著者
大森 光 安藤 寿男 村宮 悠介 歌川 史哲 隈 隆成 吉田 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.105-124, 2023-02-22 (Released:2023-02-21)
参考文献数
70
被引用文献数
1 2

いわき市アンモナイトセンターの双葉層群足沢層大久川部層(コニアシアン下部)のアンモナイト(主に径40-60 cmのMesopuzosia yubarensis)密集層と直下にある炭酸塩コンクリーション濃集層の,堆積相・産状観察と地球化学分析から形成過程を考察した.M. yubarensisは,沖合いの生息場から死後浮遊で沿岸に達した軟体部の失われた殻が,ストーム波浪で住房部が破壊され,分級・集積・運搬され,下部外浜沖合い側で癒着HCS極細粒砂層のハンモックマウンドに沿って急速に埋積した.炭酸塩コンクリーションは,多様なサイズ(径15-194 cm)の長-扁球形で,密集しながらも比較的一様に分布する.コンクリーションの形成は,ストーム波浪で運搬された有機物と底質中のベントス遺骸の分解に伴って堆積物の浅所で始まり,その後,埋没に伴い堆積物深所におけるメタン生成帯での有機物分解が生じるまで継続した.
著者
南 雅代 隈 隆成 浅井 沙紀 髙橋 浩 吉田 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.239-244, 2022-11-03 (Released:2022-11-03)
参考文献数
20
被引用文献数
1

Numerous carbonate concretion samples were collected during dredging around Nagoya Port in the 1960s. Most of the samples contained biological remains, including crabs, sea urchins, and bivalves, which formed their nuclei. In this study, the radiocarbon (14C) ages of the shells of the biological remains inside the concretions, as well as of the concretions themselves, were determined. Based on the metabolic carbon ratios of the bivalvia and sea urchin shells, which were calculated using δ13C values, the 14C ages of the shells and those of the metabolic carbon were estimated to be 7,350-7,050 cal BP and 9,680-9,430 cal BP, respectively. The 14C ages of the carbonate concretions were older than those of the shells due to the addition of metabolic carbon with older ages to the carbon of the concretion. The corrected age after removal of the old carbon was estimated to be 7,530-7,270 cal BP. The near-identical corrected ages of the shells and concretions indicate that the carbonate concretions in the Nagoya Port area formed rapidly after the death of the organisms, which is consistent with morphological evidence of rapid concretion formation in the sediment.
著者
隈 隆成 西本 昌司 村宮 悠介 吉田 英一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.145-151, 2023-02-22 (Released:2023-02-21)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

Carbonate concretions occur in sedimentary rocks of widely varying geological ages throughout the world. Recently, more than 100 gigantic carbonate concretions with diameters ranging from 1 to 9 m have been identified along the Unosaki coast of Oga Peninsula, Akita Prefecture, Japan. The formation process of such gigantic concretions, some of which along the Unosaki coast contain whale bones, remains uncertain. A mineral composition analysis reveals that the major mineral of the concretions is dolomite. Considering the location of dolomite precipitation, their composition implies that the concretions were formed in a reducing environment in which sulfate ions were removed. Stable carbon and oxygen isotopic analysis reveals that the CaCO3 of whale bone and concretions contains light δ13C and heavy δ18O, suggesting that whale organic matter contributed to the formation of the concretions. The gigantic carbonate concretions were presumably formed by the accumulation and burial of whale carcasses with high sedimentation rates, and subsequent reaction of carbon decomposed by benthic and microbial activity with seawater.
著者
西本 昌司 吉田 英一 隈 隆成 渡部 晟 澤木 博之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.001, 2021 (Released:2022-05-31)

秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸は,中新統の西黒沢層直上にあたる女川層及び西黒沢層が露出する波食台で,女川層にはその上に侵食を免れた球〜繭形のコンクリーションが100個以上散在しており(渡部ほか, 2017),「小豆岩」と呼ばれている.コンクリーションのサイズは,径1〜3m程度のものが多いが,中には9mに達するものがある.これまで確認されただけでも,コンクリーションの3分の1程度が鯨骨化石を伴っている.これほど巨大かつ鯨骨のみを有するなコンクリーション群は,世界的にも珍しい.コンクリーション中に確認されているからは鯨骨は化石が見つかっており,主にヒゲクジラ類であることは報告されている(長澤ほか, 2018)が,これらコンクリーションの成因との関連について調査・議論した研究は未だなされていない. この鯨骨コンクリーション群の成因を解明するため,男鹿市ジオパーク推進協議会の協力のもと,調査とともにサンプリングを行い,粉末X線回折(XRD),炭素同位体比(δ13C),蛍光X線分析等の分析を行った.その結果,ところ、次のようなことがわかった.(1)コンクリーションを含む母岩は,珪質頁岩で炭酸塩をほとんど含まない. (2) コンクリーション自体は主にドロマイトであり,一部にカルサイトを含むものも認められる. (3)コンクリーションのδ13C は-15‰前後と低く,生物起源と考えられる. (4)コンクリーション中に見られる層理や鯨骨の配置は,周囲の層理と調和的である. (5)割れて内部が見えるコンクリーションの中心部に椎骨や下顎骨が認められるが,それ以外の生物化石は確認できない. これほど巨大なコンクリーションが形成されるためには,炭素を供給するソースとなる生物体(鯨骨)が運搬され,速やかに海底堆積物中に埋もれる必要がある.女川層は海盆に堆積したタービサイトと考えられている(例えば, Tada, 1994)ので,コンクリーションの炭素源である多孔質で油脂等の有機物を豊富に含む鯨骨(椎骨部分が多い)が,混濁流によって埋没したと考えるのが妥当である.その後,有機物の分解によって鯨骨からCO32-が放出され,海水中のMg2+やCa2+と反応しドロマイトが沈澱したと考えられる.ドロマイトの沈殿には低SO42-濃度が必要(松田, 2006)で,コンクリーション形成場としてSO42-が消費されるような環境が想定される.女川層中の珪質頁岩はもともと珪藻の遺骸が主体(鹿野, 1979)で有機物が多く,嫌気的環境で硫酸還元バクテリアにより硫酸イオンが消費されていた可能性が高い. 以上のことから,この巨大鯨骨コンクリーション群は,深海に沈んだ複数の鯨骨が混濁流によって埋没した後,鯨骨を中心に主にドロマイトが沈澱して形成されたものと考えられる.謝辞現地調査にあたり,男鹿市ジオパーク推進班並びに男鹿半島・大潟ジオパークガイドの会ご協力いただいた.ここに記して謝意を表する.文献渡部 晟・澤木博之・渡部 均 (2017) 秋田県男鹿半島鵜ノ崎の中・上部中新統(西黒沢層・女川層)に 含まれる炭酸塩コンクリーション中の脊椎動物化石の産状. 秋田県立博物館研究報告 42, 6〜17.長澤一雄・渡部晟・澤木博之・渡部均 (2018) 秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸の中新統コンクリーションより多数の鯨類化石を発見. 日本古生物学会2018年年会. 鹿野和彦 (1979) 女川層珪質岩の堆積作用と続成作用. 東北大学博士論文 291p.松田博貴 (2006) ドロマイトの形成過程とドロマイト化作用. Jour. Soc. Inorg. Mater. Japan. 13, 245-252.Tada, R. (1994) Paleoceanographic evolution of the Japan Sea. Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 108, 487–508.
著者
河原 弘和 吉田 英一 山本 鋼志 勝田 長貴 西本 昌司 梅村 綾子 隈 隆成
雑誌
日本地質学会第128年学術大会
巻号頁・発行日
2021-08-14

【背景】 岩石と地下水の反応で生じるリーゼガング現象は、岩石中に特徴的なバンド模様を展開する。近年、そのバンドが岩石-流体反応の化学的特性や反応のタイムスケールを推測する手がかりになると指摘されている[1]。 豪州北部キンバレー地域東部に産するゼブラロックは、リーゼガングバンドの一例として知られる。ゼブラロックはエディアカラ紀のシルト岩層中にレンズ状に産し、酸化鉄鉱物(赤鉄鉱)からなる数mm〜2 cm幅の赤褐色のバンド模様を示す。ゼブラロックが産する露頭は不連続ながら50 km以上に渡って分布し、広域の地質イベントに伴って生じた可能性がある。これまで、ゼブラロックに関する研究は数例あるが[2][3]、その形成プロセスは未解明である。 本研究では、ゼブラロックの成因を基に鉄バンド形成時の岩石-流体反応の化学的条件を述べる。さらに、ゼブラロック形成に関連した地質イベントや鉄バンドの金属鉱床探査への応用の可能性を提案する。【結果】 薄片観察、XRD分析及びラマン分光分析の結果、ゼブラロックの主要構成鉱物は、極細粒の石英粒子及び粘土鉱物(カオリナイト、明礬石)である。特に粘土鉱物について、ほぼ明礬石からなるゼブラロックが本研究初めて記載され、(1)カオリナイト (Kao) に富むタイプと、(2)明礬石 (Alu) に富むタイプの2種類に分類された。XRF分析による両タイプの全岩組成は明瞭に異なり、特に鉄バンドのFe濃度は、Kaoタイプが~9%、Aluが~30%と大きな差が認められた。 XGT分析による元素マッピングでは、鉄バンド中のFe濃度は一様ではなく、バンドの片側に偏在した非対称の濃度ピークとして分布している。この傾向は両タイプのゼブラロックで共通して認められ、一つのサンプル中におけるピークの偏りは全て同じ方向であった。【考察】 ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせの違いは、高硫化系浅熱水鉱床の周囲で、熱水の温度やpHの違いに応じて発達する変質分帯(珪化-明礬石帯及びカオリナイト帯)とよく一致している。これはゼブラロックが酸性熱水変質を被ったことを示している。さらに、Kaoタイプに比べてAluタイプに高濃度に含まれる鉄バンドのFeの存在は、Feの溶解度の温度依存性を反映し、Aluタイプの形成に関与した流体の方がより高温であったことを示唆する。実際に、変質分帯において、明礬石帯はカオリナイト帯より熱水系源に近く、より高温(かつ低pH)の流体が関与している。これらの結果から、ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせとFe濃度の違いは熱水系のモデルと調和的であり、酸性熱水変質とバンド形成は同じイベントで生じたと考えられる。 ゼブラロックの元素マップで認められた鉄バンド中のFe濃度ピークは、浸透した流体と原岩との反応による鉄沈殿のリアクションフロントと見なすことができる。これは、Feを含む酸性熱水流体が原岩の堆積岩中に初生的に含まれていた炭酸塩鉱物との中和反応し、それに伴うpH上昇で、流体中のFeが酸化沈澱したことで説明することできる[4]。なお、ゼブラロック中に炭酸塩鉱物はほぼ含まれていないが、同層準の他地域の露頭では炭酸塩鉱物の存在が確認されている。 ゼブラロック形成に関与した熱水活動の候補として、豪州北部に分布するカンブリア紀のカルカリンジ洪水玄武岩の活動が挙げられる。その活動時期は初期−中期カンブリア紀の大量絶滅とほぼ同時期で、地球規模で表層環境に影響を与えたイベントとして注目されている。本研究地域では、ゼブラロックを胚胎する堆積岩層において、それより上位の年代で生じた火成活動はこの一度だけであることも本知見を支持する。【結論】 本研究によって、ゼブラロックの成因について以下の点が明らかとなった:・ゼブラロックは酸性熱水活動に関連して形成した・鉄バンドは、鉄を含む酸性熱水と原岩中の炭酸塩鉱物の中和反応によるpH緩衝によって生じたと考えられる・ゼブラロックの形成に関与した熱水活動は、カンブリア紀のカルカリンジ洪水玄武岩と関連する可能性が高い また、鉄バンド中の一方向のFe濃度ピークの偏りは浸透した流体の流向を示している[1]。従って、流向を逆に辿ることで、熱水金属鉱床が賦存することのある熱水系の中心の方向を推測できる可能性がある。熱水変質分帯と熱水の流向の両方を記録するゼブラロックは、熱水鉱床探査の有効な手がかりになると期待される。【文献】 [1] Yoshida et al., 2020: Chem. Geol. [2] Loughnan & Roberts, 1990: Aust. Jour. of Earth Sci. [3] Retallack, 2020: Aust. Jour. of Earth Sci. [4] Yoshida et al., 2018: Science Advances