著者
辻 富基美 高橋 隼 篠崎 和弘
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.59-63, 2011 (Released:2011-06-30)
参考文献数
7

てんかん患者がもつ発作後精神病の予防にlamotrigineが有効であった3例を報告する。3症例は全て側頭葉てんかんと診断され、てんかんの発症から17~27年時に発作後精神病が出現した。発作型はいずれも複雑部分発作であり、十分な抗てんかん薬を投与したにもかかわらず、月1回以上の発作があった。精神病エピソードはこれまでに2~5回以上であったが、ラモトリギンの投与後10~12カ月の期間では精神病エピソードの再発がなかった。発作頻度はラモトリギンにより1症例は群発発作が消失し、2症例は発作頻度が減少した。この群発発作の消失、発作頻度の減少が発作後精神病の再発を予防した可能性がある。一般的にラモトリギンは精神病症状を引き起こす副作用の頻度が小さい。これらのことより、発作後精神病の予防ための抗てんかん薬として有用な可能性がある。
著者
篠崎 和弘 武田 雅俊 鵜飼 聡 西川 隆 山下 仰
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

並列分散処理の画像研究を統合失調症(幻聴有群となし群)と健常者について、脳磁図の空間フィルタ解析(SAM)をつかって行った。色・単語ストループ課題では刺激提示から運動反応までの650msを時間窓200msで解析した。賦活領域は左頭頂・後頭(刺激後150-250ms)に始まり右前頭極部(250-350ms)、左背外側前頭前野DLPFC(250-400ms)、一次運動野の中部・下部(350-400ms)に終った。複数の領域が重なりながら連続して活動する様子を時間窓200msでとらえることができたが、MEG・SAM解析のこのような高い時間分解能はPETやfMRIに勝る特徴である。左DLPFCの賦活は幻聴のない患者では健常者では低く、幻聴のある患者で賦活がみられなかった。これらの結果は統合失調症の前頭葉低活性仮説に一致しており、さらに幻聴の有る群でDLPFCの賦活が強く障害されていることを示唆する。単語産生課題(しりとり)ではDLPFCの賦活が患者群でみられ健常群では見られなかったのに対して、左上側頭回の賦活は健常群でみられ患者群では見られなかった。まとめると患者群では言語関連領域の機能障害があるために代償的にDLPFCが過剰に賦活されるが(しりとり課題)、DLPFCにも機能低下があるため(スツループ課題)、実行機能が遂行できないと推論される。このような神経ネットワークの機能障害が統合失調症の幻聴などの成因となっているのであろう。今後はネットワークの結びつきを定量的に評価する方法の開発を進めたい。
著者
鵜飼 聡 石井 良平 岩瀬 真生 武田 雅俊 篠崎 和弘
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

統合失調症の治療には通常薬物療法が選択されるが、今後期待されるその他の治療法のひとつに反復的経頭蓋磁気刺激療法がある。この治療法は幻聴や陰性症状の改善に有効である可能性が指摘されているが、その作用機作は不明であり、個々の症例での有効性の予測の指標も確立されていない。本研究では脳磁図を用いた時間分解能の高い脳機能画像を得る手法を確立するとともに、それを用いて本治療法の作用機作や有効性予測の指標を確立することを最終目標として基礎的な研究をおこない、いくつかの重要な成果を得た。
著者
角丸 歩 井上 健 篠崎 和弘 西山 等
出版者
関西学院大学
雑誌
臨床教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.15-28, 2006-03-25

WHO(2002)によると,全世界のどこの国においても自殺は10位以内の死因であり,日本においても1998年に自殺者数が一挙に年間3万2千人を越えた。自殺の危険因子については,自殺者の90%以上が最期の行動に及ぶ前になんらかの精神疾患に罹患していたことが示されており,そのうち30.2%が気分障害と診断されている。自殺行為に至るまでには,必ずといっていいほど抑うつやうつ病を合併していると考えられ,うつ病は自殺行為と非常に密接な関係があると言える。そこで,本調査ではうつ病患者46名(男性17名,女性29名,平均年齢55.2歳(26〜93歳))を対象とし,執着気質と死に関する概念に着目し,自殺企図歴の有無により比較することで自殺企図歴を有する者に特有な性格傾向を検討した。なお,本研究の最終的な目的は,将来的に「近い未来に起こるであろう自殺を予測・予防するためのスケール」を作成することであり,その基礎的研究として本調査を行った。結果,死観では死の意味,HAM-Dでは罪悪感と病識,執着気質においては極端なことをするかどうかに自殺企図歴の有無を判別できる可能性が認められた。そして企図有,つまり自殺企図のリスクが高い者に見られる傾向としては,社会における自分の生死に意味を持たせるが,それが苦しみの解放につながるとは捉えておらず,死を怖れ回避する傾向があることがわかった。また,極端なことをしない性格であり,自身の病識を持ち,罪悪感が他の人よりも生じやすいような出来事を経験しているのではないかと見受けられた。また企図有は,病識や罪悪感などから生じる,死ぬしかないといった絶望感や,死んでも苦しみからは解放されないといった絶望感をもっているとともに,生きたいと願うアンビバレントな気持ちがあり,それが死への恐怖につながっていたり,自分の生死に価値があると思ったりする傾向に結びついていると考えられた。これらの結果は,自殺企図歴のある患者に限らず自殺のハイリスク者にも適用可能であると考えられ,このようなハイリスク者に特有の不変的な性格傾向や概念を把握することは,表面化しにくい自殺のサインを治療者や家族など周囲の人々が的確に捉える一助となり,自殺者を行為に及ぶ前に予防することが可能となるのではないかと考えられる。本研究のように,まずは医療機関において対処可能である患者から自殺予防を心掛けていくことは,たいへん意義のあることと思われ,ひいては社会全体の自殺予防につながると考えられる。
著者
吉益 光一 宮下 和久 福元 仁 竹村 重輝 清原 千香子 山下 洋 宮井 信行 吉川 徳茂 清原 千香子 吉川 徳茂 篠崎 和弘 宮井 信行 山下 洋
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

児童の注意欠陥多動性障害(ADHD)の原因として、妊娠期間中の母親の飲酒や喫煙などのライフスタイル要因が注目されている。今回、ADHD の子どもを持つ母親とそうでない子どもの母親に聞き取り式の面接調査を行い、これらの要因がADHD に関連しているかどうかを検討した。結果、妊娠中の喫煙のみADHD の子どもの母親に多かったが、妊娠中の精神的なストレスや母親自身のADHD 傾向の影響を除くと、統計学的に意味のある違いは認めなかった。