- 著者
-
鬼塚 健一郎
星野 敏
- 出版者
- 農村計画学会
- 雑誌
- 農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.1, pp.67-76, 2015
- 被引用文献数
-
2
農山村地域では,過疎化・高齢化に加えて混住化や就業機会の多様化により,地域コミュニティが弱体化し,従来コミュニティが担ってきた様々な地域環境の維持・管理が困難となる地域が増加している。地縁型の町内会や各種団体だけでは解決しきれない問題に対応することを目指して新たな自治組織が設立される例が増えており,例としてまちづくり協議会等が挙げられる。また,複数集落による集落機能の相互補完や自治範囲の見直し等,新たなコミュニティの将来像を策定することを目指した「集落機能再編促進事業」(農林水産省)や,農業者だけでなく地域住民や自治会・関係団体等の多様な主体が幅広く連携して新たな活動組織を形成することを要件とした施策,「農地・水・環境保全向上対策事業」(農林水産省)など,組織変革を伴う集落機能の再編は国の事業にも取り入れられている。このように,住民自治組織の再編や新設が実施され,事業の受け皿となる事例が増えており,受け皿組織から地域住民へのスムーズな情報共有は,特に住民参加型の事業・取組における住民の理解・参加の促進のための重要な課題である。地域内での情報や知識の共有には回覧板や広報紙など様々なメディアが利用されているが,対面での情報伝達である口コミも依然として重要な手段の一つであり,その際に活用されるのが地域内のネットワークである。ネットワークは,コミュニティの持つ機能を表現する概念として多くの分野で注目が集まっている社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)に関する多様な定義においても,中心的な要素とされている。2000年以降,人や組織等の間のネットワークを定量的に評価する社会ネットワーク分析が,様々な分野で導入されつつある。社会ネットワーク分析の特徴は,社会現象を,人や組織の持つ属性や規範から説明するのではなく,人のふるまいや思考・行動を規定する要因として関係性やその強度といった社会構造から説明を試みる点にある。農山村地域において幅広く住民参加が求められる事業における情報共有の実態を明らかにすることにより,事業の受け皿組織の選定や構成等のための重要な知見を得られることが期待される。そこで本研究では,集落・旧村範囲の農山村地域においてSNS(Social Networking Service)の活用に取り組んだプロジェクト(III章にて詳述)を事例として,受け皿組織から他の住民への情報共有の実態と促進に向けた課題について,特に地域内ネットワークが活用される口コミに着目し,社会ネットワーク分析により,個人や組織で構成される社会構造から定量的に明らかにすることを目的とする。