著者
東阪 和馬 宇治 美由紀 山口 真奈美 三里 一貴 角田 慎一 吉岡 靖雄 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2003167, 2013 (Released:2013-08-14)

近年,ナノマテリアル(NM)や,蛋白質と同等サイズのサブナノマテリアル(sNM)など,種々超微粒子の利用が食品業界においても急速に進行している。例えば,sNMの代表例であるサブナノ銀・サブナノ白金は,強い抗酸化活性や抗菌活性を有し,健康食品・サプリメント・食品添加物に幅広く実用化されている。一方で,これらNM・sNMがサブミクロンサイズの従来素材とは異なる想定外の生体影響を誘発し得ることが懸念されている。しかし現状では,食品中超微粒子の安全性評価は世界的にも殆ど手つかずであり,物性や曝露実態情報と,それに基づく毒性解析(所謂,ADMET情報)は殆ど理解されていない。そこで本研究では,強力な殺菌/抗菌効果を発揮することが知られている1次粒子径が20 nmのナノ銀粒子(nAg)と,1 nmのサブナノ銀粒子(snAg),コントロール群として硝酸銀水溶液(Agイオン)を用い,単回経口投与時の体内動態解析を試みた(なお,本年会において,サブナノ白金の体内動態解析についても別演題で発表予定である)。BALB/cマウスにnAg,snAgを単回経口投与し,経時的に血液を回収した後,誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いて血中・臓器中の銀量を測定した。その結果,nAgは体内へ殆ど吸収されない一方で,snAgは投与量の約0.2%が血中に残留していることが判明した。すなわち,snAgが,同一素材のnAgあるいはAgイオンとは異なり,経口曝露後に高い腸管吸収性や体内滞留性を示すことを示唆するものであると考えている。現在,より詳細な体内動態解析を進めると共に,一般毒性学的観点からのハザード情報の収集を図っている。今後,閾値追求や物性-経口曝露後動態-安全性についての定量的連関解析を推進することで,NM・sNMのリスク解析に資するADMET情報を集積したいと念じている。
著者
山口 真奈美 吉岡 靖雄 吉田 徳幸 宇治 美由紀 三里 一貴 宇高 麻子 森 宣瑛 角田 慎一 東阪 和馬 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

近年,粒子径100 nm以下のナノマテリアル(NM)と共に,10 nm以下のサブナノマテリアル(sNM)の開発・実用化が進展している。その中でも,白金粒子を数nmという大きさに制御した白金ナノコロイド(サブナノ白金;snPt)は,人体の皮膚表面や腸内で発生する全ての活性酸素種の除去に有効であるとされ,既に健康食品や化粧品などに添加されている。一方で,特にsNMは,分子と同等サイズであるために,あらゆる経路から体内に吸収される可能性など,NMとも異なる特有の体内動態に起因する生体影響が懸念されている。本観点から我々は,snPtの安全性確保を目指したNano-Safety Scienceの観点から,体内動態と生体影響の連関情報(ADMET)を収集している。本検討では,一次粒子径が1 nm,8 nmのsnPt (snPt1, snPt8)を経口投与した際の血中移行性や,尾静脈内投与後の血中消失速度に関して情報を収集した。snPt1とsnPt8をマウスに経口投与し,経時的な血中Pt濃度を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)で測定した。その結果,snPt1は少なくとも2%以上が体内へと移行するが,snPt8は体内へ殆ど吸収されないことが判明した。次に,これら素材をマウスに尾静脈内投与し,血中消失速度を検討した。その結果,snPt1の血中半減期は,snPt8の約1/8であり,snPt8とは異なる特徴的な動態を示すことが明らかとなった。本結果は,粒子径1-8 nmの間に,体内動態に関する閾値・変動点が存在する可能性を示した知見である。今後,粒子径に依存した腸管吸収や排出メカニズムを精査することで,NM・sNMの最適設計(Nano-Safety Design),さらには生体の異物認識におけるサイズ認識機構を解明する足掛かりとなることを期待する。
著者
角田 慎一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.131, no.2, pp.203-207, 2011-02-01 (Released:2011-02-01)
参考文献数
7
被引用文献数
4 7

Recently, the number of applications of nanomaterials in medicine, cosmetics and food to which we are directly exposed has been expanding rapidly. The safety of such nanomaterials has not been well assessed, because nanomaterials have been considered as safe as common larger sized materials which are known not to be absorbed by the body. Therefore, WHO and OECD are collecting safety information on nanomaterials with a view to regulation of their use. Although assessment of in vivo behaviors of nanomaterials, (i.e., absorption and distribution, and correlation analysis with hazard information) is urgently needed, such research has not yet been undertaken. In this regard, using amorphous silica particles as model nanomaterials, we are starting to study safety, in vivo behavior and their correlation; silica particles are often used in cosmetics and foods and also, downsized particles are rapidly becoming available. In our study, we have found that silica particles below 100 nm in diameter show significantly different characteristics in in vivo behavior and biological effects i.e., penetration through skin and distribution to brain. Here, I addressed the importance of studies in physicochemical characteristics, kinetic behaviors, and biological effects of nanomaterials below 100 nm in size, to ensure their safety.
著者
森 宣瑛 吉岡 靖雄 平井 敏郎 髙橋 秀樹 市橋 宏一 宇髙 麻子 植村 瑛一郎 西嶌 伸郎 山口 真奈美 半田 貴之 角田 慎一 東阪 和馬 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-9, 2014 (Released:2014-08-26)

近年、腸内細菌を有さないマウスの検討などにより、腸内細菌が宿主免疫細胞におよぼす影響が明らかになりつつあり、腸内細菌叢の有無が、免疫細胞の発達や各種免疫疾患の悪化・改善に寄与することが判明している。一方で、食事や抗生物質の服用などによる腸内細菌叢の変動が、免疫機能に与える影響は未だ不明な点が多い。従って、今後、環境要因による腸内細菌叢の変動を理解・制御できれば、各種疾患の予防や、健康増進に繋がるものと期待される。本観点から我々は、食餌成分や化学物質などが腸内細菌叢に与える影響を評価すると共に、腸内細菌叢の変動と宿主免疫機能の連関解析を図っている。本検討では、腸内細菌叢に最も大きな変動を誘導すると考えられる抗生物質の曝露が、宿主免疫系におよぼす影響を評価した。2週間連続で抗生物質を投与し、腸内細菌数の変動を解析したところ、コントロール群と比較して腸内細菌数が減少していた。次に、抗生物質を投与後、コレラトキシンとニワトリ卵白アルブミン(OVA)を経口免疫したところ、コントロール群と比較して、OVA特異的IgG・IgG1・IgEがほとんど誘導されないことが明らかとなった。また、抗生物質を投与した後、3週間後から免疫を開始した場合においても同様の傾向が認められた。次に、抗体産生抑制のメカニズムを解析するため、抗生物質を2週間投与後、宿主免疫系への影響を解析した。その結果、腸管の免疫組織であるパイエル板では、抗生物質投与によりCD4陽性T細胞の割合が減少しており、抗生物質投与終了3週間後にも、同様の傾向が認められた。即ち、抗生物質の一時的な投与は、長期間に渡って宿主免疫系に影響をおよぼし続けることが明らかとなった。今後、抗生物質をはじめとした様々な物質による、腸内細菌叢への作用機構、腸内細菌叢の変動による生体影響の関係を精査し、新たな毒性学・安全科学研究を推進したいと考えている。
著者
田村 誠朗 北野 将康 東 幸太 壷井 和幸 安部 武生 荻田 千愛 横山 雄一 古川 哲也 吉川 卓宏 斎藤 篤史 西岡 亜紀 関口 昌弘 東 直人 角田 慎一郎 細野 祐司 中嶋 蘭 大村 浩一郎 松井 聖 三森 経世 佐野 統
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.450-455, 2017 (Released:2018-01-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

症例は65歳女性.X-17年に間質性肺炎合併多発性筋炎と診断されステロイド薬が開始.X-8年に関節リウマチを合併しタクロリムス(Tac)が併用となっていた.X年2月上旬から全身倦怠感と高血圧が出現,さらに血液検査で,血小板減少,溶血性貧血,破砕赤血球,LDH高値,高クレアチニン血症を認めたことから,血栓性微小血管障害症(TMA)と診断.TMAの原因としてcalcineurin inhibitor(CNI)腎症を疑い,Tacを中止し血漿交換を開始した.以降,破砕赤血球は消失し,血小板減少,溶血性貧血は改善したが,高血圧,腎機能低下が遷延したため腎生検を施行.その結果はTMAの病理組織像であった.ただしCNI腎症としてはTacの血中濃度は既存の報告と比較し低く,また薬剤中止後も腎機能低下が遷延していた点が非定型的であった.後に抗PL-7抗体が陽性であることが判明.本症例は強皮症の診断基準は満たさなかったが,同抗体陽性例では強皮症を合併したとする報告がある.すなわち潜在的な強皮症素因を背景にCNI腎症が重篤化した可能性が示唆された.抗PL-7抗体陽性の患者にTacを投与する際はTMAの発症に十分留意する必要がある.
著者
角田 慎一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.142, no.12, pp.1297-1305, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
25

Tumor necrosis factor-α (TNF), a proinflammatory cytokine, is critical to the pathogenesis of various inflammatory diseases. There are two subtypes of receptors for TNF, namely type I TNF receptor (TNFR1) and type II TNF receptor (TNFR2). Previous studies using animal models of diseases have demonstrated the predominant role of TNFR1 in the pathogenesis of inflammation. It has recently been proposed that TNFR2 is associated with anti-inflammatory function. This intriguing function of TNFR2 has implications from an immunological and pharmacological perspective. However, the mechanism of the TNFR2-mediated anti-inflammatory effect is not fully understood. In this context, we attempted to elucidate the TNFR2-mediated anti-inflammatory effect and other unknown biological functions of TNFR2 by utilizing our protein engineering technology to generate functional mutant cytokines. Our findings reveal the following. (1) TNFR2 is expressed on regulatory T cells (Tregs) but not conventional T cells (Tconvs) and TNFR2-mediated signals promote proliferation and activation of Tregs. (2) The crystal structure of TNF/TNFR2 complex was solved, which suggests a possible signal initiation mechanism via TNF/TNFR2 cluster formation on the cellular membrane. (3) A novel TNFR2-mediated signal molecule, aminopeptidase P3 (APP3/XPNPEP3), was identified that interacts with TNFR2 as an intracellular adaptor protein. APP3 is required for c-Jun N-terminal kinase (JNK) phosphorylation, the downstream molecule of TNFR2 signal transduction. These results are key to understanding the mechanism of immune regulation and will assist in the identification of immunomodulatory drugs targeting the TNFR2 signaling cascade as well as the function of Tregs.
著者
宇髙 麻子 吉岡 靖雄 吉田 徳幸 宇治 美由紀 三里 一貴 森 宣瑛 平井 敏郎 長野 一也 阿部 康弘 鎌田 春彦 角田 慎一 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-39, 2012 (Released:2012-11-24)

抗原を粘膜面から接種する粘膜ワクチンは、全身面と初発感染部位である粘膜面に二段構えの防御を誘導できる優れたワクチンとなり得る可能性を秘めている。しかし抗原蛋白質は体内安定性に乏しく、単独接種ではワクチン効果が期待できない。そのため、免疫賦活剤(アジュバント)の併用が有効とされており、既に我々はTNF-αやIL-1α等のサイトカインが優れたアジュバント活性を有することを先駆けて見出してきた(J.Virology, 2010)。しかしサイトカインは吸収性にも乏しく、アジュバントの標的である免疫担当細胞への到達効率が極めて低い。そのため十分なワクチン効果を得るには大量投与を避け得ず、予期せぬ副作用が懸念される。言うまでも無く、現代のワクチン開発研究においては、有効性のみを追求するのではなく、安全性を加味して剤型を設計せねばならない。そこで本発表では、ナノ粒子と蛋白質の相互作用により形成されるプロテインコロナ(PC)を利用することで、サイトカイン投与量の低減に成功したので報告する。PCとは、ナノ粒子表面に蛋白質が吸着して形成する層のことを指す。近年、PC化した蛋白質は体内安定性や細胞内移行効率が向上することが報告されている。まず粒子径30 nmの非晶質ナノシリカ(nSP30)を用いてPC化したTNF-α(TNF-α/nSP30)を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)と共にBALB/cマウスに経鼻免疫し、OVA特異的抗体誘導能を評価した。その結果、有害事象を観察することなく、0.1 µgのTNF-αを単独で投与した群と比べ、TNF-α/nSP30投与群においてOVA特異的IgG・IgAの産生が顕著に上昇していた。以上、PCがTNF-αアジュバントの有効性と安全性を向上できる基盤技術となる可能性を見出した。現在、体内吸収性の観点からPC化サイトカインのワクチン効果増強機構やナノ安全性を解析すると共に、最適なPC創製法の確立を推進している。
著者
常徳 千夏 松井 聖 斉藤 篤史 西岡 亜紀 関口 昌弘 東 直人 北野 将康 橋本 尚明 角田 慎一郎 岩崎 剛 佐野 統
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.189-197, 2015-09-30 (Released:2015-11-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:関節リウマチ(RA)の治療は近年大きく変化しており,抗リウマチ薬に加え生物学的製剤が7種類使用できるようになった.このため,相互作用や副作用管理が急務となり.医療師全体で取り組む事が重要となってきている.今回,調剤薬局薬剤師の関わりの実情と問題点を把握し,今後の薬剤師の役割の方向性を考えるためアンケート調査を実施した. 対象:兵庫医科大学病院外来通院中RA患者のうち,平成25年3月~5月に当薬局に来局,本調査への参加に同意した70名を対象にアンケート調査を実施した. 方法:日常診療実態下における非介入試験 ①日常生活動作 ②関節リウマチ治療状況 ③精神的影響に関する状況のアンケートを実施した. 結果:メソトレキサート(MTX)に関しては,効果の理解度は86%と高かったが,用法の不便さを訴える回答がみられた.生物学的製剤については,注射へのストレスを感じないが67%で,効果を実感している回答も62%と半数を超えた.しかしながら,副作用への不安や,高額の医療費の負担の不安もあった. 結論:調剤薬局薬剤師として,MTXや生物学的製剤などの積極的な治療が必要な患者さんには,積極的に関わることで,個々の状況を聞き取り不安や問題の解決を目指すことにより,アドヒアランスの向上及び治療成功へのサポートを行って行くことが重要であると考える.
著者
今井 直 堤 康央 長野 一也 杉田 敏樹 吉田 康伸 向 洋平 吉川 友章 鎌田 春彦 角田 慎一 中川 晋作
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.151, 2007

現状のプロテオーム解析では、疾患組織あるいは対照となる健常組織由来の蛋白質サンプルを二次元ディファレンシャル電気泳動(2D-DIGE)法で分離した後に、質量分析計を用いて個々の発現変動蛋白質を同定することにとどまっている。そのため、同定された膨大な数の変動蛋白質の中から、発現や変動を詳細に機能解析することで、病態の発症や悪化に中心的な役割を果たしている創薬ターゲット・蛋白質を効率よく絞り込むこが次のステップとして期待されている。その点において、ELISAなどの抗原-抗体反応を利用した解析手法は、特定蛋白質を特異的かつ高感度に検出できることから、プロテオミクス研究においても蛋白質の機能解析を進める上で極めて有用である。しかし、従来のように数十g以上の蛋白質を動物個体に免疫する必要があるハイブリドーマ法では、上述の2D-DIGEによって得られる極微量(数十ng程度)かつ多種類の蛋白質サンプルに対する抗体作製に対応することは不可能である上、この方法ではプロテオミクスの最大の利点である網羅性を著しく損なってしまう。そこで我々は、これらの課題を克服するために、ファージ抗体ライブラリと2D-DIGE法を組み合わせた新しいモノクローナル抗体(Mab)作製技術の確立を試みた。一般に、ファージ抗体ライブラリからのMabのセレクションは、プラスチックプレートなどに固定化した数g~数百g程度の標的抗原に対してファージ抗体ライブラリを反応させ、抗原に結合するファージのみを選択・増幅する、という方法(パンニング法)を用いる。既に我々は、ニトロセルロースメンブランを固相化担体として利用することで蛋白量がわずか0.5 ng程度であっても効率よくMabを選別できるパンニング法の開発に成功している。今回は、ヒト乳癌・乳腺細胞株の2D-DIGE解析により得られた発現変動スポットから蛋白質を抽出し、この蛋白質をダイレクトに抗原として用い、メンブランパンニングを行った。その結果、メンブランパンニング法を適用することで、今回得られた全てのスポットに対してMAbを単離することが出来た。以上、2D-DIGEによる変動蛋白質の同定と抗体作製を一挙に達成できる本手法は、プロテオミクスによる創薬ターゲットや疾患の早期診断・治療マーカーの同定に大きく貢献するものと期待される。
著者
青山 道彦 吉岡 靖雄 山下 浩平 平 茉由 角田 慎一 東阪 和馬 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

優れた殺菌/抗菌効果を発揮する銀粒子は,粒子径の微小化に伴い,その抗菌活性を飛躍的に向上させることから,既に直径10~100 nmのナノマテリアル(NM),1~10 nmのサブナノマテリアル(sNM)としての応用が急速に進展している。従って,銀微小粒子の安全性担保に向け,物性-動態-安全性の詳細な連関解析によるナノ安全科学研究が急務となっている。特に近年,NMが生体蛋白質と相互作用し,NMを核とした蛋白質の層構造(プロテインコロナ)が形成されることが報告され,NMの動態・安全性を制御する可能性が示されつつある。しかし,粒子径や表面性状といった物性が,プロテインコロナの形成におよぼす影響は未だ不明な点が多い。特にsNMは,当研究室が昨年の本会で報告したように,分子ともNMとも異なる動態・生体影響を示すことから,粒子径の違いがプロテインコロナの形成に影響を与えた可能性が疑われる。そこで,本検討では,物性-プロテインコロナ形成-生体影響の連関解析の第一歩として,粒子径の異なる銀粒子を用いて,血清存在/非存在下における細胞傷害性を比較解析した。ヒト肺胞癌細胞株(A549細胞)に,直径20 nm未満のナノ銀(nAg),直径1 nm未満のサブナノ銀(snAg)を血清存在/非存在下で添加し,細胞傷害性を比較した。その結果,nAgは血清非存在下で高い細胞傷害性を示すものの,血清の添加によって細胞傷害性の低下が認められた。一方で,snAgは血清の有無に関わらず,ほぼ同等の細胞傷害性を示すことが明らかとなった。以上の結果から,sNMの生体影響に対する血清蛋白質の寄与は少ないことが示唆された。今後は,プロテインコロナの観点から,細胞内取り込み効率を含めた解析を進め,本現象のメカニズム解明を図ると共に,本現象が認められるNM/sNMの粒子径の閾値を探索していく予定である。
著者
山下 浩平 吉岡 靖雄 潘 慧燕 小椋 健正 平 茉由 青山 道彦 角田 慎一 中山 博之 藤尾 滋 青島 央江 小久保 研 大島 巧 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-36, 2012 (Released:2012-11-24)

ナノテクノロジーの進歩により、粒子径が100 nm以下に制御されたナノマテリアルが続々と新規開発され、工業品・化粧品・食品など、多くの分野で既に実用化されている。さらに、近年開発されているサブナノ素材(10 nm以下)は、分子とも異なるうえ、ナノマテリアルとも異なる生体内動態や生体影響を示すなど、新たな素材として期待されている。特に医療分野において、ナノ・サブナノ素材を用いた医薬品開発が注目されており、抗炎症作用などの薬理活性を発揮するナノ・サブナノ医薬の開発が世界的に進められている。サブナノ素材の一つであるC60フラーレン(C60)は、ラジカルスポンジとよばれるほどの強い抗酸化作用に起因する抗炎症作用を有するため、炎症性疾患に対する新たな医薬品としての実用化が待望されている。しかし、非侵襲性・汎用性の観点で最も優れた経口投与製剤としてC60を適用した例は無く、医薬品化に必須である安全性情報も乏しいことから、C60の医薬品化は立ち遅れているのが現状である。本観点から我々は、C60の経口サブナノ医薬としての適用に向けて、経口投与時の安全性情報の収集を図った。異なる数の水酸基で修飾された4種類の水酸化C60をマウスに7日間経口投与し、経日的に体重を測定した。また、各臓器・血液を回収し、臓器重量測定・血清生化学的検査・血球検査を実施した。その結果、各種水酸化C60投与群で、マウスの体重、臓器重量に変化は認められず、白血球数などの血球細胞数や、血漿中ALT・AST・BUN値など組織障害マーカーにも大きな変化は認められなかった。以上の結果から、短期間での検討ではあるものの、水酸化C60は、ナノ毒性の懸念が少なく、安全な経口サブナノ医薬となり得る可能性が示された。今後は、腸管吸収性や体内動態を評価するなど、有効かつ安全なナノ・サブナノ素材の開発支援に資する情報集積を推進する予定である。
著者
長野 一也 東阪 和馬 角田 慎一 堤 康央
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.138, no.7, pp.903-909, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
15

Human epidermal growth factor receptor 2 (Her2)-targeting antibodies and anti-hormone therapy are effective for most breast cancer patients. However, such approaches are not viable with resistant cases or in triple-negative breast cancer (TNBC) patients, given the lack of Her2 and estrogen and progesterone receptors in these patients. Thus, new drug targets are urgently required. From this perspective, we searched for novel drug targets using proteomic analysis, and identified Eph receptor A10 (EphA10), which is elevated in breast cancer cells as compared to normal breast tissue. Here, we evaluated the potential of EphA10 as a drug target by analyzing its protein expression profile/function in cancer cells, and then by using an anti-EphA10 antibody to treat EphA10-expressing tumor-bearing mice. Protein expression profile analysis showed that EphA10 was expressed in various breast cancer subtypes, including TNBCs, with no expression observed in normal tissues, apart from the testes. Moreover, functional analysis of the cancer cells revealed that ligand-dependent proliferation was observed in EphA10-expressed cancer cells. Thus, we developed our novel anti-EphA10 antibody, which binds to EphA10 with high specificity and affinity at the nanomolar level. Finally, therapeutic analysis indicated that tumor growth was significantly suppressed in the mAb-treated mice in a dose-dependent manner. These results suggest that the EphA10-targeting therapy may be a novel therapeutic option for the management of breast cancer, including in TNBCs which aren't currently treated with molecular-targeted agents. Consequently, we hope that these findings will contribute to the development of a new targeting therapy for refractory breast cancer patients.
著者
常徳 千夏 松井 聖 斉藤 篤史 西岡 亜紀 関口 昌弘 東 直人 北野 将康 橋本 尚明 角田 慎一郎 岩崎 剛 佐野 統
出版者
The Japanese Society for Clinical Rheumatology and Related Research
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.189-197, 2015

目的:関節リウマチ(RA)の治療は近年大きく変化しており,抗リウマチ薬に加え生物学的製剤が7種類使用できるようになった.このため,相互作用や副作用管理が急務となり.医療師全体で取り組む事が重要となってきている.今回,調剤薬局薬剤師の関わりの実情と問題点を把握し,今後の薬剤師の役割の方向性を考えるためアンケート調査を実施した.<br>対象:兵庫医科大学病院外来通院中RA患者のうち,平成25年3月~5月に当薬局に来局,本調査への参加に同意した70名を対象にアンケート調査を実施した.<br>方法:日常診療実態下における非介入試験 ①日常生活動作 ②関節リウマチ治療状況 ③精神的影響に関する状況のアンケートを実施した.<br>結果:メソトレキサート(MTX)に関しては,効果の理解度は86%と高かったが,用法の不便さを訴える回答がみられた.生物学的製剤については,注射へのストレスを感じないが67%で,効果を実感している回答も62%と半数を超えた.しかしながら,副作用への不安や,高額の医療費の負担の不安もあった.<br>結論:調剤薬局薬剤師として,MTXや生物学的製剤などの積極的な治療が必要な患者さんには,積極的に関わることで,個々の状況を聞き取り不安や問題の解決を目指すことにより,アドヒアランスの向上及び治療成功へのサポートを行って行くことが重要であると考える.
著者
堤 康央 角田 慎一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、有効かつ安全な粘膜ワクチンシステムの開発を目的に、サイトカインアジュバントの最適化および、ナノキャリアによる抗原送達システムの構築を図った。その結果、粘膜ワクチンに最適なサイトカインアジュバントを探索し得る方法・基盤技術を確立すると共に、優れた粘膜ワクチン効果を発揮可能であること、ナノキャリアとの併用により、さらに効果が期待できることを先駆けて見出した。