著者
堤 智昭 鍋師 裕美 五十嵐 敦子 蜂須賀 暁子 松田 りえ子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.7-13, 2013-02-25 (Released:2013-03-08)
参考文献数
5
被引用文献数
5 9

東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により,食品が放射性セシウムをはじめとする人工放射性物質に汚染される事態が生じている.そこで,食品中の放射性物質による健康影響を評価するために,東京都,宮城県,および福島県でマーケットバスケット方式によるトータルダイエット試料を作製し,セシウム-134およびセシウム-137(放射性セシウム)および,天然放射性核種であるカリウム-40(放射性カリウム)濃度を測定し,1年当たりの預託実効線量を推定した.放射性セシウムの預託実効線量は,検出限界以下の濃度をゼロ(検出下限の1/2)とした場合,東京都が0.0021(0.0024)mSv/year,宮城県が0.017(0.018)mSv/year,および福島県が0.019(0.019)mSv/yearであった.宮城県および福島県の値は東京都の8倍以上であったが,いずれも厚生労働省より示された許容線量1 mSv/yearを大きく下回っていた.一方,放射性カリウムの預託実効線量は,0.17~0.20(0.18~0.20)mSv/yearであり,地域間で大きな差は見られなかった.
著者
鍋師 裕美 堤 智昭 植草 義徳 蜂須賀 暁子 松田 りえ子 手島 玲子
出版者
Japanese Society for Food Hygiene and Safety
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.133-143, 2015-08-25 (Released:2015-09-03)
参考文献数
12
被引用文献数
13 19

平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故(以下,原発事故)によって環境中に放出された放射性核種の1つである放射性ストロンチウム(90Sr)の食品中濃度の実態を調査した.その結果,セシウム(Cs)134および137がともに検出され,原発事故の影響を受けているとされた放射性Cs陽性試料(主に福島第一原子力発電所から50 ~250 km離れた地域で採取)では,40試料中25試料で90Srが検出された.一方,134Csが検出下限値未満であり,原発事故の影響を受けていないとされる放射性Cs陰性試料においても,13試料中8試料で90Srが検出された.今回の調査における放射性Cs陽性試料の90Sr濃度は,放射性Cs陰性試料の90Sr濃度や原発事故前に実施されていた環境放射能調査で示されている90Sr濃度範囲を大きく超えることはなかった.本研究の結果からは,放射性Cs陽性試料の90Sr濃度は過去のフォールアウトなどの影響と明確に区別ができない濃度であり,原発事故に伴う放射性Cs陽性試料の90Sr濃度の明らかな上昇は確認できなかった.
著者
植草 義徳 鍋師 裕美 片岡 洋平 渡邉 敬浩 蜂須賀 暁子 穐山 浩 堤 智昭 松田 りえ子 手島 玲子
出版者
日本食品化学学会
雑誌
日本食品化学学会誌 (ISSN:13412094)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.43-48, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
10

The concentration of uranium (U-238) in various foods containing radioactive cesium (Cs-134 and Cs-137) derived from the Fukushima Daiichi nuclear power plant accident was determined using inductively coupled plasma mass spectroscopy. U-238 concentration in the foods that Cs-134 concentration was below the limits of detection and that was obtained before the accident, were also investigated. U-238 was detected in all 87 samples investigated and the concentration ranged from 0.038 to 130 mBq/ kg. In addition, no correlation was observed between the concentration of radioactive cesium and U-238. The range of U-238 concentration observed in the post-accident food samples was similar to that in the food samples that Cs-134 concentration was below the limits of detection and that in the pre-accident food samples, and to the literature values in foods previously reported. These results suggest that the U-238 concentration was not significantly different in the foods between before and after the accident.
著者
鍋師 裕美 菊地 博之 堤 智昭 蜂須 賀暁子 松田 りえ子
出版者
[日本食品衛生学会]
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.415-418, 2013
被引用文献数
5

平成23年3月の福島第一原子力発電所事故後,牛肉から高濃度の放射性セシウムが検出されたことから,暫定規制値を上回る牛肉が市場に流通しないよう全頭検査が実施された.しかし,検査の過程で同一個体の部位間で放射性セシウム濃度が異なる例が明らかとなり,検査結果の信頼性に疑問が生じる事態となった.そこでわれわれは放射性セシウムを含む同一個体由来の5部位の肉を用いて測定部位間の放射性セシウム濃度の違いについて原因の解明を試みた.その結果,検討した3個体すべてにおいて,脂肪含量が高い部位ほど放射性セシウム濃度が低下することが判明し,部位間の放射性セシウムの濃度差が脂肪含量に起因することが明らかとなった.さらに,筋肉組織は平均して脂肪組織の7倍以上の放射性セシウムを含んでいたことから,ウシの個体検査で放射性セシウム濃度を測定する場合には,脂肪の少ない筋肉部を用いた検査が適当であると考えられた.
著者
鍋師 裕美 堤 智昭 植草 義徳 松田 りえ子 穐山 浩 手島 玲子 蜂須賀 暁子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.45-58, 2016-02-15 (Released:2016-02-15)
参考文献数
19
被引用文献数
9

牛肉,山菜類,果実類,キノコを用いて調理前後の放射性セシウム濃度を測定し,除去効果を検討した結果,調味液へ浸漬してから牛肉を乾燥させた場合や山菜類をあく抜きした場合では,調理前の80%以上の放射性セシウムが除去され,調味液への浸漬やゆで調理,及びこれらの工程後の水さらしが放射性セシウム除去に有効であることが示された。しかし,牛肉及び果実の単純な乾燥,果実類のジャム,焼きシイタケ,山菜類のてんぷらでは,放射性セシウムはほとんど食品から除去されなかった。調理法によっては,放射性セシウムの総量に変化はないものの,水分除去等により濃度が上昇することがあるため注意が必要である。
著者
鍋師 裕美 堤 智昭 蜂須賀 暁子 松田 りえ子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.65-70, 2013-02-25 (Released:2013-03-08)
参考文献数
5
被引用文献数
5 13

食品摂取による内部被ばく状況の推定・把握,さらに食品中放射性セシウムの低減法の提案に有用となる,食品中の放射性物質量の調理変化に関する科学的データを集積することを目的に,乾しいたけおよび牛肉を用いて放射性セシウム量の調理変化を検討した.その結果,乾しいたけ中の放射性セシウム量は,水戻しにより約50% 減少した.牛肉中の放射性セシウム量は,焼くことで約10%,揚げることで約12%,ゆでることで60~65%,煮ることで約80% 減少した.牛肉においては加熱方法により減少率が大きく異なり,“焼く,揚げる” よりも “ゆでる,煮る” のほうが,放射性セシウムの減少率を8倍程度高められるという結果が得られた.
著者
鍋師 裕美 菊地 博之 堤 智昭 蜂須 賀暁子 松田 りえ子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.415-418, 2013-12-25 (Released:2013-12-28)
参考文献数
2
被引用文献数
4 5

平成23年3月の福島第一原子力発電所事故後,牛肉から高濃度の放射性セシウムが検出されたことから,暫定規制値を上回る牛肉が市場に流通しないよう全頭検査が実施された.しかし,検査の過程で同一個体の部位間で放射性セシウム濃度が異なる例が明らかとなり,検査結果の信頼性に疑問が生じる事態となった.そこでわれわれは放射性セシウムを含む同一個体由来の5部位の肉を用いて測定部位間の放射性セシウム濃度の違いについて原因の解明を試みた.その結果,検討した3個体すべてにおいて,脂肪含量が高い部位ほど放射性セシウム濃度が低下することが判明し,部位間の放射性セシウムの濃度差が脂肪含量に起因することが明らかとなった.さらに,筋肉組織は平均して脂肪組織の7倍以上の放射性セシウムを含んでいたことから,ウシの個体検査で放射性セシウム濃度を測定する場合には,脂肪の少ない筋肉部を用いた検査が適当であると考えられた.
著者
宇髙 麻子 吉岡 靖雄 吉田 徳幸 宇治 美由紀 三里 一貴 森 宣瑛 平井 敏郎 長野 一也 阿部 康弘 鎌田 春彦 角田 慎一 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-39, 2012 (Released:2012-11-24)

抗原を粘膜面から接種する粘膜ワクチンは、全身面と初発感染部位である粘膜面に二段構えの防御を誘導できる優れたワクチンとなり得る可能性を秘めている。しかし抗原蛋白質は体内安定性に乏しく、単独接種ではワクチン効果が期待できない。そのため、免疫賦活剤(アジュバント)の併用が有効とされており、既に我々はTNF-αやIL-1α等のサイトカインが優れたアジュバント活性を有することを先駆けて見出してきた(J.Virology, 2010)。しかしサイトカインは吸収性にも乏しく、アジュバントの標的である免疫担当細胞への到達効率が極めて低い。そのため十分なワクチン効果を得るには大量投与を避け得ず、予期せぬ副作用が懸念される。言うまでも無く、現代のワクチン開発研究においては、有効性のみを追求するのではなく、安全性を加味して剤型を設計せねばならない。そこで本発表では、ナノ粒子と蛋白質の相互作用により形成されるプロテインコロナ(PC)を利用することで、サイトカイン投与量の低減に成功したので報告する。PCとは、ナノ粒子表面に蛋白質が吸着して形成する層のことを指す。近年、PC化した蛋白質は体内安定性や細胞内移行効率が向上することが報告されている。まず粒子径30 nmの非晶質ナノシリカ(nSP30)を用いてPC化したTNF-α(TNF-α/nSP30)を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)と共にBALB/cマウスに経鼻免疫し、OVA特異的抗体誘導能を評価した。その結果、有害事象を観察することなく、0.1 µgのTNF-αを単独で投与した群と比べ、TNF-α/nSP30投与群においてOVA特異的IgG・IgAの産生が顕著に上昇していた。以上、PCがTNF-αアジュバントの有効性と安全性を向上できる基盤技術となる可能性を見出した。現在、体内吸収性の観点からPC化サイトカインのワクチン効果増強機構やナノ安全性を解析すると共に、最適なPC創製法の確立を推進している。
著者
山下 浩平 吉岡 靖雄 潘 慧燕 小椋 健正 平 茉由 青山 道彦 角田 慎一 中山 博之 藤尾 滋 青島 央江 小久保 研 大島 巧 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-36, 2012 (Released:2012-11-24)

ナノテクノロジーの進歩により、粒子径が100 nm以下に制御されたナノマテリアルが続々と新規開発され、工業品・化粧品・食品など、多くの分野で既に実用化されている。さらに、近年開発されているサブナノ素材(10 nm以下)は、分子とも異なるうえ、ナノマテリアルとも異なる生体内動態や生体影響を示すなど、新たな素材として期待されている。特に医療分野において、ナノ・サブナノ素材を用いた医薬品開発が注目されており、抗炎症作用などの薬理活性を発揮するナノ・サブナノ医薬の開発が世界的に進められている。サブナノ素材の一つであるC60フラーレン(C60)は、ラジカルスポンジとよばれるほどの強い抗酸化作用に起因する抗炎症作用を有するため、炎症性疾患に対する新たな医薬品としての実用化が待望されている。しかし、非侵襲性・汎用性の観点で最も優れた経口投与製剤としてC60を適用した例は無く、医薬品化に必須である安全性情報も乏しいことから、C60の医薬品化は立ち遅れているのが現状である。本観点から我々は、C60の経口サブナノ医薬としての適用に向けて、経口投与時の安全性情報の収集を図った。異なる数の水酸基で修飾された4種類の水酸化C60をマウスに7日間経口投与し、経日的に体重を測定した。また、各臓器・血液を回収し、臓器重量測定・血清生化学的検査・血球検査を実施した。その結果、各種水酸化C60投与群で、マウスの体重、臓器重量に変化は認められず、白血球数などの血球細胞数や、血漿中ALT・AST・BUN値など組織障害マーカーにも大きな変化は認められなかった。以上の結果から、短期間での検討ではあるものの、水酸化C60は、ナノ毒性の懸念が少なく、安全な経口サブナノ医薬となり得る可能性が示された。今後は、腸管吸収性や体内動態を評価するなど、有効かつ安全なナノ・サブナノ素材の開発支援に資する情報集積を推進する予定である。
著者
今村 正隆 鍋師 裕美 堤 智昭 植草 義徳 松田 りえ子 前田 朋美 曽我 慶介 手島 玲子 蜂須 賀暁子 穐山 浩
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.239-247, 2018-10-25 (Released:2018-11-14)
参考文献数
4
被引用文献数
1

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故により,放射性物質による食品汚染が発生した.地方自治体による出荷前放射性物質検査の有効性を検証するため,放射性セシウムが検出される蓋然性が高い食品・地域を重点的調査対象とした買い上げ調査を行った.2014年度は1,516試料,2015年度は900試料,2016年度は654試料を調査した結果,一般食品における放射性セシウムの基準値を超過した試料数は2014年度では9試料(0.6%),2015年度は12試料(1.3%),2016年度は10試料(1.5%)であった.放射性セシウムが検出される蓋然性が高い食品・地域を重点的に選択したが,基準値超過率は1%程度であったことから,各地方自治体における出荷前の検査体制は適切に整備され,かつ有効に機能していることが確認された.原木栽培や天然のきのこ,天然の山菜,野生獣肉などは放射性セシウム濃度が高い試料が存在したことから,継続的な監視が必要であると考えられた.
著者
植草 義徳 鍋師 裕美 堤 智昭 蜂須賀 暁子 松田 りえ子 手島 玲子
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.177-182, 2014-08-25 (Released:2014-09-11)
参考文献数
6
被引用文献数
1 6

本研究では,食品を介した放射性物質の摂取量の実態を把握することを目的とし,マーケットバスケット(MB)試料(平成24∼25年)および陰膳試料(平成24年)を用いて,放射性セシウムの一日摂取量(Bq/day)および1年当たりの預託実効線量(mSv/year)を推定した.MB試料および陰膳試料から推定された放射性セシウムの年当たり預託実効線量の最大値は,それぞれ0.0094および0.027 mSv/yearであり,福島県近辺地域においてやや高い値を示す傾向が見られた.しかしながら,いずれの試料においても,放射性セシウムによる年当たり預託実効線量は,平成24年4月より施行された新基準値を定める根拠となった1 mSv/yearと比較して極めて小さい値であることが明らかとなった.