著者
真木 彩花 東阪 和馬 青山 道彦 西川 雄樹 石坂 拓也 笠原 淳平 長野 一也 吉岡 靖雄 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-35, 2016 (Released:2016-08-08)

ナノマテリアル(NM)は、粒子の微小化に伴い、化学反応性や組織浸透性などが向上することから、近年多くの分野で普及し、我々の生活において身近なものとなっている。一方で、NMの有用機能が、予期せぬ生体影響をおよぼす可能性が指摘されているものの、そのハザード解析、およびハザード発現機序の解明に向けた検討は殆ど進展していない。本観点から我々は、化学物質による毒性発現において重要な役割を果たすことが示されつつあるエピジェネティック修飾に焦点を当て、NMの安全性評価を進めている。本研究では、最も身近なNMである銀ナノ粒子(nAg)曝露によるエピジェネティック変異、特にDNAメチル化への影響を解析した。まずDNA全体のメチル化率への影響について検討を行った。粒子径10 nmのnAg(nAg10)をヒト肺胞上皮腺癌細胞に添加し、24時間後ゲノムDNAを抽出しメチル化率の変化を評価した。その結果、nAg10曝露によりメチル化率が減少する傾向が認められ、nAg10がDNAメチル化に影響をおよぼす可能性が示された。そこで、代表的なDNAメチル化酵素であるDnmt1への影響について検討した。細胞から核内タンパク質とmRNAを抽出し、ウェスタンブロット法とリアルタイムPCR法によりDnmt1のタンパク質とmRNAの発現量を評価した。その結果、nAg10曝露によってタンパク質発現量が減少する一方で、mRNA発現量には対照群との有意な差は認められなかった。従って、Dnmt1の発現減少は、nAg10曝露によるDnmt1の翻訳阻害または、タンパク質の分解に起因する可能性が見出された。また、nAg10曝露によるDNAメチル化への影響には、Dnmt1発現量の減少が関与する可能性が示された。今後は、他のDNAメチル化酵素への影響などを解析し、nAg10曝露によるDNA低メチル化の誘導機序について解析を進め、NMに係るエピジェネティクス研究推進への貢献を目指す。
著者
青山 道彦 吉岡 靖雄 山下 浩平 平 茉由 角田 慎一 東阪 和馬 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

優れた殺菌/抗菌効果を発揮する銀粒子は,粒子径の微小化に伴い,その抗菌活性を飛躍的に向上させることから,既に直径10~100 nmのナノマテリアル(NM),1~10 nmのサブナノマテリアル(sNM)としての応用が急速に進展している。従って,銀微小粒子の安全性担保に向け,物性-動態-安全性の詳細な連関解析によるナノ安全科学研究が急務となっている。特に近年,NMが生体蛋白質と相互作用し,NMを核とした蛋白質の層構造(プロテインコロナ)が形成されることが報告され,NMの動態・安全性を制御する可能性が示されつつある。しかし,粒子径や表面性状といった物性が,プロテインコロナの形成におよぼす影響は未だ不明な点が多い。特にsNMは,当研究室が昨年の本会で報告したように,分子ともNMとも異なる動態・生体影響を示すことから,粒子径の違いがプロテインコロナの形成に影響を与えた可能性が疑われる。そこで,本検討では,物性-プロテインコロナ形成-生体影響の連関解析の第一歩として,粒子径の異なる銀粒子を用いて,血清存在/非存在下における細胞傷害性を比較解析した。ヒト肺胞癌細胞株(A549細胞)に,直径20 nm未満のナノ銀(nAg),直径1 nm未満のサブナノ銀(snAg)を血清存在/非存在下で添加し,細胞傷害性を比較した。その結果,nAgは血清非存在下で高い細胞傷害性を示すものの,血清の添加によって細胞傷害性の低下が認められた。一方で,snAgは血清の有無に関わらず,ほぼ同等の細胞傷害性を示すことが明らかとなった。以上の結果から,sNMの生体影響に対する血清蛋白質の寄与は少ないことが示唆された。今後は,プロテインコロナの観点から,細胞内取り込み効率を含めた解析を進め,本現象のメカニズム解明を図ると共に,本現象が認められるNM/sNMの粒子径の閾値を探索していく予定である。
著者
山下 浩平 吉岡 靖雄 潘 慧燕 小椋 健正 平 茉由 青山 道彦 角田 慎一 中山 博之 藤尾 滋 青島 央江 小久保 研 大島 巧 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-36, 2012 (Released:2012-11-24)

ナノテクノロジーの進歩により、粒子径が100 nm以下に制御されたナノマテリアルが続々と新規開発され、工業品・化粧品・食品など、多くの分野で既に実用化されている。さらに、近年開発されているサブナノ素材(10 nm以下)は、分子とも異なるうえ、ナノマテリアルとも異なる生体内動態や生体影響を示すなど、新たな素材として期待されている。特に医療分野において、ナノ・サブナノ素材を用いた医薬品開発が注目されており、抗炎症作用などの薬理活性を発揮するナノ・サブナノ医薬の開発が世界的に進められている。サブナノ素材の一つであるC60フラーレン(C60)は、ラジカルスポンジとよばれるほどの強い抗酸化作用に起因する抗炎症作用を有するため、炎症性疾患に対する新たな医薬品としての実用化が待望されている。しかし、非侵襲性・汎用性の観点で最も優れた経口投与製剤としてC60を適用した例は無く、医薬品化に必須である安全性情報も乏しいことから、C60の医薬品化は立ち遅れているのが現状である。本観点から我々は、C60の経口サブナノ医薬としての適用に向けて、経口投与時の安全性情報の収集を図った。異なる数の水酸基で修飾された4種類の水酸化C60をマウスに7日間経口投与し、経日的に体重を測定した。また、各臓器・血液を回収し、臓器重量測定・血清生化学的検査・血球検査を実施した。その結果、各種水酸化C60投与群で、マウスの体重、臓器重量に変化は認められず、白血球数などの血球細胞数や、血漿中ALT・AST・BUN値など組織障害マーカーにも大きな変化は認められなかった。以上の結果から、短期間での検討ではあるものの、水酸化C60は、ナノ毒性の懸念が少なく、安全な経口サブナノ医薬となり得る可能性が示された。今後は、腸管吸収性や体内動態を評価するなど、有効かつ安全なナノ・サブナノ素材の開発支援に資する情報集積を推進する予定である。