著者
平澤 小百合 高田 将輝 仁田 裕也 板東 杏太 尾﨑 充代 高木 賢一 吉岡 聖広 髙田 侑季 藤井 瞬 佐藤 央一 丸笹 始信 勝浦 智也 鶯 春夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O1078-B3O1078, 2010

【目的】15番染色体異常が原因とされるプラダー・ウィリー症候群(以下PWS)の特徴は運動、神経、精神症状等と多岐にわたるが、特に満腹中枢機能不全からなる過食による肥満や感情コントロール困難は思春期以降の問題となりやすく、確立した治療法のない現状では日常生活管理が不可欠である。今回PWSを基礎疾患とした男性が過食と感情爆発からなる不適切行動による悪循環で推定体重160kg以上となり、結果、低換気症候群・低酸素脳症を発症し寝たきり状態となった症例を担当した。入院時対応に難渋した症例に対し行動分析学的介入により日常生活動作(以下ADL)向上がみられ在宅生活へとつながった経験をしたので若干の知見を加え報告する。<BR>【方法】対象は25歳男性、診断名はPWS・低換気症候群・低酸素脳症、入院時評価として身長141cm・体重(推定)160kg以上、肥満度4(日本肥満学会より)、Functional Independence Measure (以下FIM)36点/126点、知能検査IQ41である。<BR>経過はA病院にて2歳頃にPWSと診断。5歳頃より体重増加し減量を目的とした数回の入退院後、B病院に通院し治療を続けていた。H20年頃より家で閉じこもりとなり臥床時間が多くなった。その間も体重は増加し同年10月意識低下にて救急でC病院搬送。入院希望するも肥満以外に問題ないとの説明で入院不可、B病院でも同様の対応のためC病院から緊急に当院相談。救急から約9時間後に泣き叫ぶ等の興奮状態で入院した。翌日より理学療法開始。訪室するも家族から理学療法に対し拒否的発言がみられ、患者も顔色不良で右側臥位のまま担当理学療法士の様子を伺っている状態。その場で運動の必要性を説明し苦痛を与えないことを約束した上で右側臥位のまま全身調整訓練を施行した。なお、気道圧迫により仰臥位は困難だが、入院2日前まで食事と排泄動作はほぼ自立していたとの家族情報から起立・移乗動作に必要な筋力は維持していると判断した。また脂肪による気道圧迫があるものの酸素2~3ℓ管理下ではSPO<SUB>2</SUB>96%前後と安定していた。<BR>今回の問題点として、本症例の自信喪失感・自己否定感等があると共に他者からの禁止言葉や否定語などで自分の思うようにならない時や注目・関心を自分に向けようとした時に奇声やパニック・酸素チューブを引きちぎる・服を破る等の不適切行動や過食に走る傾向があると思われたため、不適切行動の修正と動作能力改善を目的に行動分析学的介入を試みた。研究デザインにはシングルケースデザインを使用し、理学療法処方日から6日間をベースラインと設定、その後は基準変更デザインより目標行動を移行した。具体的には不適切行動には過度に注目しないよう強化随伴性の消去と同時に動作や言動に適切な変化がみられた直後に賞讃し、その行動が将来生起しやすいよう好子出現による強化を行いその効果を不適切行動の有無や動作能力、FIMにて確認した。その他接する機会の多いスタッフには関わる際の配慮として説明した。また、摂取カロリーは1200kcal/日で理学療法はストレッチやADL訓練を中心に施行し、リスク管理は自覚症状やバイタルサイン等で確認した。<BR>【説明と同意】本症例・家族には今回発表の趣旨及び内容を説明し書面にて同意を得た。<BR>【結果】介入前に毎日みられた不適切行動は、介入後週1回程度まで減少、動作能力も徐々に向上し、介入後3週目寝返り動作自立、5週目平行棒内立位可能、8週目約5m独歩可能となった。また入院当初みられなかった在宅復帰の希望が本人・家族からあり15週目に退院した。体重は当初立位不可等により途中からの計測となるが、7週目146.9kg、退院時は140.7kgと約8週間で7kg減少した。FIMも退院時は68点と向上がみられた。退院後は週2回の訪問リハビリテーションで対応し、退院後約4ヶ月で体重136kg台に減少、FIMも101点と大幅な向上がみられた。日中は酸素なしの活動も可能となっている。<BR>【考察】今回、ガストらが『行動を減らす手続きの選択は侵襲性が少なく、かつ効果的なものを選択されるべきである』と述べているように機能的な代替行動強化に着目し理学療法を進めた。また適切行動の強化が頻繁に得られその行動が自然強化子により維持されるよう配慮し内発的動機付けに変化がみられたことで著明な動作能力の向上が得られたと考えられる。その他、入院中に習得したパソコンによるメール交換が可能となり『食』のみに関心が集中することなく安定した生活が得られていると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】症例の置かれている状況を『個人攻撃の罠』に陥ることなく行動と環境の関係から検証し問題解決する行動分析学的方法は理学療法を円滑に進めていく上で有効かつ有用であると考えられる。
著者
長尾 香奈 平澤 小百合 尾﨑 充代 高木 賢一 平島 光子 仁田 裕也 松下 真由美 西村 麗華 鶯 春夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1092, 2006

【はじめに】<BR> 高齢者が多く入所している施設においては、「できるADL」と「しているADL」の差が問題になることが多い。当介護老人保健施設(以下:当施設)においてもこの差が生じていたので、これらの問題を改善するために「できるADL」と「しているADL」の実態調査を行い、どのADLに差が生じているのか、どのような入所者に差が生じているのかなどを検討した。<BR>【対象・方法】<BR> 当施設の入所者48名(男性10名、女性38名、年齢69~99歳、平均84.5歳)を対象とした。要介護度別にみると、1が8名(16.7%)、2が7名(14.6%)、3が20名(41.7%)、4が10名(20.8%)、5が3名(6.3%)であった。主疾患は脳神経疾患23名(47.9%)、骨関節疾患9名(18.8%)、認知症8名(16.7%)、その他8名(16.7%)であった。方法は、担当理学療法士が直接介護場面を観察したり、介護スタッフに聞き取り調査することにより、機能的自立度評価表(以下:FIM)にて「しているADL」を評価するとともに、FIMの評価表を基に担当理学療法士が「できるADL」を評価し、その差を比較検討した。なお、FIMの18項目のうち、セルフケア6項目、移乗2項目、移動1項目の計9項目を評価した。<BR>【結果】<BR> 「できるADL」と「しているADL」の評価がFIMの9項目全て一致した者は6名(12.5%)で、各項目において「完全自立もしくは修正自立」と採点された者が5名、「最大介助もしくは全介助」と採点された者が1名であった。逆に、一致した項目数が最も少なかったのは1項目で、2名(4.2%)存在し、それは過剰な介助が原因であった。項目別にみた場合、一致率が高かった項目は、食事41名(85.4%)、移乗37名(77.1%)、トイレ動作36名(75.0%)であった。逆に一致率が低かった項目は、清拭17名(35.4%)、更衣・上半身27名(56.3%)、整容28名(58.3%)であった。最も一致率が高かった食事においては、1段階異なった者が5名(10.4%)、2段階以上異なった者が2名(4.2%)であり、最も一致率が低かった清拭動作においては、1段階異なった者が13名(27.1%)、2段階以上異なった者が18名(37.5%)であった。<BR>【考察】<BR> 清拭や更衣の一致率が低かった理由としては、当施設の入浴介助が介護者のペースで行われたり、安全性を重視するあまりに過剰な介助が行われていることなどが考えられた。これらの点の改善ためには、特に、監視~中等度介助レベルの入所者への対応が重要で、安全性の確保や入所者のペースで介助を行う工夫、リハスタッフが生活場面に出向き、介護者とのコミュニケーションを密に取る必要性などが示唆された。