著者
香月 孝史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.489-506, 2011-03-31 (Released:2013-03-01)
参考文献数
33
被引用文献数
1

スターシステムという性質は,通俗的,非芸術的な要素として認知されることが多い.今日,一般に高級文化としての社会的位置を確立している歌舞伎であるが,一方でスターシステム的性質を内包しているとしばしば表象される.本稿は,その「通俗」性と高級文化としての威信が歌舞伎においていかに共存しうるのかを明らかにする.これは,大衆文化やポピュラー文化の側から問い直しが多く行われている,文化の高級性/低級性というテーマに関し,すでに高級と認知されている文化の側から,その位置づけが何に根拠づけられているのかを問い直す試みともなる.かつては低俗として糾弾された歌舞伎のスターシステムは,1980年代にはほとんど批判を受けなくなる.その風潮と前後して歌舞伎の高級文化としてのイメージは強固なものとなるが,そのイメージ形成を主導したのは歌舞伎とは馴染みの薄い若年層の眼差しであった.そうした層によって歌舞伎は,あらかじめ高尚な地位にある伝統芸能として認知され,その演劇的性質はあらためて価値判断を受けることがない.このとき歌舞伎の「高尚」性はその論拠が問われぬまま,きわめてイマジナリーな性質のものとしてある.今日,その内容にスターシステム的性質が依然言及されながらも,それは歌舞伎が高級文化であるという「ブランド」が所与である前提のうえでしか看取されないため,スターシステムという語が一般に帯びる低級性に直結されることはない.
著者
香月 孝史
出版者
The Kantoh Sociological Society
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.22, pp.126-137, 2009-07-25 (Released:2013-03-28)
参考文献数
19

Today kabuki is considered as highbrow. This paper clarifies how the highbrow image was constructed, and shows that the image was not created by the specialists of kabuki. Since the Meiji era, kabuki had been criticized as vulgar and non-artistic. The highbrow image has been created by non-specialists who are unaware of the modern history of kabuki as a lowbrow culture. Now kabuki's highbrow and artistic image has spread widely being propagated by non-specialists. It is said that ‘popularization of highbrow culture’ has occurred in Japan. Non-specialists who are in the majority in Japan have created the image of kabuki as highbrow culture, but they do not have a habit of seeing kabuki in their daily life. It is important for ‘popularization’ of kabuki that the authorization of kabuki rests on those who are not regular viewers of kabuki.
著者
香月 孝史
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.22, pp.126-137, 2009

Today kabuki is considered as highbrow. This paper clarifies how the highbrow image was constructed, and shows that the image was not created by the specialists of kabuki. Since the Meiji era, kabuki had been criticized as vulgar and non-artistic. The highbrow image has been created by non-specialists who are unaware of the modern history of kabuki as a lowbrow culture. Now kabuki's highbrow and artistic image has spread widely being propagated by non-specialists. It is said that ‘popularization of highbrow culture’ has occurred in Japan. Non-specialists who are in the majority in Japan have created the image of kabuki as highbrow culture, but they do not have a habit of seeing kabuki in their daily life. It is important for ‘popularization’ of kabuki that the authorization of kabuki rests on those who are not regular viewers of kabuki.
著者
香月 孝史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.489-506, 2011
被引用文献数
1

スターシステムという性質は,通俗的,非芸術的な要素として認知されることが多い.今日,一般に高級文化としての社会的位置を確立している歌舞伎であるが,一方でスターシステム的性質を内包しているとしばしば表象される.本稿は,その「通俗」性と高級文化としての威信が歌舞伎においていかに共存しうるのかを明らかにする.これは,大衆文化やポピュラー文化の側から問い直しが多く行われている,文化の高級性/低級性というテーマに関し,すでに高級と認知されている文化の側から,その位置づけが何に根拠づけられているのかを問い直す試みともなる.<br>かつては低俗として糾弾された歌舞伎のスターシステムは,1980年代にはほとんど批判を受けなくなる.その風潮と前後して歌舞伎の高級文化としてのイメージは強固なものとなるが,そのイメージ形成を主導したのは歌舞伎とは馴染みの薄い若年層の眼差しであった.そうした層によって歌舞伎は,あらかじめ高尚な地位にある伝統芸能として認知され,その演劇的性質はあらためて価値判断を受けることがない.このとき歌舞伎の「高尚」性はその論拠が問われぬまま,きわめてイマジナリーな性質のものとしてある.今日,その内容にスターシステム的性質が依然言及されながらも,それは歌舞伎が高級文化であるという「ブランド」が所与である前提のうえでしか看取されないため,スターシステムという語が一般に帯びる低級性に直結されることはない.