著者
別府 哲 野村 香代
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.257-264, 2005
被引用文献数
6

Baron-Cohen et al. (1985)以後, 通常4歳で通過する「誤った信念」課題に, MA(Mental Age) 4歳の自閉症児が通過できないことが多くの研究で追試されてきた。一方, Happe (1995)は, 自閉症児も言語性MAが9歳2か月になると「誤った信念」課題を通過することを示した。本研究は, 自閉症児が「誤った信念」課題を通過して「心の理論」を形成するのは, 遅滞なのか, あるいは質的に違う内容を形成しているのかを検討することを目的とする。「誤った信念」課題であるサリーとアン課題を改変したものを通常通りに回答を求めると共に, なぜそちらを選択したかの言語的理由付けを行わせた。対象者は健常児が3〜6歳60名, WISC-IIIでの言語指数が70以上の高機能自閉症児29名(小学校1〜6年生)である。健常児は, 「誤った信念」課題に誤答するレベル(水準0), それは正答するが言語的理由付けができないレベル(水準1), 課題に正答しかつ言語的理由付けもできるレベル(水準2)の順序で発達的に移行することが明らかにされた。それに対し, 高機能自閉症児は水準0と水準2は存在したが水準1のものが1名もみられなかった。これは, 健常児が言語的理由付けを伴わない直感的な「心の理論」を発達的前提に, その後, 言語的理由付けを伴う「心の理論」を形成するのに対し, 高機能自閉症児は直感的な「心の理論」を欠いたまま言語的理由付けによる「心の理論」を形成するという, 質的な特異性を持つことが示唆された。
著者
別府 哲 野村 香代
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.257-264, 2005-12-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
7

Baron-Cohen et al. (1985)以後, 通常4歳で通過する「誤った信念」課題に, MA(Mental Age) 4歳の自閉症児が通過できないことが多くの研究で追試されてきた。一方, Happe (1995)は, 自閉症児も言語性MAが9歳2か月になると「誤った信念」課題を通過することを示した。本研究は, 自閉症児が「誤った信念」課題を通過して「心の理論」を形成するのは, 遅滞なのか, あるいは質的に違う内容を形成しているのかを検討することを目的とする。「誤った信念」課題であるサリーとアン課題を改変したものを通常通りに回答を求めると共に, なぜそちらを選択したかの言語的理由付けを行わせた。対象者は健常児が3〜6歳60名, WISC-IIIでの言語指数が70以上の高機能自閉症児29名(小学校1〜6年生)である。健常児は, 「誤った信念」課題に誤答するレベル(水準0), それは正答するが言語的理由付けができないレベル(水準1), 課題に正答しかつ言語的理由付けもできるレベル(水準2)の順序で発達的に移行することが明らかにされた。それに対し, 高機能自閉症児は水準0と水準2は存在したが水準1のものが1名もみられなかった。これは, 健常児が言語的理由付けを伴わない直感的な「心の理論」を発達的前提に, その後, 言語的理由付けを伴う「心の理論」を形成するのに対し, 高機能自閉症児は直感的な「心の理論」を欠いたまま言語的理由付けによる「心の理論」を形成するという, 質的な特異性を持つことが示唆された。
著者
別府 哲
出版者
岐阜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1994

別府(1994)は後方向の指差し理解を検討する中で、自閉症児も健常児と同様、一定の発達年齢(発達年齢1歳以上)になれば指差した方向を振り返る事は可能であること、しかし共有伝達行動(大人に指差された方向を自分も指差しながら、振り返って大人を見る)に見られる他者認識は、健常児と比較して自閉症児の弱い点で在ることを指摘した。それでは自閉症児はどのようなレベルの他者認識を持っているのか。その点を観察による他者の「振る舞いとしての理解(麻生1980)」側面から、検討することが今回の目的である。そして対象としては、通常1歳頃に見られる、他者の情動を変化させる行動(からかいtease)に焦点を当て、それが在る時期に頻発した自閉症児N児一事例を取り上げる。方法としては、保母の日誌、母親の連絡帳、月1回程度のビデオ記録(3歳0カ月から6歳7カ月迄)から、(1)N児自身の喜びや不快等の情動表出場面、(2)母親・保母・他児がN児に対して喜びや不快の情動表出を行った場面、を取り出し分析した。取り出した場面は計531場面となる。ア・からかい行動の発達:からかい行動を「他者の予期を認識しその意図的操作を含む行動(James&Tager-Flusberg,1994)」と定義すると、N児の場合は「追い掛けられるのを期待して逃げる」形で出現した。最初は、N児自身が相手を叩くことで相手がプレイフルな情動に基づいて追い掛けてくれるのを楽しんでいたのだが、途中から相手がプレイフルな情動であるかどうかと無関係に相手の行動のみを求める行動に内容が変容して行った。これを「自分の特定の行動→(相手の特定の情動→)それに基づく相手の行動」と言う、一義的な随伴性の理解による他者理解に基づくからかい行動と考える。イ・指差しの理解との関連:N児の場合、指差し理解の成立がアで述べた一義的な随伴性の理解による他者理解に基づくからかい行動出現の時期と一致し、そのレベルの他者理解との連関が想定された。
著者
別府 哲 加藤 義信 工藤 英美
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

自閉スペクトラム症の心の理論障害は、Perner(1991)によればメタ表象の問題である。しかしメタ表象を直接定義し測定した研究はほとんど無い。本研究では、工藤・加藤(2014)が開発した多義図形の1枚提示課題(メタ表象を必要)と2枚提示課題(メタ表象を必要としない)を用いてその特徴を検討した。定型発達児は4歳で2枚提示条件のみ正答率があがり、5歳で1枚提示条件も正答率が上昇する。それに対し、自閉スペクトラム症児は精神年齢4歳台で1枚提示条件はもとより、2枚提示条件も正答率が低かったことから、メタ表象の発達の遅れとともに、その発達プロセスが得意である可能性が示唆された。
著者
別府 哲
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.88-98, 1999-11-15

自閉症の問題行動に, 「他の人の怒りを引き出すことを明らかな目的として, 執拗になされる行為」 (杉山, 1990) としての挑発行為がある。挑発行為は一方では, 他の人の怒りを理解した上での行動として他者理解と関運しており, またネガテイブではあるが社会的相互作用行動の一形態とも考えられる。本研究では, 一時期挑発行為を頻発した就学前の自閉症児A児 (CA2;11〜6;5) を取り上げ, 社会的和互作用行動と他者理解の側面から事例検討を行い, 挑発行為の意味を検討した。結果は以下の通りである。(1) 社会的相互作用行動を, 始発するのが大人かA児か, そして相手の行動を引き出すために行うのか情動や意図を引き出すために行うのかで, 第I〜IV期の4つの時期を抽出した。(2) A児が始発するがまだ相手の行動を引き出すために社会的相互作用行動を行う第皿期に, 挑発行為が出現した。(3) 第IV期になると相手の意図や情動を引き出すための社会的相互作用行動が出現した結果, 挑発行為は消失し, 代わりにからかい行動が出現した。(4) 他者理解を検討したところ, 第III期には行為者としての他者理解が成立するが, 第IV期にみられる情動や意図を有する主体としての他者理解はまだみられず, その意味で第III期に特徴的にみられた挑発行為は, 他者の情動や意図を理解していないがゆえの行動と推察された。
著者
別府 哲
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

高機能自閉症の子どもに、佐久間ら(2000)、Hobson & Lee(1998)をもとにした、自己認識の半構造化面接を行った。その自己認識の回答をカテゴリーに分類し、健常児の結果と比較検討した。その際、従来臨床的に自閉症児の問題として指摘されている、他者との関係での自己認識をあらわすものとして、人格特性としての協調性(「だれとでも仲良くできる」、あるいは「いじめられている」など、他者との親密な関係について自己認識するもの)と、人格特性としての外向性(「友だちの中に自分から入っていく」、あるいは「一人でいるのが好き」など、他者と関わりを持とうとするかどうかで自己認識するもの)を指標として取り上げた。その結果、協調性、外向性のいずれの反応を示した高機能自閉症者の割合も、佐久間ら(2000)で示された健常児における反応者の割合よりは少ないこと、一方、高機能自閉症児における発達的変化を検討すると、外向性の反応を示した者の割合は、小学校高学年から中学生になるところで有意に増加することが明らかとなった。これは、高機能自閉症児が、健常児と比較した場合、他者との関係で自己を理解することに弱さを持つが、しかし小学校高学年から中学生になるところで、その弱さを発達的に改善していくことを示すものとなった。それでは、他者との関係での自己認識を促進するためには何が必要なのか。事例研究や実践分析により、仮説として、他者との情動共有経験(感覚を含め、他者と一緒に快の情動を共有できる経験)、他者との認知的共有経験(高機能自閉症児の気持ちを大人が代弁することにより、高機能自閉症児独自の思いを認知的に共有できる経験)の重要陛が示唆された。あわせて、認知的共有経験を生み出すために、高機能自閉症児自身に、自他関係を射程にとらえた自己認識(他者と違うところもあれば、同じところもある、かけがえのない自分)を形成することの実践的意味も明らかにされた。
著者
坂口 美幸 別府 哲
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.127-136, 2007-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
11 11

本研究は、就学前の知的障害児通園施設の在籍児童の母親230名を対象に、就学前の自閉症児をもつ母親のストレッサーについて明らかにした。230名の母親は、自閉症児をもつ母親(自閉群)115名とそれ以外の母親(非自閉群)115名に分けられ、ストレッサーの相違が明らかにされた。質問紙法による調査の結果は次のようになった。(1)就学前の自閉症児をもつ母親のストレッサーには、「問題行動」「サポート不足」「愛着困難」「否定的感情」という4つの因子が見いだされた。(2)「問題行動」「愛着困難」因子に関しては、自閉群のほうが非自閉群よりも因子得点が有意に高かった。「サポート不足」「否定的感情」因子は両群に有意差はみられなかった。(3)ストレス反応の得点は、自閉群のほうが非自閉群に比べて有意に高かった。本研究によって、愛着の視点も含まれた就学前の自閉症児をもつ母親のストレッサー尺度が新たに作成された。
著者
別府 哲 坂本 洋子
出版者
心理科学研究会
雑誌
心理科学 (ISSN:03883299)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.11-22, 2005

Previous researches suggested that many children with mild mental retardation became unable to attend school from the onset of puberty, because their negative self evaluation was growing stronger due to the ill treatment of surrounding people such as teachers, parents, and peers. Howerer, some studies revealed that they showed the negative self evaluation only about their academic self, but not about global self-esteem. This was a case study of a fourth grade boy with mild mental retardation, who could not go to school during the second term but was later able to do so, was analyzed from the viewpoint of the positive or negative self evaluation and the accuracy and stability of self perception. Until he began to go to school, he couldn't express both the negative and the positive self evaluation. Before that, his self evaluation was fluctuated and quickly changed according to the situation and to other's behavior. Also, his self perception was not accurate and stable. The role of significant others who effected the modification of his self perception and self evaluation was discussed.
著者
別府 哲
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.128-137, 1996-12-20
被引用文献数
2

本研究の目的は, ジョイントアテンション行動としでの後方向の指さし理解における, 自閉症児の障害を検討することである。その際, 指さしと言う行動が, 指さすものと指さされるものの関係の理解を必要とする行動であり, しかも対象を相手と共有する目的で行う行動でもあるという, 2つの能力を必要とする行動と捉える。前者の能力を調べるため, 後方向の指さし理解課題を用い, 後者の被験者が対象を相手と共有したい要求をもてる文脈を形成するために, 自閉症児も興味をもちやすいシャボン玉を指さしの対象とした。実験は, 5カ月から1歳8カ月迄の健常乳児53名, 実験では就学前の通園施設に通う自閉症鬼23名を, 各々被験者として行い, 比較検討した。その結果, (1)自閉症児も健常乳児と同様, 一定の発達年齢(1歳1カ月)以上では, 後方向の指さし理解が可能となること, (2)しかし健常乳児では同時期に, 後方向の指さしに振り返った後, 指さしや発声を伴って再び大人を見て注意を共有したことを確認する共有確認行動が半数近くの被験者に出現するのに対し, 自閉症児ではそれがほとんどみられない, という特徴が示された。自閉症児が, ジョイントアテンション行動としての指さし理解に障害を持つという結果を, 他者認識との関連で考察した。
著者
江崎 由里香 別府 哲
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.579-589, 2012-09-15 (Released:2013-10-21)
参考文献数
23
被引用文献数
1

We investigated the correlation between parent-child relationships (mother-child relationships, father-child relationships) and the concept of eating family meals together at home, and the atmosphere that existed during these meals. We interviewed 338 elementary school children. The main results were as follows: (1) Children with unstable parent-child relationships selected “I feel best when I eat meals alone at home” far more than those with stable ones. (2) Children with unstable mother-child relationships showed a marked tendency to feel discomfort during family meals, whereas those with stable ones felt comfortable. (3) The more children answered “I feel best when eating breakfast alone”, the less they indicated having actual meals together as a family.
著者
別府 哲
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高機能自閉症児における社会性障害の基底にあると考えられる、情動表出や情動理解の障害について、以下のことを明らかにした。(1)情動理解を意識的な情動処理と、無意識的な情動処理に分けた際に、自閉症児は、意識的な情動処理は高い言語能力の補償によって可能になるが、感情プライミングや表情の自動模倣にみられる無意識的な情動処理には障害を持ち続けること、よって無意識的な情動処理が一次障害と考えられることが示唆された。(2)不安な情動のコントロールは、アタッチメント関係を形成することによって可能になる。自閉症児のアタッチメント関係形成を縦断的に検討した結果、自閉症児もアタッチメント関係形成は可能であること、しかしそれが定型発達児より高い言語能力によって成立し、その際アタッチメント対象を心理的安全基地ではなく道具的安全基地と把捉するという障害による特異性も存在することが示された。(3)就学前の高機能自閉症児における自己表情写真の情動理解を検討した結果、知的に遅れのない就学前の障害児はその理解が可能であったのに対し、高機能自閉症児は障害を示すことが明らかとなった。(4)高機能自閉症児は小学生から中学生の時期にかけて、孤独感が増大し社会的コンピテンスが減少すること、定型発達児と比較すると、9,10歳の節で有意な差がみられるようになることが示された。