著者
阿部 定範
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

新鮮手術材料を用いた検討では、新鮮胃癌細胞を対象とした時のカットオフ濃度である30μg/mlにおける抑制率(IR_<30>)は0.18〜63.5%に分布し平均±標準偏差は35.2±15.3%あった。同一患者から採取された胃癌細胞および脾細胞に対する脂肪親和性陽イオン/Delocalized lipophilic cations(DLCs)の抑制効果は、腫瘍細胞に対しては明らかな濃度依存的な抗腫瘍効果を示したが、脾細胞に対しては有意な細胞障害性は示さなかった。すなわち、DLCsは同一宿主に由来する腫瘍細胞と正常細胞に対しても選択的な毒性を持つことが示唆された。ヌードマウス可移植性ヒト癌株に関する検討では、大腸癌株Co-4におけるDLCsの抗腫瘍効果は7.5mg/kg/日が、14日間腹腔内に投与された群においては対照群と同様な腫瘍増殖が示されたのに対し、浸透圧マイクロポンプを用いて同量が持続皮下投与された群では相対腫瘍重量T/C値の最小値が59.0%と境界的な抗腫瘍効果が認められた。この結果から、DLCsの同等量投与においては持続投与の方が間欠的投与よりも抗腫瘍効果が高いと考えられた。また、CRL1420、St-4、およびCo-4の3株に対して浸透圧マイクロポンプを用いた20mg/kg/日、7日間の持続皮下投与を行った結果、実験期間中の相対平均腫瘍重量T/C量の最小値が42%以下となり有効と判定された。本投与量におけるマウスの衰弱死亡は認められず、体重減少も20%以下であり、本投与法における最大耐容量と考えられた。実際にHT29に対しては40mg/kg、LST174Tに対しては30mg/kgの浸透圧マイクロポンプを用いた連日投与を行ったが、マウスの衰弱死亡が確認され、本投与方法における最大耐容量は20mg/kg/日、7日間の持続皮下投与であると考えられた。
著者
田村 光 阿部 定範 杉浦 功一 前田 真悟 池田 信良 小島 正夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.1662-1665, 2006-07-25
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

症例は, 73歳,男性.平成13年11月胆石にて腹腔鏡下胆嚢摘出術施行.術中胆嚢が穿孔し,胆汁が腹腔内にこぼれた.摘出胆嚢は肉眼的に腫瘍を認めなかったため,病理検査は,一割面のみに行われたが,明らかな悪性所見は認めなかった.良性胆嚢と判断されたため,胆嚢は特に保存はされず廃棄された.<br> 平成15年6月臍部痛にて当科受診.腹部エコー, CTにて臍のすぐ尾側の腹直筋内に辺縁不整な腫瘤像を認め,切除生検にて腺癌の転移と診断されたため,入院の上,平成15年8月腫瘍を含む腹壁を切除した.腹膜播種を疑う明らかな所見も認めなかった.組織学的に高分化腺癌の転移と診断された.明らかな原発部位を同定することはできなかった.平成16年1月再度腹壁に再発し, 2月より照射施行(58Gy/41回/29日).一旦腫瘍は縮小したものの,再増悪を認めたため,抗癌剤(CDDP+5-FU)を開始したが軽快せず,全身状態悪化し2004年7月死亡した.