著者
渡邉 剛広 島 麗香 坂原 聖士 高倉 啓 黒谷 玲子 阿部 宏之
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第106回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR1-15, 2013 (Released:2013-09-10)

【目的】ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ:COX)は電子伝達系の終末酵素である。COXは機能分化した体細胞において詳しい機能解析は行われているが,卵子や初期胚における研究はほとんど進んでいない。本研究では,マウスの初期発生におけるCOXの役割を調べるために,未受精卵子から器官形成期までの初期発生におけるCOX mRNA発現とミトコンドリア呼吸機能を解析した。【方法】ICR系雌マウスからMII期卵母細胞,1細胞期〜8細胞期胚,桑実胚,胚盤胞および胎生8.5日胚(E8.5)を回収した。各発生ステージにおいて,COXを構成する全13サブユニットのmRNAをRT-PCRにより解析した。また,卵母細胞および胚において(1)酸素消費量,(2)活性型ミトコンドリアの局在と相対膜電位,(3)ATP含量を解析した。【結果】ミトコンドリアゲノム由来のCOX1,COX2およびCOX3のmRNAは,全ての発生ステージの卵母細胞および胚において検出された。一方,核ゲノム由来COXの mRNAは,MII期の卵母細胞ではCOX6a,COX7bおよびCOX7cを除く7サブユニットのmRNAが検出されたが,1細胞期から8細胞期の胚においてこれら7サブユニットのmRNAは著しく発現量が低下した。桑実胚および胚盤胞ではCOX7cを除く9サブユニットのmRNAが検出され,E8.5では核ゲノムにコードされる全サブユニットのmRNAが検出された。この核ゲノムCOX mRNAの増加は,酸素消費量の増加とミトコンドリア膜電位活性の上昇と一致した。本研究では,未受精卵子から器官形成期胚に至るマウス初期発生におけるCOX mRNAの発現パターンの解析に初めて成功した。ミトコンドリアゲノムと核ゲノムのCOX mRNAはそれぞれ異なる発現パターンを示し,ミトコンドリア呼吸機能の亢進に核ゲノムCOXサブユニットが重要な役割を果たしていることが示唆された。
著者
阿部 宏之 横尾 正樹
出版者
山形大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、電気化学的呼吸計測技術を応用した非侵襲的細胞間ネットワーク解析システム構築のための基盤技術開発を目的とした。酸素の還元電位を検出するマイクロ電極をプローブとする走査型電気化学顕微鏡(SECM)をベースに高精度の細胞呼吸計測システムを構築し、哺乳動物卵子を単一細胞のモデル系に活性が極めて低い単一細胞呼吸解析システムの開発を目指し、以下の研究成果が得られた。1. 高精度単一細胞呼吸計測システムの開発と性能評価 : 単一卵子の酸素消費量(呼吸)を安定して計測できるマイクロ電極を開発した。単一細胞呼吸計測のための専用計測液を作製し、高精度マイクロ電極を装備したSECMと測定液等の要素技術を統合した「高精度細胞呼吸計測システム」の開発に成功した。2. 呼吸計測の有効性検証 : 「高精度細胞呼吸計測システム」を用いて、マウス、ウシ、ブタ等の単一未成熟卵子の呼吸量計測に成功するとともに、卵子成熟過程における呼吸量変化の解析が可能となった。生物学的解析により、呼吸計測システムの有効性が示された。3. 細胞間ネットワーク解析システムの構築 : 卵子成熟過程において、卵丘膨化に伴う卵丘細胞-卵子間相互作用と呼吸活性との関係を解析した結果、卵丘膨化に伴い卵丘細胞と卵子の呼吸能が変化することが明らかになった。