著者
花見 重幸 斉藤 功 花田 晃治 高野 吉郎
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.211-222, 1996-06
参考文献数
52
被引用文献数
5

矯正力が三叉神経節カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)陽性ニューロンに対して, どのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的として, ラット上顎臼歯をWaldoの方法に準じて実験的に移動させ, 移動開始1, 3, 6, 12, 24時間後に屠殺して, 三叉神経節神経細胞体内CGRPの免疫活性と局在性について免疫組織化学的に検索し, 以下の結果を得た.1. 対照群において, 上顎臼歯部支配領域における全神経細胞体に占めるCGRP陽性神経細胞体の割合は約37%であり, 小型および中型の細胞体がそのほとんどを占めていた.また, 細胞体直径の小さなものほどCGRP免疫染色性が強くなる傾向にあった.2. CGRP陽性神経細胞体は, 歯の移動開始後すみやかにその数を減じ, 3時間後に最少となったが, 以後増加傾向を示し, 移動開始12時間後には対照群とほぼ同等の状態にまで回復していた.また, 全CGRP陽性神経細胞体に占めるCGRP強陽性細胞体の割合は, 歯の移動後3時間において顕著な減少を示した.以上のことから, 歯の移動により一時的に三叉神経節神経細胞体内のCGRPが減少傾向を示すことが明らかとなり, 三叉神経節内神経細胞体内に存在するCGRPが, 歯の移動に伴う疼痛の発現とともに, 歯の移動初期における歯周組織内での組織改変に深く関与している可能性が示唆された.
著者
高野 吉郎 大島 勇人 前田 健康 馬場 麻人 坂本 裕次郎 寺島 達夫 花泉 好訓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

口腔領域における抗原提示細胞ネットワークの全容を解明するための一連の研究の一環として、ラット切歯、臼歯、ヒト永久歯および乳歯を用いて、以下に示す項目について検討を行った。1.抗原提示細胞ネットワーク:マクロファージを含む抗原提示細胞ネットワークをMHC class II抗原に対する免疫組織化学と、ACPaseの酵素組織化学の二重染色法、ならびに免疫電顕法により精査した。歯根膜と歯髄で、樹状細胞郡とマクロファージ郡の2郡に大別し、両者の分布パターンの異同を大筋で明らかにした。幼若な個体では歯髄、歯根膜ともに樹状細胞は少数で、成長に伴って増加した。ラット臼歯歯根膜では樹状細胞と破骨細胞の棲み分けが確認され、歯髄では樹状細胞が頻繁に象牙細管に細胞突起を刺入していることが確認された。2.窩洞形成刺激が歯髄樹状細胞に与える影響:従来看過されていた窩洞形成後の樹状細胞の早期反応の詳細を明らかにした。窩洞形成直後から多数の樹状細胞が象牙細胞の傷害野へ集積し、修復象牙質の形成開始期まで溜まってダイナミックな動態を示すことが確認され、樹状細胞が外来抗原刺激の感受に加えて、歯髄修復に何らかの関与をしている可能性が示唆された。3.抗原提示細胞と破骨細胞の前駆細胞判別の試み:歯槽骨の骨形成野と骨吸収野が歯根の近遠心で明瞭に区別されるラット臼歯歯根膜では、同じ骨髄単球系細胞である樹状細胞と破骨細胞がやはり明瞭な棲み分けをしていることが確認された。そこで矯正的に骨の吸収と添加の方向を変化させ、樹状細胞と破骨細胞の局在性を変化させることで、in situでの両細胞の分化を誘導し前駆細胞の異同を検討した。4.ヒト乳歯歯髄の樹状細胞:健常、歯根吸収期、歯冠吸収期の乳歯歯髄に多数の樹状細胞の存在を確認した。樹状細胞はヒト永久歯歯髄やラット臼歯と同じく象牙細管に突起を刺入するものが多く、特に乳歯では歯髄側の象牙質吸収野に見られるセメント質様組織の形成との関係が伺われた。当初計画した歯髄樹状細胞の所属リンパ節への移動に関する細胞化学的検討と樹状細胞の抗原物質処理経路の免疫細胞化学的検討については、今後の検討課題とした。