著者
馬場 俊輔 山田 陽一 日和 千秋
出版者
(財)先端医療振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究においては、培養細胞と生体吸収性足場技術を利用して、新生骨の力学的機能を考慮した足場を開発することにある。足場は、天然歯やインプラント周囲欠損部に対する治療において骨芽細胞の発育を促し、また細胞だけでは十分な量が得られない場合はそれらを補填するために用いるものであるが、現在市販されている足場であるハイドロキシアパタイトやリン酸カルシウム系材料は骨の再生能の点において満足できるものではなく、さらに骨細胞形成能においても評価できるものではない。これらの問題点は、自己由来の骨芽細胞と足場の組み合わせによって、細胞成長能を十分に促進させることができないことにある。さらに、これらの足場は、足場としての機能を考えた場合、生体に埋植後、一定期間に自分の骨に置き換わることを期待する生体吸収性足場ではないことから、吸収性が備わり、さらに内部の気孔性が高く、骨芽細胞や血管が進入しやすく、加えて口腔内で咬合力を負担しうる強度を有する構造でなければ、再生骨を機能的に評価することは困難である。今回の研究では、この問題を解決するために、エナメル質、セメント質、歯根膜、歯槽骨の起源である自己由来の未分化問葉系幹細胞(MSCs)と最適化設計した生体吸収性足場を用いて咬合支持に耐えられる培養骨を開発し、天然歯の周囲骨、歯槽骨はもちろんのことインプラント周囲の骨を再生させる点に特徴がある。今回の研究においては生体吸収性の足場を設計することにより、培養骨芽細胞の活性度に応じた足場材の構造を最適化することができ、より効率的骨再生に加え、創傷治癒、骨形成促進作用も期待できる足場を開発した。PRPと細胞の関係や、これまでの臨床研究の結果を参考にして、カゴ状の編み込み型足場に細胞を播種する計画を策定した。これは組織再生用足場としてPLA繊維1本で編み上げた織物構造体の足場で、カゴ形状で内部に空洞を有しており,ここに細胞を入れることにより細胞の着床率を上げ,大きな欠損部に用いる目的で作成したものであり、現在実用化されているものは細胞をスカフォールドの内部まで播種することが困難であるが,このスカフォールドは開口部を有しており,臨床時に内部に播種して必要寸法に切断することが可能で,手術時に欠損部に合わせて形成できる.また,スカフォールドと欠損部の界面で体液が循環できる構造となっている点で有用である。ここに播種する細胞の最適化を計るべく、細胞培養条件の検討も行った結果、足場に播種する細胞の接着効率だけからではなく、足場の力学特性も関与させる必要があることが明らかとなった。さらに、曲げ強度に問題があり操作性を向上させる必要から、PLA繊維の周囲にPCLのバインダーで強度を補った。また,ヒト問葉系幹細胞をかご型スカフォールドに接着させ、培養を行った。その結果、PLAで製造されたスカフォールドの生分解速度は遅く、細胞の増殖及び骨系への分化誘導が可能であったがスカフォールドは6ヶ月以上の長期に亘り外形を保持されたままであった。これらのことから、スカフォールドの吸収分解速度と培養骨芽細胞の骨再生速度の調節が重要な課題となったため、PLA繊維のin Vivoにおける挙動を確認するための動物実験をしたところ12週間で骨の再生が確認され足場の吸収も確認された。細胞のみの移植と比較しても良好な結果が得られた。
著者
楠本 哲次 川添 堯彬 田中 昌博 高梨 芳彰 馬場 俊輔 木村 公一
出版者
大阪歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では脳機能画像法を用いて咀嚼運動中の大脳皮質の賦活状態を捉えることとした.しかし,脳機能画像法では,頭部が振動を受けると脳の位置が動いてしまうと,データの信頼性が低下する可能性がある.この事も本研究の難易度を上げる原因となった.そこで我々は可能な限り実際の咀嚼運動を再現し,しかし脳機能画像法の妨げになりにくいTask方法として,咀嚼Taskを採用した.咀嚼Taskは右咬みタスク,左咬みタスクとした.各タスクは咬頭嵌合位にて上下顎の歯を軽く接触させ,タスク側の咬筋が等尺性収縮を起こさせるように指示し,咬みしめサイクルは1Hzとした,本Taskにより,実際の咀嚼運動に近いデータを得ることができたと考えている.本研究では咀嚼Taskにて大脳皮質が賦活する部位を検討している過程で,咀嚼Taskによる大脳皮質賦活部位が運動性言語野,言語優位半球との関連があるのではないかと考えた.そこで,我々はしりとりTaskを用いて被検者の言語優位半球を同定し,言語優位半球と咀嚼Taskによる大脳皮質賦活部位との関連を調べたところ,言語優位半球側に必ず咀嚼Taskによる大脳皮質賦活部位を認めた.よって,言語優位半球と咀嚼Taskによる大脳皮質賦活部位とは関連があることが明らかとなった.また本研究では脳磁図やfMRIでも使用可能な咬合力センサの開発を試みたが,実用化することは困難であった.実用化に向けて今後も改良を行う必要がある.