著者
対馬 路人
出版者
関西学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

特に中国(台湾)系の民衆宗教の代表的教団、紅卍字会道院系及び一貫道系の団体に絞って、資料収集をおこなうともに、それらの日本での活動について聴取調査、参与観察をおこなった。いまのところ、日本国内では前者の系統に関しては日本道院、多摩道院の二団体、後者に関しては天道総天壇、天道日本総天壇、先天大道日本総天壇、孔孟聖道院、道徳会館、中国嵩山少林寺(活動休止)の六団体の存在が確認された。これらの分立状況は母国におけるこれらの教団の分立を背景としている。調査を通して、これらの団体の日本への浸透の経緯や日本での活動の実態については、全ての団体に関してというわけではないが、ある程度明らかになった。歴史的にはまず紅卍字会道院が、日本の大本数と提携するという特異なしかたで戦前に日本に入った。一貫道系が日本に入るのは戦後になってからであり、しかも活発になったのは比較的最近のことである。一貫道系の団体の多くは台湾から入っているが(一団体は韓国経由)、台湾におけるこれらの団体の活発な布教活動を背景としていると思われる。しかし両系統の団体とも日本人メンバーが中心となって活動しているというという点では共通している。こうした中国系の宗教結社は外地では華人のエスニックな相互扶助団体になる傾向があることを考慮すると、この点は日本での展開の特徴の一つといえる。特に菜食の実践、瞑想などの修行の面では日本の若者の姿が目立つ。日本の若者の間での精神世界への関心の高まりがこれらを受け入れる日本側の土壌となっている面がみられる。これらの中国系民衆宗教は、シャーマンの託宣による教団指導、諸教融合的傾向など日本のそれと共通の体質を少なからずもっているが、日本のそれらと比べると、全体として禁欲主義、現世超越、秘密主義の傾向がやや強いように思われる。これらの団体が日本に受容される際に、それらがどのように作用するかを更に検討していきたい。