著者
篠崎 和弘 武田 雅俊 鵜飼 聡 西川 隆 山下 仰
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

並列分散処理の画像研究を統合失調症(幻聴有群となし群)と健常者について、脳磁図の空間フィルタ解析(SAM)をつかって行った。色・単語ストループ課題では刺激提示から運動反応までの650msを時間窓200msで解析した。賦活領域は左頭頂・後頭(刺激後150-250ms)に始まり右前頭極部(250-350ms)、左背外側前頭前野DLPFC(250-400ms)、一次運動野の中部・下部(350-400ms)に終った。複数の領域が重なりながら連続して活動する様子を時間窓200msでとらえることができたが、MEG・SAM解析のこのような高い時間分解能はPETやfMRIに勝る特徴である。左DLPFCの賦活は幻聴のない患者では健常者では低く、幻聴のある患者で賦活がみられなかった。これらの結果は統合失調症の前頭葉低活性仮説に一致しており、さらに幻聴の有る群でDLPFCの賦活が強く障害されていることを示唆する。単語産生課題(しりとり)ではDLPFCの賦活が患者群でみられ健常群では見られなかったのに対して、左上側頭回の賦活は健常群でみられ患者群では見られなかった。まとめると患者群では言語関連領域の機能障害があるために代償的にDLPFCが過剰に賦活されるが(しりとり課題)、DLPFCにも機能低下があるため(スツループ課題)、実行機能が遂行できないと推論される。このような神経ネットワークの機能障害が統合失調症の幻聴などの成因となっているのであろう。今後はネットワークの結びつきを定量的に評価する方法の開発を進めたい。
著者
鵜飼 聡 石井 良平 岩瀬 真生 武田 雅俊 篠崎 和弘
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

統合失調症の治療には通常薬物療法が選択されるが、今後期待されるその他の治療法のひとつに反復的経頭蓋磁気刺激療法がある。この治療法は幻聴や陰性症状の改善に有効である可能性が指摘されているが、その作用機作は不明であり、個々の症例での有効性の予測の指標も確立されていない。本研究では脳磁図を用いた時間分解能の高い脳機能画像を得る手法を確立するとともに、それを用いて本治療法の作用機作や有効性予測の指標を確立することを最終目標として基礎的な研究をおこない、いくつかの重要な成果を得た。
著者
鵜飼 聡
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.199-205, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
36
被引用文献数
1

これまでに多様な精神疾患・病態を対象に反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)治療の臨床研究が報告されているが,その対象はうつ病に対するものが圧倒的に多く,その他,統合失調症の言語性幻聴と陽性・陰性症状,強迫性障害についてはメタ解析が報告されている。うつ病に対して,rTMS は,電気けいれん療法との比較では有効性・即効性の面で及ばないものの非侵襲的で忍容性が格段に高く,薬物との比較では遜色のないレベルの有益性があるとの報告もある。米国食品医薬品局は2008年にうつ病に対して適応に厳しい条件を付けたうえでrTMSを認可しており,今後の症例数の増加,臨床研究の発展が期待される。統合失調症の幻聴に対しては比較的良好な成績が示されているが,陽性・陰性症状および強迫性障害に対しては有益性が示されていない。外傷後ストレス障害については複数の二重盲検試験が報告されているが,現状ではメタ解析が可能なレベルの報告はない。
著者
鵜飼 聡
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.143-147, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
40

TMSを用いてヒトの皮質機能を評価する方法の中から,神経伝達物質の機能との関連が比較的強く,精神疾患の病態の検討や薬効評価の予測などへの応用が期待されるものをとりあげて紹介した。Cortical silent period の後期成分は運動皮質内のGABA-Bを介した皮質内抑制機構を反映し,統合失調症の陰性症状との逆相関や抗精神病薬による違いが示されている。統合失調症での障害が多数報告されている運動皮質への2連発磁気刺激による短潜時皮質内抑制は,主に運動皮質のGABA-Aを介したGABA性介在ニューロンの機能を反映しており,GABA系の機能異常と関連した統合失調症の病態の検討での成果が期待される。Short-latency afferent inhibition は,主に中枢性のコリン系神経伝達の機能を反映しており,認知症の診断や薬効評価の予測などの臨床応用を目指した今後の検討が期待される。