著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.85-93, 2014-10-25

Valins (1966)は当人の心拍が大きく変化しているかのような虚偽心拍音を聞かせながら異性の性的画像を呈示すると,画像に対する魅力度が変容する事を示し,感情喚起に生理的変化は必要ないと述べた.一方で, Stern et al. (1972)は同様の実験を行い,魅力度変容時の生理的変化を確認するとともに,感情喚起に生理的変化は必要であると述べ,その後の研究においては, Valins (1966)の結果を支持するものが多く報告されてきた(稲森. 1974など).しかし,先行研究の虚偽心拍音は,画像呈示時に15bpm上昇,呈示終了後15bpm下降させるものにも関わらず,分析は画像呈示時のみであった.虚偽心拍音の影響を検討するのならば,画像呈示後も分析対象となってしかるべきである.そこで,本研究では,画像視聴時に心拍の虚偽フィードバックを行うことによって魅力度評定,および自律神経系指標(心拍数・指尖血流量・皮膚コンダクタンス)にどのような影響を及ぼすか,先行研究では検討されなかった画像呈示後の生理指標の分析を行うことにより検討した.参加者は男性8名であり,異性画像10枚を見せ,画像呈示中に虚偽心拍音を上昇させる強化フィードバックと,虚偽心拍音を一定に保つ非強化フィードバックそれぞれを行った.安静4分間の後, 1枚の画像に対し,呈示前に注視点を1分間,画像を15秒間という手順を1セットとし,これを画像10枚分行った.最後の画像呈示終了後, 1分間の安静期間を設け,計測を終え,各画像の魅力度を評価してもらい実験終了とした.生理指標に関して強化フィードバックと非強化フィードバックの差は心拍数と指尖血流量において画像呈示後に生じている事が示された.魅力度に関して,両フィードバックの差は認められなかった.このことから,心拍の虚偽フィードバックの影響は心拍数・指尖血流量において画像呈示後に生じる事が示された.しかし,心理指標で魅力度変容は確認出来ず,内省報告から認知的操作の失敗が影響している可能性が考えられた.
著者
長野 祐一郎 永田 悠人 宮西 祐香子 長濱 澄 森田 裕介
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.17-27, 2019-03-30 (Released:2020-04-28)
参考文献数
38
被引用文献数
3

48人の大学生の皮膚コンダクタンスと主観評価を,従来型の講義,授業内実験,およびディスカッションを含む授業中に測定した。講義中は,皮膚コンダクタンスの概要を解説し,授業内実験では射的ゲームを行い,ディスカッションは,精神生理学的測定の社会的応用について行った。参加者の皮膚コンダクタンスは,講義が進むにつれて徐々に低下したが,ディスカッション中に著しく高くなった。授業に関する学生の主観的評価は,講義を除き概ね肯定的であった。学生の生理的反応と主観評価は,授業内実験でのみ相関し,講義とディスカッションでは失われた。自己の覚醒水準の認識が難しいため,相関が講義中に減少したと考えられた。また,対人状況によって生じる不安により,ディスカッション中の相関が弱められた可能性があった。教育環境において,精神生理学的活動の多人数測定を適用することの可能性と問題について議論を行った。
著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.181-191, 2015-12-31 (Released:2017-03-08)
参考文献数
50
被引用文献数
1

競争は心臓血管反応を増大させることが知られている。これまで,競争相手の性質,勝敗の結果,精神活動などの効果が検討されてきた。しかし,競争環境の効果が生理活動に与える影響に関しては,まだよく知られていない。本研究では競争型コンピュータ・ゲームを用い,競争環境が生理反応に与える影響を検討した。20名の大学生が,対面競争 (FF) 条件とネットワーク (NW) 競争条件の両競争条件に参加した。各条件は,4分の安静,3分の課題,3分の回復期間で構成されていた。心拍数 (HR)・指尖容積脈波 (PV)・皮膚コンダクタンス (SC) が測定された。安静期のPVは対面競争条件の方が低い値を示し,これは競争相手の非言語情報により生じた緊張感が末梢組織の血管収縮を強めた結果であると考えられた。さらに,回復期のSCは対面競争条件の方が高い値を示し,これは競争相手の非言語情報の効果を反映していると考えられた。これらの結果から,競争環境は生理活動を左右する重要な要因の1つであると言える。
著者
長野 祐一郎
出版者
公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター
雑誌
ストレス科学研究 (ISSN:13419986)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.80-87, 2012 (Released:2012-11-21)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

To evaluate the usefulness of physical computing method in psychophysiological experiments, instruments for measuring three psychophysiological indices, namely electrocardiogram, digital pulse volume and skin conductance were assembled using physical computing device (Arduino microcomputer) and some low-cost electronic components. Using them, cardiovascular and electro dermal responses of 12 undergraduates were measured during mental arithmetic (MA), speech (SP), cold pressor (CP), and mirror drawing (MD) task. In general, stress tasks increased heart rate (HR) and skin conductance (SC), and decreased pulse volume amplitude (PVA). Whereas MA and MD task induced moderate responses, SP task induced prominent responses in all indices. Only PVA showed significant change to all of four tasks. Lower HR reactivity in CP and MD task were consistent with previous studies. The reason for lower and delayed SC response to CP task was considered as a result of specific effect of local skin cooling. In general, these low-cost instruments were comparable in measured data to commercial available, expensive instruments. Not only functioning as a low-cost A/D converter, microcomputers thought to possess much potential in data preprocessing for varied purpose.
著者
木村 健太 井澤 修平 菅谷 渚 小川 奈美子 山田 クリス孝介 城月 健太郎 長野 祐一郎 長谷川 寿一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.41-51, 2016-04-30 (Released:2017-12-28)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究は,急性心理社会的ストレスに対するコルチゾールの反応性が脅威刺激からの注意解放の困難さと関連するか否かを検討した。この目的のため,手がかり刺激の提示時間を比較的長くした(1,000 ms)空間手がかり課題を用いて怒り顔への注意バイアスを計測した。実験参加者は,急性心理社会的ストレス課題を行った後空間手がかり課題を行った。本研究では,急性心理社会的ストレス課題により上昇した唾液中コルチゾール値に基づき,実験参加者をコルチゾール反応者と非反応者に分けた。その結果,反応者は怒り顔に対する注意の解放困難を示したのに対して,非反応者は怒り顔からの迅速な注意解放を示した。これらの結果は,急性心理社会的ストレスに対するコルチゾールの反応性の高さが脅威刺激からの注意解放の困難さと関連することを示唆する。
著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1502oa, (Released:2015-11-19)
参考文献数
50

競争は心臓血管反応を増大させることが知られている。これまで,競争相手の性質,勝敗の結果,精神活動などの効果が検討されてきた。しかし,競争環境の効果が生理活動に与える影響に関しては,まだよく知られていない。本研究では競争型コンピュータ・ゲームを用い,競争環境が生理反応に与える影響を検討した。20名の大学生が,対面競争 (FF) 条件とネットワーク (NW) 競争条件の両競争条件に参加した。各条件は,4分の安静,3分の課題,3分の回復期間で構成されていた。心拍数 (HR)・指尖容積脈波 (PV)・皮膚コンダクタンス (SC) が測定された。安静期のPVは対面競争条件の方が低い値を示し,これは競争相手の非言語情報により生じた緊張感が末梢組織の血管収縮を強めた結果であると考えられた。さらに,回復期のSCは対面競争条件の方が高い値を示し,これは競争相手の非言語情報の効果を反映していると考えられた。これらの結果から,競争環境は生理活動を左右する重要な要因の1つであると言える。