- 著者
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高橋 絵里香
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.2, pp.133-154, 2008-09-30
西欧/非西欧の二項対立は、人類学のパーソンフッド論における基本的な前提となってきたが、西欧的なパーソンフッドとしての「近代的個人」の背景にある自立の概念は、これまで十分に検討されてくることがなかった。しかし、自立/依存の概念は歴史的な変遷を遂げてきており、身体的自立・経済的自立・自己決定としての自立という3つの自立概念の「要素」は、現代では混在した状態にある。フィンランドの高齢者福祉における在宅介護サービスは、一人で暮らす人々の「自立」を支えているが、高齢者達が経験する身体的な危険はホームヘルパー達の介入を正当化し、彼らを施設へと移転させる契機としてシステムの中に組み入れられている。その一方で、そうした介入の機会は、高齢者達の側から能動的な働きかけを行う契機ともなっている。つまり、自立と依存は明確に分離することのできる概念ではなく、両者が錯綜した状態の中で互いの適用領域を定義し合っている。本稿で紹介する在宅介護サービスを通じて、他者への(からの)介入/非介入の境界上において、経済・身体・自己決定という自立の3要素が相互に連関し、自立のセットをなすという、近代的個人の一様態がエイジングの過程の中に見出される。