著者
須田 知樹 森田 淳一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.231-241, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
27

本研究は,アカネズミ(Apodemus speciosus),ヒメネズミ(Apodemus argenteus),ハタネズミ(Microtus montebelli)の3種が混在する環境下において,正準判別分析を用いた足跡法による種の識別可否を検討した.捕獲した野生個体を飼育して得た足跡では,アカネズミは前足,後足どちらの足跡を用いても95%前後の識別精度が得られ,ハタネズミにおいては前足では85%,後足では90%以上の識別精度が得られた.しかし,ヒメネズミにおいては前足では20%,後足を用いても60%程度の識別精度しか得られず,前足では65%弱,後足では40%弱がハタネズミに誤判別された.さらに,2009年に栃木県奥日光地域において,アカネズミ,ヒメネズミ,ハタネズミの3種に関して,足跡法により得た足跡をこの正準判別分析を用いて種を識別して算出した足跡数と,捕獲法により得た結果を比較したところ,足跡法と捕獲法の結果の間にハタネズミにおいては有意な相関関係が見られたが,アカネズミとヒメネズミにおいては,有意な相関関係は見られなかった.足跡法は直接的に密度指標に用いることはできないが,費用対効果を考えれば,価値ある手法と言えるだろう.
著者
高槻 成紀 吉田 邦夫 須田 知樹 佐藤 雅俊 佐藤 喜和
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

研究の目的は野生馬タヒを自然復帰した保護区におけるギルドの解析であった。草食獣については大型のタヒとアカシカの群落選択と食性比較をおこない、タヒは草原をアカシカは森林を利用し、食物もタヒはイネ科を主体とし、アカシカはイネ科と双子葉を半々程度食べていることがわかった。最終年には当初予定していなかったユキウサギとシベリアマーモットを含めた比較ができた。肉食動物については鳥類は営巣崖値の調査が危険であるためにサンプルの確保ができず、断念した。しかしオオカミとキツネの比較はできた。ただし糞分析法を採用したため、アカギツネとコサックギツネの区別はできず、「キツネ類」としてまとめた。この分析によりオオカミはもっぱら哺乳類を食すが、キツネは夏は昆虫をよく食すことがわかった。またオオカミは保護区外の家畜をよく採食していることがわかり、保全上の問題が浮上した。タヒ個体数の順調な増加は保護区の設立目的からして歓迎されているが、保護区を生態系保全という視点でみた場合、草食獣による影響が強くなりつつある。そこで森林群落での影響調査を実施したところ、構成樹木の非常に高い枯死率、ディア・ラインの形成、若木の生長阻害が認められた。資源利用とこれらの結果から、タヒ・草原系とアカシカ・森林系の関係において、タヒ・草原系には有利に葉たらしているが、アカシカ・森林系が縮小・退行していることが懸念される。全体としては初期の目的をほぼ達成することができたが、食肉鳥類が分析できなかったこと、肉食獣の同定に限界があった点は課題を残した。これらの成果は順次論文として公表する予定であり、資源利用の基礎となるバイオマス推定についてはすでに投稿中であり、食性などは論文準備中である。