著者
北村 彰浩 猪原 匡史 内田 司 鷲田 和夫 長谷 佳樹 小森 美華 山田 真人 眞木 崇州 高橋 良輔
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.384-389, 2010-07-25 (Released:2010-09-14)
参考文献数
12

【症例】52歳女性.高血圧,高脂血症,肥満あり.約1週間の経過で徐々に発動性低下が進行した.麻痺等の局所神経症状はなくNIHSS 0点であったため,当初はうつ病も疑われたが,頭部MRIで左内包膝部に脳梗塞像を認め左中大脳動脈穿通枝のbranch atheromatous disease (BAD)と診断した.神経心理学的検査や脳波検査から,軽度のうつ状態,認知機能障害,左前頭葉の機能低下を認めた.抗血栓療法等で徐々に症状は改善し約2カ月で職場復帰した.【考察】内包膝部は視床と大脳皮質を結ぶ種々の神経経路が通過する要所である.本例では前頭葉と視床との機能連絡の遮断により前頭葉機能が低下し発動性低下を来たしたと考えられた.また,BADは進行性の運動麻痺を呈しやすいことで知られるが,本例のように明らかな局所神経症状が無く発動性低下が亜急性に進行する症例でも内包膝部のBADが重要な鑑別になると考えられた.
著者
高橋 良輔
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.6, pp.375-382, 2004 (Released:2004-11-26)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3

パーキンソン病は,ドパミンニューロンの選択的変性による進行性の運動障害を主症状とする神経変性疾患である.家族性パーキンソン病の一型である常染色体劣性若年性パーキンソニズム(AR-JP)の病因タンパク質であるParkinは,基質タンパク質を特異的に認識し,プロテアソームによる分解を促進する酵素,ユビキチンリガーゼ(E3)である.このためE3の不活性化により,基質タンパク質が異常蓄積してAR-JP発症に至ると考えられる.その仮説に基づいてParkinの基質タンパク質が探索された結果,現在では約10種類の異なる分子がParkinの基質として報告されている.その中で我々が見出したパエル受容体(Pael-R)は黒質ドパミン細胞に高度に発現する,リガンド不明のGタンパク質共役型受容体である.Pael-Rは折れたたみ(フォールディング)が困難なタンパク質で,新生タンパク質の約50%がフォールディングに失敗し,構造が異常で機能をもたないミスフォールドタンパク質になる.ParkinはE3として構成的にミスフォールド化Pael-Rをユビキチン化し,その分解を促進している.AR-JPではParkinが不活性化されるために分解されなくなったミスフォールド化Pael-Rが小胞体に蓄積し,小胞体ストレスによって細胞死を引き起こすと考えられる.Pael-Rは培養細胞でアポトーシスを起こすだけでなく,ショウジョウバエのニューロンで過剰発現させてもドパミンニューロン選択的細胞死を引き起こすことが示された.一方Parkinノックアウトマウスではドパミンニューロン死は起こらず,既知の基質の蓄積もみられないことから,病因となる基質の特定は困難な状況である.Pael-R蓄積による小胞体ストレスがAR-JPの神経変性をどこまで説明できるのか,最新のデータに基づいて議論する.