著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.129-156, 2017-12-30

児童ポルノ規制の保護法益に関し,わが国においては被写体児童の保護という個人的法益に基礎をおく見解が長く通説的見解であったが,2014年の児童ポルノ法改正における児童ポルノ単純所持罪の新設により,かかる観点からの理論づけが困難になっている。さらに,東京高判平成29年1月24日判例集未登載(Westlaw 文献番号:2017WLJPCA01246001)において,児童ポルノの保護法益について社会的法益から説明する裁判例も登場するなど,児童ポルノ規制を巡る状況は変化している。一方,わが国の刑法が範とするドイツにおいては,被写体児童の保護の観点を踏まえつつ,将来害される恐れのある児童の保護という観点を取り込み,仮想児童ポルノ規制や単純所持規制についての根拠づけを図っている。そこでは児童ポルノ規制の保護法益と規制目的を意識した検討がなされている。本稿は,ドイツにおける児童ポルノ規制をめぐる議論を参照し,児童ポルノ規制の保護法益と児童ポルノの規制目的を明らかにし,近時の児童ポルノ規制をめぐる諸論点について検討するものである。
著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.277-303, 2014-12-30

2014年第186回国会において児童買春,児童ポルノにかかる行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下児童ポルノ法)の改正がなされ,児童ポルノの単純所持罪が規定された。性刑法をめぐってはインターネットの発展に伴い,国境を越えた対策が必要となっている。かかる傾向において,我が国でも児童ポルノ規制が強化されるに至った。しかし,改正児童ポルノ法についてはなおも定義の曖昧さなど批判のあるところである。児童ポルノ規制については,欧米においては我が国に先だって,その定義や行為態様について規定がある。我が国の刑法が範とするドイツにおいても,1973年以降数度に渡り,性刑法に関する主要な改正がなされている。その中でも1993年,2003年,2007年改正においては児童ポルノと青少年ポルノに関連して,ドイツ刑法上重要な改正がなされている。その背景となる保護法益に関する議論や行為態様に関する議論は,我が国における児童ポルノ規制に関する法解釈および,今後の刑事立法を含めた議論において参考となる点も多い。本稿は,ドイツにおける性刑法の法状況,とりわけ,児童ポルノ規制(StGB184b条)青少年ポルノ規制(同184c条)をめぐる法状況を概観し,我が国の児童ポルノ単純所持に関して,児童ポルノマーケットへの影響という客観的な基準を用いることで,規制範囲の不当な拡大を制限することを示すものである。
著者
箭野 章五郎 髙良 幸哉 樋笠 尭士
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.377-414, 2014-12-30

責任能力が問題とされた被告人につき,事実審裁判官が,制御能力の著しい減少を認めた鑑定に基本的に従って刑法21条(限定責任能力)の適用を認めた場合に,その判決の中での理由づけについて不十分であるとし,かつ,事案に即して検討の不十分な点を示した判断,についての検討。 / 本稿は,被告人が,StGB184b条4項1文にいう児童ポルノ文書の自己調達行為2件と,それらの結果である同項2文にいう児童ポルノ文書の自己所持を行った事案について,児童ポルノ文書の所持は,当該文書の自己調達の構成要件に劣後する「受け皿構成要件」であり,それゆえ,所持という補足的犯罪による,数個の独立した調達行為を結びつける,かすがい作用は認められないとした事案の検討である。それに加えて,本稿ではキャッシュデータの保存行為および,我が国における児童ポルノの所持罪規制についても検討を加えるものである。 / 被告人が恋敵を殺そうと思い斧を投げたが,その斧が自身の妻に当たってこれを死亡させ,妻に対する殺人の未必の故意が認められた事例である。阻止閾の理論に基づき,行為者が結果の発生を是認しつつ甘受していたか否かを判断する際には,行為後の事情(斧が当たった後の妻への殴打)を考慮することはできないはずであるところ,LGは,被告人の犯行後の行為態様を考慮し,未必の故意の意思要素を是認したのである。BGHは,LGの結論に異を唱えていないものの,阻止閾の判断方法,及び未必の故意の認定方法には疑問を投じている。本稿は,殺人の未必の故意の認定に際し,近年BGHによって用いられている「阻止閾の理論」を基礎に,方法の錯誤ならびに択一的故意の議論を併せて,本判決における未必の故意の内実を考察するものである。
著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.119-130, 2014

本稿は,StGB176条4項1号の構成要件が, 行為者と被害者である児童が直接に空間的に接近しておらず,インターネットを介して露出行為を行った場合であっても,充足されるとした事案の検討である。 StGB176条4項1号は児童の「前で(vor) 」性的行為を行うことを規定しているが,ここにいう "vor" の概念については,行為者と被害者である児童の直接空間的な接近が重要なのではなく,当該行為を児童が知覚することが重要である,とすることが従来の判例の立場である。 本件は,インターネットのライブ映像配信システムによって,性的行為を中継する場合においてもこの立場が維持されることを示したものである。 本稿は,本件の検討を行い,かかる検討を通じ, 我が国におけるインターネットを介した児童に対する性的虐待と公然わいせつ型事案についても若干の検討を加えるものである。
著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.305-328, 2016-12-30

児童ポルノ法が1999年に制定されて以降,児童ポルノ法制は現在まで拡大を続けており,2014年改正において児童ポルノの単純所持罪が規定されるに至っている。しかしながら,なおも未解決の問題も存する。CGや仮想児童を扱った描写物の児童ポルノ性をめぐる議論がその代表的なものであり,近年議論になっている。児童ポルノ性をめぐっては,東京地判平成28年3月15日判例集未登載において,CGに描写児童の実在性を認める判断が我が国においてはじめて示されるなど,実務上の動きもみられる。また,我が国の刑法が範とするドイツにおいても,2015年に性刑法をめぐる改正がなされたほか,2013年,2014年には児童ポルノをめぐる重要な判例が登場している。本稿は児童ポルノ性をめぐる我が国の議論とドイツを中心に国際的動向を概観する。また,児童ポルノには児童の実在性を要するかについて,児童ポルノの保護法益を児童ポルノマーケットの拡大防止に見出す市場説に立ち検討を行い,現実性の高い仮想児童ポルノについては規制の余地があると論じるものである。
著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.119-130, 2014

本稿は,StGB176条4項1号の構成要件が, 行為者と被害者である児童が直接に空間的に接近しておらず,インターネットを介して露出行為を行った場合であっても,充足されるとした事案の検討である。 StGB176条4項1号は児童の「前で(vor) 」性的行為を行うことを規定しているが,ここにいう "vor" の概念については,行為者と被害者である児童の直接空間的な接近が重要なのではなく,当該行為を児童が知覚することが重要である,とすることが従来の判例の立場である。 本件は,インターネットのライブ映像配信システムによって,性的行為を中継する場合においてもこの立場が維持されることを示したものである。 本稿は,本件の検討を行い,かかる検討を通じ, 我が国におけるインターネットを介した児童に対する性的虐待と公然わいせつ型事案についても若干の検討を加えるものである。