著者
松下 敏夫 青山 公治
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

農作物栽培起因性の皮膚障害をオクラ栽培作物を例に、1.その発症の様態を現地疫学的に解明する。2.原因物質の究明を農薬の関与を含めて実験的に検討する。3.予防対策の樹立を目的として本研究を行なった。その結果:1.鹿児島県南薩地方のオクラ栽培者について、2年度にわたり行った現地調査によると、オクラ栽培に伴う皮膚障害の発生はかなり高率であり、適切な予防措置を講じない場合にはほぼ全員に発症する。症状は掻痒・発赤を主とし発症部位は、袋詰作業ではほぼ指先に限局されるのに対し、収穫作業や管理作業では手指のほか手腕、顔面など皮膚の露出部位に生じやすい。この皮膚障害の発生は気象条件とも密接な関係があり、雨天、朝露がある時、あるいは発汗の多い時におこりやすい。同時に実施したアレルギー学的検査では、約1割り程度の者にオクラ成分に対する皮膚過敏症の存することが明らかになった。またオクラによる即時型アレルギー発症の可能性も否定できないことがわかった。2.オクラ成分および使用農薬の向皮膚作用を、モルモットを用いて実験的に検討した結果、オクラ成分には一次刺激性が認められたものの、感作性、光毒性を認めるには至らなかった。また、DDVP、Chlorothalonilに、中程度の光感作性が認められた。これらの結果は、疫学調査結果や文献との不一致の部分もあり、実験方法も含めさらに検討が必要である。3.以上より、オクラによる皮膚障害は発症機序からみると主として(1)オクラとの大量接触による機械的刺激作用、(2)オクラ成分などによる一次刺激作用、(3)オクラ成分によるアレルギー性に大別できる。その予防対策として、オクラとの接触を防ぎかつ作業性を考慮した保護具の検討、および作業中の樹葉との接触を最少限に保つ適正な畔幅の検討などについて考慮した。
著者
上田 忠子 上田 厚 青山 公治
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.951-959, 1992-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
28

農業従事者の農薬による健康障害の実態とその関与因子を明らかにするために, 南九州地区農業従事者, 男子178名, 女子232名を対象に面接調査を実施した。対象者は同時に多項目検診を受けた。その結果, 農薬による健康障害の経験を訴えた者は, 対象者の30.7%で, 性別には有意差はなかった。経営作目の組合わせ別にみると,「柑橘が主」が最も高率 (72.7%) で, ついで「米+柑橘」,「米+砂糖きび+甘藷」などであった。臨床症状は皮膚かぶれが最も多く (39.7%), 原因農薬としては, ダイホルタン (21.4%), ランネート (12.7%) があげられた。障害の発生は, 年間の農薬散布回数, 1日の散布時間, 農薬取扱い年数と有意な正の相関が認められた。農薬に関する意識調査によれば, 農薬の毒性等に関する知識はあるものの, 実際の安全な使用に関する対策は極めて不備な状態にあった。また, 農薬の効果に懐疑的な者や, 農薬の害に不安を感じている者に障害の発生が高率であった。今回の成績は, 農薬の安全使用に関しては更に効果的な教育が必要であり, 一方, 農薬に頼らない農業のあり方も考究すべきであることを示唆するものと思われた。
著者
上田 厚 青山 公治 藤田 委由 上田 忠子 萬田 芙美 松下 敏夫 野村 茂
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.55-66, 1986-05-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

菊栽培従事者の男子47%, 女子62%に, 作業に関連した鼻, 呼吸器症状および皮膚症状がみられた。前者は選花作業時'後者は農薬散布時に自覚されることが多いようであった。菊および農薬に対するパッチテスト, プリげクテスト'血清免疫グロブリン値測定, 鼻汁検査などにより, 前者の症状は即時型, 後者は遅延型アレルギーの関与が示唆された。また, これらのアレルギー学的検査所見の有無と, 菊および農薬の暴露量には若干の関連が認められた。アレルギー所見は, 菊の品種別では, 大芳花に最も高率で'ついでステッフマン, 金盃, 寒山陽などであったが'主として大輸株に即時型'小菊株に遅延型の症状が集積している傾向を認めた。しかしながら, 各品種と検査所見との関連をφ係数で検討すると'アレルギー学的検査所見との関連のとくに著しい品種は検出されなかった。また'皮膚症状については, パッチテスト成績などよりみて, 菊よりもむしろ農薬の関与が強いと思われる成績が得られた。このように, 菊栽培従事者の多くは, 作業に伴い菊や農薬の慢性的な暴露を受け, それに感作された状態にあることが確かめられた。さらに, それらによるアレルギー症状は, その他の作業環境における種々のallergenに様々に修飾されて発現するものであることが示唆された。