著者
内田 司
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.1-19, 2007-03-07

現代社会における私たちの生活様式の諸特質の一つは,理性と感情が対立させられ,理性だけが重視され,感情(生活)の重要性が等閑視されてきたということである。というのも,私たちが生活している現代の市場経済社会では,私たちは,最小費用による最大の利潤追求,そのことを可能にする最適化と効率化,そして計算可能性という,近代合理性の経済化された生活原理が至上原理となった社会生活に,否応なしに適応しなければならなかったからである。こうした市場経済社会における経済様式化された社会生活の中では,私たちは否応なく自分以外の外的世界と,自己の私的(経済的)利益を実現するために,損得感情(勘定)にもとづいて,手段的・道具的にかかわらざるをえない。その中では,理性=知性とされ,私的目的実現の手段として重視されるが,感情はそうした合理的な活動を攪乱する非合理的なやっかいものとして従属的な地位に押し込められてきた。しかし,こうした感情生活を抑圧する社会生活は,諸個人の精神生活だけでなく,対人関係,対社会的関係行為にもさまざまな問題を引き起こしている。連載からなる本稿は,かかる現代社会における諸個人の感情生活の非合理的な存在様式によって引き起こされている,諸個人の精神生活,人間関係,社会との関係にかかわる諸問題を,感情コミュニケーションの視点から分析することを目的としている。本稿の課題は,私たちの日常生活における社会的相互行為のあり方に影響を与えている,現代社会の社会形成原理・生活原理の下で展開されている,人々の感情コミュニケーションの基礎的な型について検討することである。ただし,本号では,共感にもとつくコミュニケーション,損得感情(勘定)のコミュニケーション,そして疑心暗鬼のコミュニケーションについて検討し,傲漫とルサンチマンのコミュニケーションについては,次号で検討することになろう。
著者
内田 司
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 = Journal of the Society of Humanities
巻号頁・発行日
no.105, pp.165-181, 2019-02-25

現在,経済のグローバル化にともなう経済的不均等発展によって,さまざまな社会問題が発生している。経済格差の拡大や雇用の不安定化などもそうした問題のひとつである。そうした状況は,生活者にとって極めて理不尽と感じられるようなこともあるのではないだろうか。それゆえ,生活者にとって,現代社会においてどのような生き方をしていけばよいのかという問いは,差し迫った問いとなっているように思われる。本稿は,現代社会における生き方に関する社会学的研究のための予備的考察を行うことを目的としている。その考察の手始めとして,現代社会と同じように極めて理不尽な状況があった戦前の日本社会に生きた,三人の作家の生き方を検討するとともに,その検討を踏まえ,生き方の社会学的研究の対象の明確化を試みたいと思う。本稿では,3人の作家のうち小林多喜二の生き方を検討するとともに,生き方の社会学的研究対象の明確化を行うことになる。研究ノートResearch Note
著者
北村 彰浩 猪原 匡史 内田 司 鷲田 和夫 長谷 佳樹 小森 美華 山田 真人 眞木 崇州 高橋 良輔
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.384-389, 2010-07-25 (Released:2010-09-14)
参考文献数
12

【症例】52歳女性.高血圧,高脂血症,肥満あり.約1週間の経過で徐々に発動性低下が進行した.麻痺等の局所神経症状はなくNIHSS 0点であったため,当初はうつ病も疑われたが,頭部MRIで左内包膝部に脳梗塞像を認め左中大脳動脈穿通枝のbranch atheromatous disease (BAD)と診断した.神経心理学的検査や脳波検査から,軽度のうつ状態,認知機能障害,左前頭葉の機能低下を認めた.抗血栓療法等で徐々に症状は改善し約2カ月で職場復帰した.【考察】内包膝部は視床と大脳皮質を結ぶ種々の神経経路が通過する要所である.本例では前頭葉と視床との機能連絡の遮断により前頭葉機能が低下し発動性低下を来たしたと考えられた.また,BADは進行性の運動麻痺を呈しやすいことで知られるが,本例のように明らかな局所神経症状が無く発動性低下が亜急性に進行する症例でも内包膝部のBADが重要な鑑別になると考えられた.
著者
内田 司
出版者
札幌学院大学
雑誌
札幌学院大学人文学会紀要 (ISSN:09163166)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.95-120, 2002-12-25

現在の地域社会研究においては,もはや,都市・農村の対立の止揚を課題とするのは,時代錯誤的になったと言われてきた。日本においても,とくに高度経済成長期以降の地域社会の激変ともいえる変動が,実体としての都市・農村を解体してしまったとみられている。連載からなる本稿は,そうした地域社会研究の課題をめぐる主張の批判的検討を行うことを課題としている。そして,グローバル化している現代資本主義の発展にもとづく地域的不均等発展の深化によってもたらされているさまざまな問題-世界的な南北問題と紛争問題,過密過疎問題,都市問題,環境・エネルギー問題などなど-を解明するためには,都市・農村の対立を止揚するという視角は,現代地域社会研究にとって重要な視角であることを立証したい。その一環として,本論文では,都市・農村の対立を主題としてきた社会理論の理論的系譜を辿る一環として,アダム・スミスの再生産理論を検討している。