著者
黒瀬 陽平
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

ベンゾジアゼピンには食欲を刺激する作用のあることが報告されている。本研究では、ベンゾジアゼピン類による食欲制御機構を明らかにするために3種類の実験を行った。まず、ラットの側脳室内に1日1回定時にジアゼパム(10mug)を注入し、1日あたりの採食量を10日間にわたって測定した。その結果、ジアゼパム投与直後に一時的に採食量が減少し、再び増加したが、投与前以上の採食量の増加はみられなかった。次にベンゾジアゼピンによる中枢セロトニン神経の活動変化を調べるため、食欲中枢の存在する視床下部(室傍核)に半透膜のついたプローブを埋め込み、セロトニンとその代謝産物(5HIAA)を連続的に回収し、高速液体クロマトグラフィーによってその濃度変化を測定した。その結果、ジアゼパム(160mug)を側脳室投与したところ、ジアゼパム投与群の方が対照群に比べ5HIAA濃度が高くなる傾向がみられ、セロトニン神経の活動が高くなっていると考えられた。最後に、ベンゾジアゼピンがインスリン分泌能に及ぼす影響を調べるため、動静脈カテーテルを装着したラットに可変的にグルコース溶液を注入し、一定の高血糖値を維持することによってインスリン分泌を促した。続いてグルコース溶液注入開始90分後にジアゼパム(2.5mg/kg体重)を動脈投与し、10分ごとにグルコース注入量と血糖値を、20分ごとに血漿インスリン濃度を測定した。その結果、ジアゼパム投与はインスリン濃度の増加量には影響しなかったが、グリコース注入量を有意(p<0.05)に減少させた。すなわち、ジアゼパム投与はインスリン分泌能を高めたと考えられた。以上3種類の実験から、ベンゾジアゼピンは中枢セロトニン神経の活動変化を介して食欲およびインスリン分泌に影響する可能性が示唆された。今後の研究では、実験動物として反すう動物を用いてベンゾジアゼピンの作用機序を調べる必要がある。
著者
黒瀬 陽平 若田 雄吾 坂下 幸 寺島 福秋
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.653-658, 1998-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
16

セロトニンは,脳において神経伝達物質として存在する.中枢セロトニンは,内分泌系に影響することが示唆されている.本研究の目的は,中枢セロトニン神経の活性とグルコースに対する末梢インズリン分泌反応との関係を明らかにすることである.実験動物としてWistar系雄ラット(体重351~400g)を使用した.セロトニン合成阻害薬P-クロロフェニルアラニン(pCPA,1mg)を脳内のセロトニン合成を阻害する目的で側脳室へ投与した、グルコースに対する末梢インスリン分泌反応を,グルコースクランプ法によって,pCPA投与群および生理食塩水投与群において比較検討した、グルコース注入率(GIR)および血糖値は両者間で差がないにもかかわらず,血清インスリン濃度平均増加量(MSII)は,pCPA投与群の方が有意に低かった.グルコース注入に対するインスリン分泌の指標値(MPII/GIR)は,pCPA投与群の方が有意に低かった.本研究は,脳内のセロトニンの合成阻害による欠乏,すなわちセロトーン神経の不活化が,グルコースに対する末梢インスリン分泌反応を抑制することを明確に例証した.