著者
勝井 洋 瀬戸 健 町 貴仁 長面川 友也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3O2136, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】頚椎深層屈筋群の抑制と頚部痛との関連性が、Boydら(2001)により報告されている。Jullら(2009)は頚椎深層屈筋群が筋力低下していると、頭部重心が肩関節を通る前額面を越えて伸展せず頭頚部の伸展が優位になると述べている。以前、頚椎伸展制限のある患者において頚椎伸展可動域を改善しても最終伸展位からの頚椎屈曲が不可能な症例を経験した。前述の症例の場合、頚椎屈曲に先立ち肩甲骨外転を伴った代償的な胸椎屈曲運動がみられた。以上の経験から、胸椎の代償を制御した頚椎の運動を評価する為、肩甲骨内転強制により胸椎屈曲運動を制限しながら頚椎を伸展位から屈曲させる頚椎伸展―屈曲テスト(以下本テスト)を考案した。頸部深層筋群では遅筋線維の割合が多いという伊藤ら(2001)の報告を参考に我々が行った先行研究(2009)では、健常女性28名に本テストを行った結果13名が屈曲不可能で、可能な群に比べ頚椎筋持久力として測定した平均頸部正中位保持時間は有意に短かった(p<0.01)。そこで今回は本テスト不可能群に対し頚椎深層屈筋トレーニング(以下トレーニング)を行い、頚椎運動と頚椎筋持久力に対する効果を調べることとした。【方法】対象者は頚椎疾患の既往の無い健常女性で、本テストにて不可能だった13名のうち協力の得られた7名(平均年齢27±4歳)であった。頚部正中位保持時間測定方法は再現性の報告されている木津ら(1995)の方法に従い、ベッド上背臥位で第7頸椎棘突起をベッド辺縁上に位置させ、頭頂・耳介・肩峰が直線上にならぶ位置を頸部正中位とした。トレーニングの運動方法は、Jullらの方法に従い空気圧を利用したプレッシャーバイオフィードバック(TYATTANOOGA社製Stabilizer)を背臥位にて頚椎下に置き,顎を引く運動を行なわせた。運動負荷・量については、Stabilizerのカフ圧を20mmHgから24 mmHgまで上昇させる負荷で10秒を5セットの量とし、頻度は週3回、期間は3週間とした。実際のトレーニングの進行は、まずStabilizerを用いて運動方法・負荷を指導し、その後はタオルを用いて監視下にて行った。統計にはt-検定を用いた。【説明と同意】この研究は対象者にヘルシンキ宣言に基づき説明し、文書にて承諾を受けた上で行った。【結果】対象者7名中4名が3週間のトレーニング後、本テストにおいて可能となった。対象者全員の平均頸部正中位保持時間はトレーニング前が7±4秒、トレーニング後は12±8秒で、平均変化率は208±180%であった。トレーニング後も不可能のままであった3名(不変群)の平均頸部正中位保持時間はトレーニング前が9±4秒、トレーニング後は18±10秒で、平均変化率は272±284%であった。トレーニング後可能となった4名(改善群)の平均頸部正中位保持時間はトレーニング前が6±3秒、トレーニング後は8±2秒で、平均変化率は160±65%であった。年齢・トレーニング前後それぞれの平均頸部正中位保持時間において、不変群と改善群との間で有意差はみられなかった。また全体・不変群・改善群それぞれの平均頸部正中位保持時間において、トレーニング前後の間で有意差はみられなかった。【考察】頚椎伸展位からの屈曲運動は、Fallaらによると頚椎深層屈筋群と胸鎖乳突筋の活動がみられており、頚椎深層屈筋群であり後頭骨と上位頚椎をつなぐ頭長筋や下位頚椎と上位胸椎をつなぐ頚長筋、頚椎表層の屈曲筋である胸鎖乳突筋が関連していると考えられる。今回行ったトレーニングはその中でも頚椎深層屈筋群をトレーニングする運動であった。このトレーニングで頚椎最大伸展位からの屈曲運動に改善がみられたことは、頚椎深層屈筋群の機能不全により頚椎屈曲運動が制限されていたと推察できる。しかし、このトレーニングで変化がみられなかった対象者もいた。頚椎伸展位からの屈曲運動には頚椎深層屈筋群のみでなく表層筋である胸鎖乳突筋や胸椎・肩甲帯アライメントも関係しており、これらの要素に問題があった可能性もある。今後は表層・深層の頚部筋力やアライメント評価を本テスト法に含めることで、より頚椎深層屈筋群の機能不全を評価できるテストとして活用できる可能性がある。また今回のトレーニングでは全体・不変群・改善群ともに平均頚部正中位保持時間に有意な増加はみられなかった。頚椎屈曲筋持久性トレーニングを同頻度・期間で行った我々の先行研究(2009)では、頚椎正中位保持時間に有意な増加がみられており、今回の頚椎深層屈筋トレーニングでは筋持久力改善効果はみられにくいと考えた。【理学療法学研究としての意義】我々の調べた限りでは頚椎伸展位からの屈曲運動へのトレーニング効果についての報告は無く、臨床上重要とされる頚椎深層屈筋群のトレーニングの頚椎運動への効果や、考案した本テストと頚椎深層屈筋機能との関連を探る上で有益と考えた。
著者
勝井 洋 町 貴仁 長面川 友也
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI1252-CbPI1252, 2011

【目的】<BR>頚椎深層屈筋群の抑制と頚部痛との関連性が、Boydら(2001)により報告されている。頸椎深層屈筋群の評価は、Jullらによって報告されている頭頚部屈曲テストがあるが、この評価を行うためにはStabilizer(米国Chattanooga社製)というプレッシャーバイオフィードバック器具が必要となる。我々は器具を使用しない頸椎深層屈筋群評価法を開発することを目的に、胸椎の代償を制御しながら頚椎の最大伸展から正中位への屈曲運動を評価する、頚椎伸展―屈曲テストを考案した。我々が行った先行研究(2010:ACPT)では、頚椎伸展―屈曲テストで正中位に戻すことが不可能な健常女性12名に3週間の頚椎深層屈筋トレーニングを行った結果6名が可能となり、頚椎深層屈筋群との関連があると考えた。しかし頸椎運動は頭部重量とそれを支える頚椎により行われる運動であり、頭部重量や頸部長など骨格的な影響を検討する必要があると考えた。作田ら(1990)は頭重負荷指数評価(頭部周径R、頚部周径r、頚部長Lとし公式index=R<SUP>3</SUP>・L/r<SUP>2</SUP>/1000に当てはめる)を開発した。槻本ら(2006)の研究では頭重負荷指数において頭痛あり・なしの群間,また頚部痛あり・なしの群間で有意差を認め身体的特徴が頭痛・頚部痛の原因となりうると示唆している。頭部重量とそれを支える頚椎の関係性を考える上でこの頭重負荷指数は有用であると考えた。そこで本研究の目的は頸椎伸展―屈曲テストの結果と頭重負荷指数との関連を調べ、胸椎代償運動を除いた頚椎運動と頭頚部形態の影響を検討することとした。<BR>【方法】<BR>対象者は頚椎疾患の既往の無い健常女性で、30名(平均年齢32±10歳)であった。頚椎伸展―屈曲テストは、検者による肩甲骨内転強制により胸椎屈曲運動を制限しながら、被験者に頚椎を最大伸展位から屈曲させ正中位に戻せるかを評価した。頭頚部形態測定肢位は座位で頚椎屈曲20度位とした。各形態項目は、頭部周径は眉間の位置、頚部長は大後頭隆起から第7頸椎間、頚部周径は第7頸椎を指標に計測した。測定はすべて同一検者が行なった。頚椎伸展―屈曲テストの結果から可能群・不可能群に分け頭重負荷指数を群間比較した。統計にはt検定を用い、有意水準を危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>この研究は対象者にヘルシンキ宣言に基づき説明し、文書にて承諾を受けた上で行った。<BR>【結果】<BR>頚椎伸展―屈曲テストの結果、正中位まで屈曲可能だった群(可能群)は17名(平均年齢35±11歳)、不可能だった群(不可能群)は13名(平均年齢27±8歳)であった。頭重負荷指数の平均は可能群1.6±0.3、不可能群1.7±0.3で有意差はみられなかった。<BR>【考察】<BR>今回の結果では頚椎伸展―屈曲テストによる可能・不可能の群間に頭重負荷指数の差はみられず、頭頚部形態の与える影響は無かったと考えられた。計測した形態測定項目のうち頭部周径、頚部長は骨形態であり理学療法アプローチで変化させることは出来ない要素である。これらと頚椎伸展―屈曲テストに関係がみられなかったことで、今後理学療法アプローチ可能な筋力や関節可動域、姿勢アライメント等の関連を中心に検討することが出来ると考えた。頚椎伸展位からの屈曲運動は、頚椎深層屈筋群と胸鎖乳突筋の活動がみられたとFallaらにより報告されている。Vasavada(1998)らは、頸椎伸展につれて胸鎖乳突筋と前斜角筋のモーメントアームは短縮し伸展最終域では正中位に比べ25%以下となり、頭頚部に対する屈曲モーメントは働かないと述べている。今回用いた頚椎伸展―屈曲テストでは、頸椎最大伸展位からの屈曲では頸椎深部屈筋群の作用、軽度伸展位からの屈曲では胸鎖乳突筋と頚椎深層屈筋群の作用が重要となると考えた。今後はさらに頚椎伸展―屈曲テストの頸椎伸展時の動きの評価や、各頸椎屈筋の個別の作用の評価、姿勢アライメントとの関連についても検討したいと考えた。現在健常者において研究を行っているが、健常者においても正中位まで屈曲不可能なケースがあることは興味深く、むちうち損傷等の傷害予防の視点も含め今後臨床応用を検討したいと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>頸椎のアプローチにおいて重要とされている頸椎深部屈筋群の簡便な評価の開発は臨床において有益と考える。頚椎伸展―屈曲テストを利用し健常者においても差がみられたことは頸椎疾患の予防の為の評価としても利用できる可能性があると考える。