの実生・稚樹がみられ,その高さと年齢はキヒシャクゴケ型よりタチハイゴケ型で高かった。シラビソとオオシラビソの実生・稚樹の成長を調べ,またシラビソの種子落下および播種試験を実施した結果,コケ群落による落下種子の捕捉および発芽床としての効果が確認され,亜高山帯林での常緑針葉樹の実生・定着に倒木上のコケ群落が大きな役割を果たしていることが明らかになった。