著者
黒田 吉孝
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-24, 2003-05-30 (Released:2017-07-28)

本研究は初期言語発達にある自閉症児の大小概念の獲得の特徴を検討した。本研究では具体的「対」概念と抽象的「対」概念という考えを導入してこの問題を検討した。前者では、「お父さんと赤ちゃん」の人形(実験3)と、「お父さんと赤ちゃん」の言葉(実験2)が呈示された。後者では、「大きいと小さい」の言葉(実験1)が呈示された。それぞれの実験で、子どもは大きい対象を選択する必要があった。自閉症児は幼児群(平均生活年齢4:5、平均発達年齢3:1、平均発達指数69)と学齢児群(平均生活年齢14:5、平均発達年齢3:9、平均発達指数27)からなっていた。対照群は、発達年齢が2歳代と3歳代の健常児と知的障害児であった。自閉症幼児群は健常幼児群よりも成績が劣っていたが、反応傾向は健常幼児群や知的障害児群と似ていた。一方、自閉症学齢児群は、3課題とも他の群よりも成績が悪かっただけでなく、特異的な傾向をしめした。また、各実験において、彼らの中に大きい対象を選択せずに対象の名前を言うケースが比較的多くみられた。自閉症学齢児群における大小概念獲得の困難さの原因にこのような反応が関係していることを指摘した。本研究ではさらに初期言語発達にある自閉症児の具体的な「対」概念と抽象的な「対」概念の関係についても考察を加えた。
著者
黒田 吉孝
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.61-67, 1987
被引用文献数
2

自閉症の言語未獲得に対してその発達と障害によりいくつかのタイプに分類されることが指摘されている。本研究では言語未獲得の中でも自閉性障害が重篤で、伝達意図が発達しないタイプに属する事例(小学6年、女児)を対象にし、コミュニケーション活動に視点をあて、その特徴を明らかにするなかで言語獲得の困難性を検討した。コミュニケーション活動は、語の実用論的立場と場面毎の状態を分析する条件分析の立場から検討した。コミュニケーション活動はいくつかの機能カテゴリィにしたがって検討した。本児の場合、「道具的機能」は比較的容易に獲得されたが、他の機能は5年間の指導をとおしても獲得されず、コミュニケーション機能獲得の偏りがみられた。また、コミュニケーション手段としての身振り・指さしなどの自発的表現も獲得が困難であり、象徴機能とコミュニケーション機能との関係を検討する必要があると思われる。