著者
小宮 剛
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.050, 2021 (Released:2022-05-31)

日本地質学会では、2019年に日本鉱物科学会と共同で、大型研究マスタープラン2020に『地球惑星研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムの構築』というタイトルで、国内に地球惑星試料や資料を大規模かつ系統的に保管し、キュレーションをするシステムを構築することを申請しました。大型研究マスタープランとは、科学者コミュニティの代表としての日本学術会議が、各学術分野が必要とする学術的意義の高い大型研究計画を網羅・体系化することにより、学術の発展や学術の方向性に重要な役割を果たす我が国の大型研究計画のあり方について一定の指針を与えることを目的とするものです。 これまで、3年毎に見直しされてきており、2023年に見直しされる可能性があるので、学会では現在次期マスタープランに向けて準備を進めています。 ところで、2020年に日本学術会議において「オープンサイエンスの深化と推進に向けて」と題した提言がされました。そこでは、「研究成果をもたらした第1次物質的試料の永久保存体制の構築やそれらの背景となった第0次試料の選択的保存について、基本方針を確立する必要性」が説かれております。このように、研究試料のアーカイブ化は今や早急に取り組むべき課題となっています。そこで、25期においても、大型研究計画の施設整備に地球惑星研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムを早急に構築することを申請する予定です。本発表では大型研究マスタープラン2020で申請した内容を紹介するとともに、現在進行形ではありますが、次期申請に向けた準備状況を報告し、みなさんのご意見を伺いたいと考えております。大型研究マスタープラン2020で申請した『地球惑星研究資料のアーカイブ化とキュレーションシステムの構築』の概要は以下の通りです。http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t286-1.htmlでも見られますので、そちらもご確認ください。 『日本で近代科学が産声をあげて150年、日本の研究者は公的な研究費を用いて国内外から多くの岩石・化石試料や隕石、地質・地形情報等(以下、地球惑星研究資料または資料)を集めてきた。しかし、博物学が重要な位置付けを占める欧米と異なり、日本では研究資料のキュレーション施設の整備が大きく立ち遅れている。そのため、学術的価値の高い資料や科学的遺産にあたる資料でさえ維持するのが難しい。加えて各国の土地開発や紛争及び試料の採取・持出制限によって、新たな外国産資料の確保がますます困難になりつつある。そこでキュレーションがますます重要となる。既存資料の保管による科学的貢献の例として、近年のアポロ試料の再分析による月の水の存在の新証拠の発見やカンブリア爆発の概念を創出したバージェス頁岩の研究等がある。どちらも30年以上、公的機関に保管された試料の研究から始まった。さらに、近年の急速な研究技術の進歩を考えると、現在不可能とされる化石の超微量分析、古代ゲノム、地震時に形成された断層岩の超微小領域解析も将来可能となろう。本計画は、現在分散保管されている資料のデジタル・オープンアクセス化とアーカイブ化、それらを網羅する統合データベースの構築、そうしたデジタルデータと実試料の保管・提供を統括する『地球惑星研究資料アーカイブセンター』の新設を提案する。その体系を早急に構築することで、短期には現在日本の地球科学において国際競争力のある岩石・化石試料を基盤とした研究分野を支え、長期では未来の研究者との共同研究として研究技術が高度に発達した30~100年後を見据えた科学の発展に寄与する。また、古地形や地盤データのオープンアクセス化、資源試料の提供及び研究資料の博物館、初等教育機関及びマスメディアへの貸出の一括管理は日本の産業、国土開発、領土管理、生涯学習及び初等教育にも貢献することが期待される。』 今後進めていく項目として、(1)本申請内容がより広範な科学者コミュニティから支持される内容であり、かつ多くの科学者が切望しているものであることを示すために、他の学会からの賛同を得ることを進めています。6月の時点では、日本鉱物科学会、地球環境史学会、日本堆積学会、日本地球化学会などから共同提案者や賛同者として、賛同を得ることができ、この取り組みは現在も続けられています。(2)地球惑星研究資料アーカイブセンター設立の準備委員会を立ち上げ、設立に向けた議論を関係する学会や機関の関係者と開始します。(3)日本学術会議地球惑星科学委員会地球・惑星圏分科会に学術資料共有化小委員会が設立されました。両委員会には共通の委員も多くいることから、それらの委員会を両輪として、本計画の準備を進めていきたいと考えています。
著者
川端 訓代 渡部 真衣 北村 有迅 中野 亮典 冨安 卓滋
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.148, 2021 (Released:2022-05-31)

ラドンは不活性のガスとして存在し水に対する溶解度が高く岩石の間隙流体や地下水に容易に溶け込むことが知られている.そのため,水中ラドンは地下の岩石種のトレーサーや地下水の帯水層の情報を得るために測定されてきた.また,岩石から放出されるラドンは亀裂の増加や,岩石・水比の変化,間隙率変化をもたらす地殻歪変化によって濃度が変化するため,地震などの地殻変動検との関係についても調査されてきた.(例えばUlmov and Mavashav, 1971; Wakita et al., 1980; Igarashi et al., 1995; Kuo et al., 2006; Tsunomori and Tanala, 2014).鹿児島県には活断層や断層が多く存在し,温泉施設も多い.本研究では特に鹿児島市近辺の温泉・地下水中のラドン濃度を測定し,市内に分布する活断層・断層と水中ラドン濃度の関係について考察を行う.鹿児島市内の温泉水は現在の一般的な地温勾配に従って温度が高くなることから,マグマや火成岩の熱的な影響を受けていないことが明らかとなった.また酸素水素同位体分析結果から,断層近傍の温泉でマグマに関係した水の混入が認められた.水中ラドン濃度測定の結果,基盤岩である四万十累層群とその上位に堆積する火砕流堆積物の帯水層から得られる水中ラドン濃度に顕著な差が認められた.これは帯水層が多孔質であるか否かという岩石の性状に起因している可能性が高く,多孔質の火砕流堆積物ではラドン濃度が高くなり,間隙が少ない四万十累層群では低くなるためと考えられる.温泉水中ラドン濃度分布から,活断層や基盤岩中に発達する断層付近においてラドン濃度が高い温泉が認められた.これらの温泉は岩石中の比表面積や間隙が大きい断層を流路としている可能性が考えられる.特に鹿児島市下の基盤岩グラーベン構造を作る断層近傍の温泉は,マグマの影響を受けた水が断層を流路として上昇している可能性が考えられる.また,鹿児島市内には,ヒ素が検出される井戸が確認されている.これらの井戸の深度は不明なことが多く,汚染源が特定されていない.本発表では,上記のラドン濃度と地質の関係から,深度不明井戸の地下水中ラドン濃度を測定し,汚染源深度を推定する試みについても発表を行う.Igarashi et al., Science, 269, 1995 Kuo et al., Ground Water, 44, 2006Tsunomori and Tanaka, Radiat. Meas, 60, 2014 Wakita et al., Science, 207, 1980 Ulmov and Mavashav, Akad. Nauk Uzbek, 1971
著者
西本 昌司 吉田 英一 隈 隆成 渡部 晟 澤木 博之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第128学術大会(2021名古屋オンライン) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.001, 2021 (Released:2022-05-31)

秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸は,中新統の西黒沢層直上にあたる女川層及び西黒沢層が露出する波食台で,女川層にはその上に侵食を免れた球〜繭形のコンクリーションが100個以上散在しており(渡部ほか, 2017),「小豆岩」と呼ばれている.コンクリーションのサイズは,径1〜3m程度のものが多いが,中には9mに達するものがある.これまで確認されただけでも,コンクリーションの3分の1程度が鯨骨化石を伴っている.これほど巨大かつ鯨骨のみを有するなコンクリーション群は,世界的にも珍しい.コンクリーション中に確認されているからは鯨骨は化石が見つかっており,主にヒゲクジラ類であることは報告されている(長澤ほか, 2018)が,これらコンクリーションの成因との関連について調査・議論した研究は未だなされていない. この鯨骨コンクリーション群の成因を解明するため,男鹿市ジオパーク推進協議会の協力のもと,調査とともにサンプリングを行い,粉末X線回折(XRD),炭素同位体比(δ13C),蛍光X線分析等の分析を行った.その結果,ところ、次のようなことがわかった.(1)コンクリーションを含む母岩は,珪質頁岩で炭酸塩をほとんど含まない. (2) コンクリーション自体は主にドロマイトであり,一部にカルサイトを含むものも認められる. (3)コンクリーションのδ13C は-15‰前後と低く,生物起源と考えられる. (4)コンクリーション中に見られる層理や鯨骨の配置は,周囲の層理と調和的である. (5)割れて内部が見えるコンクリーションの中心部に椎骨や下顎骨が認められるが,それ以外の生物化石は確認できない. これほど巨大なコンクリーションが形成されるためには,炭素を供給するソースとなる生物体(鯨骨)が運搬され,速やかに海底堆積物中に埋もれる必要がある.女川層は海盆に堆積したタービサイトと考えられている(例えば, Tada, 1994)ので,コンクリーションの炭素源である多孔質で油脂等の有機物を豊富に含む鯨骨(椎骨部分が多い)が,混濁流によって埋没したと考えるのが妥当である.その後,有機物の分解によって鯨骨からCO32-が放出され,海水中のMg2+やCa2+と反応しドロマイトが沈澱したと考えられる.ドロマイトの沈殿には低SO42-濃度が必要(松田, 2006)で,コンクリーション形成場としてSO42-が消費されるような環境が想定される.女川層中の珪質頁岩はもともと珪藻の遺骸が主体(鹿野, 1979)で有機物が多く,嫌気的環境で硫酸還元バクテリアにより硫酸イオンが消費されていた可能性が高い. 以上のことから,この巨大鯨骨コンクリーション群は,深海に沈んだ複数の鯨骨が混濁流によって埋没した後,鯨骨を中心に主にドロマイトが沈澱して形成されたものと考えられる.謝辞現地調査にあたり,男鹿市ジオパーク推進班並びに男鹿半島・大潟ジオパークガイドの会ご協力いただいた.ここに記して謝意を表する.文献渡部 晟・澤木博之・渡部 均 (2017) 秋田県男鹿半島鵜ノ崎の中・上部中新統(西黒沢層・女川層)に 含まれる炭酸塩コンクリーション中の脊椎動物化石の産状. 秋田県立博物館研究報告 42, 6〜17.長澤一雄・渡部晟・澤木博之・渡部均 (2018) 秋田県男鹿半島鵜ノ崎海岸の中新統コンクリーションより多数の鯨類化石を発見. 日本古生物学会2018年年会. 鹿野和彦 (1979) 女川層珪質岩の堆積作用と続成作用. 東北大学博士論文 291p.松田博貴 (2006) ドロマイトの形成過程とドロマイト化作用. Jour. Soc. Inorg. Mater. Japan. 13, 245-252.Tada, R. (1994) Paleoceanographic evolution of the Japan Sea. Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol., 108, 487–508.