著者
菅野 敦
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.110-116, 2009-08

本稿では,ダウン症候群を対象に,彼らの知的機能の特性に関して生涯発達の視点から,1・加齢に伴う変化及び,2・その特性を明らかにすることを目的にした.その結果,ダウン症候群は他の原因による知的障害や自閉症と比較して精神年齢(MA)の分散が小さいこと,また,30歳台をピークにして変化が生じ,40歳台後半には有意に低くなることを明らかにした.あわせて,通過容易項目と通過困難項目の分析から,MA4歳台を変換点として,知的機能の特性に質的な違いのあることが推測された.知的クラスターによる分析から,「知覚—運動」は最も早く加齢の影響を受け10歳台後半から20歳台に著しく低下する能力であった.「物の名称の理解と表出」,「比較判断」,「数概念」は比較的高齢まで保つ能力で30歳台を過ぎて低下が示された.一方,先行研究からもダウン症候群においては困難であると報告されている「短期記憶」と高度の言語操作を要する「物の概念的理解と表現」,「文章の理解と類推」は加齢に伴い著しい低下が示される能力であった.最後に,知的障害の生涯発達研究の課題を整理した.
著者
清水 貞夫
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.2-11, 2011-05

国連・障害者権利条約の規定する「通常/一般教育システムからの非排除」「地域でのインクルーシブ教育」「必要なサポート及び合理的配慮の提供」等をどのように理解するのかを論究した.論究に当り,2010年12月に公表された障がい者制度改革推進会議『第2次意見』と中央教育審議会・特別支援教育の在り方に関する特別委員会『論点整理』を対比しつつ,障害者権利条約の批准のために求められる特別支援教育体制の制度改革は何かを明らかにした.特に,特別支援学校の設置義務者を都道府県から市町村に移管することの必要性を提起した.
著者
相澤 雅文
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.147-156, 2004-08
被引用文献数
1

高機能広汎性発達障害児(者)は、適切な支援や療育を受けられる整備された環境のもとでは、生活に適応し能力を伸張できる。一方、配慮が十分になされない状態では、その生活環境への不適応から「不登校」や「ひきこもり」の状態となる場合がある。0.8%といわれる高機能広汎性発達障害児の出現率と照らし合わせると、高機能広汎性発達障害児が「不登校」に陥る割合は、健常児と比較して高いことが指摘できる。早期の段階で適切な対応がなされない場合は、さらに重篤な「ひきこもり」の状態に陥るケースがある。本稿は、高機能広汎性発達障害児(者)が「不登校」「ひきこもり」に至ったケースを紹介し、そこから把握できる様々な問題について述べる。また、予防・改善に期待できる方策について考察する。
著者
下川 和洋
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.148-154, 2007-08

2005年11月2日、気管切開をした女児の保護者は保育園入園を求めて、入園不承諾処分を行った東大和市を相手に処分取り消しと保育園入園承諾の義務付け、および保育園への入園を仮に承諾することを求める仮の義務付け申し立てを東京地方裁判所に行った。この裁判は、「医療的ケア」が必要であることを理由に保育園入園を拒否することが行政として適切な対応なのか、という「医療的ケア」に焦点化された裁判であったと言える。仮の義務付けの判決により、女児は仮の保育園入園が実現した。また、判決では、「医療的ケア」を理由に入園を不承諾した市の対応は裁量権の乱用であるとし、措置にあたっては、個々の子どもの実態をよく検討する必要性が再確認された。 現在、「医療的ケア」を必要とする子どもたちが、地域の小学校・中学校に増えてきている。こうした中、「医療的ケア」の有無を保育や教育行政の処分・措置の条件にするのではなく、保育園や学校において適切な支援が受けられるように、自治体は一層の充実が求められる。
著者
川上 輝昭
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.154-159, 2008-08

労働能力が劣る精神や身体に障害のある者は、都道府県労働局長の許可を受けたときは最低賃金の適用が除外(最低賃金法第8条)されることになっている。その理由は、使用者の負担を軽くすることで障害者の雇用拡大を図ることができるためと説明されている。そもそも最低賃金とは、人が人として暮らしていくための最低限必要な金額であり、これを下回ることは最低生活以下の生活を余儀なくされることである。労働効率が低いために最低賃金すら保障されないという制度は、賃金の全てを使用者負担としているところに問題がある。障害者の就労に際しては賃金の一部を公的に保障していく制度が必要である。最低賃金適用除外の法律は1959年に制定されたものであり、すでに50年が経過している。障害者をめぐる国の内外の状況も大きく変化してきており、障害者がその人らしく就労を通して生きがいをもって社会参加できるよう抜本的な制度改革が必要である。
著者
船橋 秀彦 岡崎 喜一郎 鈴木 宏哉
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.122-129, 2008-08

障がい者雇用に関する全国障害者問題研究会茨城支部の研究経過(企業意識調査等)を概括するとともに、2003年から2007年までの茨城県内企業の法定雇用率に関する動向を示した。達成企業の割合は全国水準より高いにもかかわらず、実雇用率は全国レベルより低位だった。その要因を、法定雇用率未達成企業の実態から検討した。結果、(1)企業規模、(2)0人雇用企業、(3)先年から継続する未達成企業、(4)未達成企業予備軍とも呼べる「56人未満企業」、などで障がい者雇用の障壁となる問題を抱えていることが分かった。
著者
石倉 康次
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.114-121, 2008-08

就労促進に重点を置いた福祉政策には、強制をともなう狭義のワークフェア、強制をともなわないアクティベーションがある。後者の政策を取ってきたスウェーデンではその変質が起こり、就労以外の多様な支援ニーズへの対応が後退している。日本では2006年の障害者自立支援法により授産施設・作業所等で障害を持つ人の就労促進や就労移行に重点が置かれるようになったが、2004年の障害者対策基本法改定段階での自立支援の到達点からの後退を示す。知的障害者本人への調査では、(1)一般就労により経済的自立を実現できる事例はまれである、(2)作業所や授産施設は就労に向けた準備を行う施設として特化できるものではなく、それぞれの能力と価値観にあわせた就労を通した社会参加をすすめ「依存しながらの自立」(自律)を支援する場でもある、(3)一般就労に就いている人を含め、日常生活支援や相談・コミュニケーション支援も不可欠である、などが明らかとなった。
著者
近藤 直司 小林 真理子 宮沢 久江 宇留賀 正二 小宮山 さとみ 中嶋 真人 中嶋 彩 岩崎 弘子 境 泉洋 今村 亨 萩原 和子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.21-29, 2009-05

近年,青年期におけるひきこもりケースの中に発達障害を背景とするものが少なくないことが明らかになってきており,個々の発達特性や精神・心理状態を踏まえた支援のあり方が問われている.また,ひきこもりに至る以前の予防的な早期支援のあり方を検討することも重要な課題である.本稿では,まず,ひきこもり問題に占める発達障害の割合や,ひきこもり状態にある広汎性発達障害ケースの特徴について述べ,ひきこもりの発現を未然に防ぐことを目的とした予防的早期支援と不登校・ひきこもりケースへの支援における家族支援の要点について検討する.
著者
田中 智子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.21-32, 2010-02

本稿は,障害者のいる家族に生じる様々な生活問題を貧困の視点から捉えなおすことを試みる.第一に,障害者・家族の状況を貧困の視角から捉えた調査・研究はあまり見られないが,その中で成人期においても家族への経済的依存は継続していること,障害者のいる家族は,一般世帯と比較して経済的収入が低位におかれていることを明らかにした.第二に,A市における障害者の家族を対象とした調査をもとに,障害者の家族が,貧困状態に陥る構造について考察した.その結果,貧困に陥る構造としては,家計がシングルインカムによって支えられていること,本人にかかる支出が本人収入を上回ることを指摘した.貧困状態に陥った家族においては,その内外で母子一体化による孤立した状態へと帰結することをさらに明らかにした.
著者
大井 学
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.110-118, 2004-08
被引用文献数
3

高機能広汎性発達障害をもつ人の語用障害は深刻なコミュニケーションの困難をもたらす。子ども時代にこの面での適切な支援なしに成人した青年たちが示す困難は、安定した就労や円満な社会生活を脅かしかねない。高機能広汎性発達障害にともなう語用障害には、それとは気づきにくい「見えない」ケースが多い。また、彼らの語用障害はコミュニケーションのすべての領域に広がっており、かつ他の面の発達によって克服されがたい根深さを備えている。さらに、ヒトのコミュニケーションのしくみの本質的な部分での欠陥も示唆される。こうした特質により彼らの語用障害は他者とのコミュニケーションに致命的な打撃を与えることもまれでない。語用障害を補償し会話の崩壊を修復する努力が、彼らとの相互理解にとって不可欠である。この障害をもつ人どうしのコミュニケーション体験の保障、INREALを用いた他者とのコミュニケーションの分析が支援として有用である。
著者
岡崎 祐司
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.88-95, 2008-08

日本の生活保護行政においては、自立助長が就労指導と同義とされているが、公的扶助受給者への社会福祉援助(ソーシャル・ワーク)は生活保障と尊厳ある生活の回復を目的に行われるべきである。公的扶助の削減という政策目的のためにソーシャル・ワークを活用すると、福祉労働者(ソーシャル・ワーカー)の仕事を歪めることにつながる。アメリカの公的扶助引き締めの歴史的教訓に学ぶべきである。経済のグローバル化にともない雇用が流動化している。そこで、福祉受給者を就労に誘導するワークフェアとアクティベーションへの関心が高まっている。ワークフェアは、新自由主義の改革と対立的ではない。労働問題の解決に積極的であるのか、所得保障を充実させるのか、社会福祉の準市場化によって弊害が大きくなるのではないか、これら三つの論点を検討するべきである。
著者
大庭 重治
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.254-262, 2008-02

小学校における一斉指導をうけても、平仮名の読み書きを十分に習得できない児童が存在している。このような子どもたちに対する学習支援においては、読み書きの状態を的確に把握し、その状態の背景にある認知特性を理解した上で、具体的な支援方法を選定していかなければならない。しかしながら、読み書き障害児に対する支援の歴史が浅いわが国においては、このような対応は極めて不十分な状況に留まっているといえる。そこで本稿では、平仮名の書字に焦点をあて、それに関連する従来の研究成果を概観し、合わせて今後の支援に向けた検討課題を整理した。特に、書字状態を把握する際の手がかりとなる書字遂行過程モデルの構築の必要性、子どもの認知特性を理解するための体系的な検査法の必要性、内発的動機づけに基づく書字支援の重要性などを指摘した。
著者
小渕 隆司
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.298-307, 2007-02
被引用文献数
2

1歳6ヵ月児健診で経過観察となった児の乳幼児健診時に親から出された心配事について、自閉症群、高機能広汎性発達障害群、高機能広汎性発達障害サスペクト群、発達改善群の4群で心配事の内容について比較検討した。心配事は睡眠・生活リズム、食事、行動に3分類(大分類)できた。さらに大分類は感覚の指標などにより下位分類できた。大分類の(1)4ヵ月時の行動、3歳時の睡眠・生活リズム、行動に関する心配事が自閉症の、(2)3歳時の行動に関する心配事が高機能広汎性発達障害の予兆である可能性を指摘した。下位分類では(1)1歳6ヵ月時の「周囲への関心、自発的行動」、3歳時の「生活リズム」「姿勢・情動」「意図、意味理解の問題(ランドルト視力環検査)」が自閉症の、(2)3歳時の「口腔内の感覚、嚥下、咀嚼の問題」「周囲への関心、自発的行動」「意図、意味理解の問題(ランドルト視力環検査)」が高機能広汎性発達障害の予兆である可能性を指摘した。これらの予兆を踏まえ、育児に関係した事柄で養育者とつながりをもつことは、早期からの支援の糸口になる。
著者
岩間 一雄
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.27-34, 2008-05

憲法25条とその精神を体した生活保護法は、勤労原則と必要即応原則との二つの原則を含んでいる。勤労原則とは、人はすべて労働すべきものであり、それによって生計を立て得ない部分について、保護の手を差し伸べるという原則である。エリザベス救貧法の根本原則であるといえる。対して、必要即応原則は、人間存在そのものに生存権を承認し、無条件にすべての人間の生存のために必要とするところを保障するという原則である。障害者、療養者、老人、シングルマザーなどに対する援助は、まさにこの原則によるといえる。すべての人間のために生存の条件を確保しようとする思考は、現代の「基礎収入」の思想である。憲法25条は、かくて、旧い勤労原則を保持しつつ新しい「基礎収入」原理を含んでいる。現代の第二の朝日訴訟は、旧い原則から新しい原則への転換という巨大な歴史的展望の中に立つものである。
著者
三原 博光
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.35-42, 2012-11

本研究の目的は,ドイツと日本のきょうだいの個別事例の比較研究を通して,わが国のきょうだいの支援を検討することにある.ドイツのきょうだいは,障害者自身にも独自の生活があり,障害者の存在によって自分の欲求を抑えるとは考えておらず,障害者が入所施設で生活することには否定的ではなかった.日本のきょうだいは,親が障害者の世話に時間を取られ,子どもの頃,孤独な時間を過ごしていた.きょうだいは,障害者が入所施設で生活するには否定的であり,親亡き後の障害者の世話を考えていた.日独のきょうだいは,障害者の影響から医療福祉関係の職種を選ぶ傾向にあった.日本のきょうだいは,ドイツのきょうだいに比較して,障害者のことで自分の欲求を抑え,親亡き後の障害者の世話をする傾向にあった.そこで日本のきょうだいが自分の欲求を抑えずに自由に生活ができるような福祉サービスの提供が必要とされる.
著者
大田原 俊輔
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.48-54, 2008-05

平成17年(2005)年10月12日に成立した鳥取県人権条例に対しては、その内容をめぐって条例成立直後から批判的意見が続出していた。そのため開かれた同年12月と平成18(2006)年1月の2回に亘る有識者による懇話会では、「抜本的見直し相当」の意見が出され、また県弁護士会からは総会決議により同条例の施行について一切協力できないという厳しい意見が出された。このような事情により、同条例は平成18(2006)年2月の議会決定で無期限の施行凍結となっている。上記施行凍結とともに「人権救済条例見直し検討委員会」が設置されたが、同委員会は、平成18(2006)年5月2日に第1回会議を開催して以降、1年半余りの間に計18回の会議を開いて意見をとりまとめ、平成19(2007)年11月2日に知事宛の意見書を出して解散した。 本稿では、当職が鳥取県弁護士会の人権擁護委員長として上記懇話会に出席するとともに県弁護士会の意見形成に関与し、また、見直し検討委員会の会長代行として同条例の立法事実の確認と法的整理をリードしてきた立場から、同条例の問題点と課題について論じるものである。