著者
馬田 英隆
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

世界的な森林の撹乱と劣化は森林植物に深刻な影響を与えつつある。例えば、少なからずの森林植物の絶滅が危惧され、中には絶滅してしまった種もある。本研究の目的はそれら植物の保全のための基礎情報を得ることにある。本研究では、ラン科植物のタカツルランを事例として研究した。タカツルランは無葉緑植物で、わが国では絶滅危惧1A類(CR)に分類されている。タカツルランは根の中に棲息している木材腐朽菌と共生関係を結んでいる。このランは光合成能力を喪失しているので一生を通して炭素源は共生菌に依存し、さらに種子の発芽にも共生菌を必要とする。これらのことは、共生菌がタカツルランの保全に有用なツールとなり得ることを示唆している。タカツルラン保全の試みは移植によって行った。最初に、タカツルランの根から共生菌を分離した。次いで、共生菌とタカツルランの種子との共生培養を試験管内で行い、プロトコームと幼植物体を準備した。最後に、プロトコームや幼植物体を土壌中に埋設した。得られた結果から次のような提案をすることができる。1.移植植物体は、共生菌が繁殖している培養基と共に埋設したときに成長した。このことから、共生菌は植え戻しにとって必須で有ることが明らかにされた。植え戻しを確実に成功させるためには、容器の中で植物体を共生菌が繁殖している培養基と共に培養し、その容器を森林に埋設すれば良い。2.移植用の植物体は根・茎が充分に生長した植物体を用いるのが良い。3.移植された植物体は外部へ根を伸長させ、其処にあった丸太に付着し、丸太の中のキノコが親和的な種であればそのキノコと共生関係を築いた。従って、移植する前に親和的なキノコが生育しているかどうかを調査しておく。4.共生菌の生長はタカツルランの生長にとって是非とも必要である。従って、生長と植え戻しに適する時期は温度が高く降水量が豊富な6月、8月、9月が良い。
著者
八木 史郎 畑 邦彦 馬田 英隆
出版者
鹿児島大学農学部演習林
雑誌
鹿児島大学農学部演習林研究報告 (ISSN:13449362)
巻号頁・発行日
no.40, pp.49-66, 2013-03

鹿児島のキノコ(1)(馬田ら2009)と(2)(八木ら2011)に記述されたように,日本は,北から南まで多様な森林相をもち,それに対応するようにキノコ相も異なっている。最近の温暖化とも関連してキノコは,環境指標や,森林保護の点から,また食を含む生物資源としての点からもっと知識の集積が必要であるが,特に南九州においてはまだ不十分な状況にある。筆者らは,南九州キノコ会を立ち上げ,2006年から定期的に観察会を開催してきた。前2報は2006年~2007年,2008年~2009年の観察会で見られたキノコを資料としてまとめたものであった。本報告書は2010~2012年の観察会第18回から32回の観察記録を資料としたものである。観察場所は,紫尾山,県民の森,清浦,八重山,吉野公園,高隈演習林,藺牟田池周辺,吹上浜の8地点であった。この間には,梅雨時では豪雨のために中止,順延が多く,また紫尾山においては雷雨による中止や短時間で切り上げという事もあった。第22回観察会の記録としては10種以上観察されたがPCの不具合で記憶にあった2種のみの記載とした。過去7年間に観察されたきのこの属する科名を表1に示す。観察されたきのこの種類は種を特定できたと判断したものだけで300種を超える。観察されたきのことしてはキシメジ科,フウセンタケ科,イグチ科,ベニタケ科,タコウキン科のものが多かった。きのこの分類は現在DNAの一部の比較によって大きく変わりつつあり,まだその作業は進行している途中に有り,十分に落ち着いていない現状であるので,本資料はこれまでの形態的分類によるものを基準とし,新しい分類に立脚した資料とはしていない。