著者
関沢 明彦 市塚 清健 松岡 隆
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

正常妊娠の末梢血を採取し、胎児由来の遺伝子としてY染色体特異的なマーカーであるDYS14遺伝子を標的にして、その妊娠経過に伴う変化を標準化した。この結果を元に、胎児DNA濃度をMultiples of Median (MoM)値に変換し、妊娠週数による違いを補正した上で各種病態における胎児DNA濃度の変化について比較できるようなシステムが整った。RhD血液型診断に関し、研究期間中にRhD陰性の症例は合計で25例に過ぎなかった。RhD遺伝子exon7を標的とする遺伝子診断を行い、25例全例で正確な胎児診断が可能であった。このことから、この方法は、既に確立された方法であり、精度向上を図る必要性がない思われた。超音波診断で極端な下肢の短縮を認めた症例が9例あり、その症例の妊婦血漿を採取した。また、同時に分娩時の膀帯血も採取した。その症例にFGF-R3の遺伝子についてAchondroplasia、Thanatophoric Dysplasiaなどの原因遺伝子を直接シークエンス法で検討した。しかし、9例全例で遺伝子異常は検出されず、新しい診断には結びつかなかった。次に、妊娠高血圧症候群での胎児DNA濃度の変化及びそれを用いた妊娠高血圧症候群の予知についてであるが、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)では、胎児DNA濃度が上昇することが分った。また、蛋白尿と高血圧の臨床症状の程度と胎児DNA濃度を比較検討した結果、胎児DNA濃度は、蛋白尿及び高血圧とは独立した因子であり、蛋白尿に比較し、高血圧により強く相関していることが分った。また、それらの症状の重症化に伴ってその濃度も上昇することが示され、妊娠合併症の病態把握にも優れたマーカーになると考えられた。