著者
黒木 尚長
出版者
総合危機管理学会
雑誌
総合危機管理 (ISSN:24328731)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.84-90, 2019-03-11 (Released:2019-12-10)

入浴中の急死は高齢者で大変多く、依然として、ヒートショックが原因であると思い込まれている。今回、入浴中の事故の原因を知るべく、大阪市消防局、大阪府監察医事務所、大阪市福祉局介護保険課の協力により、データを入手し疫学調査を行った。また、高齢者3,000名を対象に入浴に関するWebアンケート調査を行った。2011~15 年でCPA 以外の救急搬送例は188 例で、溺水に至らなかった熱中症48 名、溺水140 名であった。一方、浴槽内死亡は2,063 名であった。介護保険施設等での入浴中死亡は、介助付入浴で10 名(浴槽内5名、浴槽外5名)でいずれも死因が確実な内因性急死であった。通常の入浴では8 名が浴槽内で1 人入浴中に死亡発見された。病死の否定はできないが、熱中症による急死としても矛盾はなかった。ヒートショックのように入浴直後に急死した症例はゼロであった。アンケート調査では、11%が入浴中や入浴後の異変・事故を経験し、うち84%が熱中症の症状、ヒートショックととらえられる症状は高々7%であった。42℃以上の湯での30 分以上の全身浴では体温が3℃上昇する。そのため、誰もがⅢ度(重症)熱中症になり意識障害を生じる。その後も体温上昇が続くと、細胞崩壊による高カリウム血症により心室細動が生じ急死する。このメカニズムにより、浴槽内での急死のほとんどは熱中症で説明できる。また、高齢者の入浴事故の多くは熱中症で事故経験者は湯温を下げ、入浴時間も短くする人も少なくない。高齢者の入浴中の事故の大半は熱中症で説明できる。
著者
小松 義孝 田中 秀治 櫻井 勝 黒木 尚長 櫻井 嘉信 田久 浩志 島崎 修次
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.631-637, 2017-10-31 (Released:2017-10-31)
参考文献数
11

目的:救急車を各走行条件のもと加速度が胸骨圧迫深度に与える影響と胸骨圧迫実施者の姿勢制御の効果を検討した。対象と方法:救急隊員の男性救急救命士,32人を対象に実験的研究を行った。実走行させた救急車内で胸骨圧迫を行い,直線,加減速,左右カーブで,胸骨圧迫実施者の体幹部を固定し姿勢制御した状態と非制御時の胸骨圧迫深度,リズム,胸骨圧迫位置,リコイルを比較検討した。走行中の救急車内における加速度は,加速度計を防振架台に設置し計測した。統計学的検討は各比較検討箇所で実施した5回分の胸骨圧迫時の比較項目平均値についてt検定と分散分析(p<0.05)を,また群間比較にBonferroni法(p<0.005)を用いた。結果:実施者の姿勢制御を行った群は非姿勢制御群に比べて,右カーブと減速で胸骨圧迫深度が有意に深くなった(p<0.05)。その他の評価項目に有意差はなかった。結論:実走行中の救急車内で胸骨圧迫実施者の姿勢制御をすることにより,右カーブと減速による影響が軽減され,深い胸骨圧迫が可能となった。