著者
齋藤 涼平 廣江 圭史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】日常生活の中で脊柱回旋動作は多く,課題によって全脊柱が同方向へ回旋する必要もあれば,頸椎,胸椎,腰椎で,他方向の逆回旋が必要な時もある。座位での片手で対側側方へのリーチでは同方向への回旋となるが,片手の前方へのリーチでは脊柱の中で逆回旋を行うことで頭部を前方へ保持することができると考えられる。脊柱の回旋がどこの部位で逆回旋を起こしているかなど報告は見当たらない。本研究の目的は,座位での脊柱回旋動作の際に頭部固定位と非固定が脊柱回旋角度に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は整形外科的,神経学的問題を有さない健常成人男性8名(年齢25.7±4.3歳,身長172.6±3.5cm,体重64.5±3.3kg)とした。測定課題は座位での脊柱回旋動作とした。開始肢位の姿勢は骨盤前後傾中間位での座位とし課題動作中も保持するように実施した。頭部を同側へ回旋する動作(以下Open)と,正面の目印を注視して頭部を可能な限り固定した状態での脊柱回旋動作(以下Close)とした。数回の練習後,それぞれ5回ずつ実施し,非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には,三次元動作解析装置VICON370(OXFORD METRICS社製)を使用し赤外線反射マーカーをDIFF15マーカーセットに加え,第1,7,12胸椎,第4腰椎のそれぞれ棘突起から左右3cm,頭部に着用したヘッドキャップの計26箇所に貼付した。解析区間は脊柱回旋開始から終了までとして脊柱マーカーから規定した。脊柱の区間別の回旋角度として第1胸椎と第4腰椎との回旋角度差から胸腰椎部,第1胸椎と第12胸椎との回旋角度差を胸椎部,第1胸椎と第7胸椎との回旋角度差を上位胸椎部,第7胸椎から第12胸椎との回旋角度差を下位胸椎部,第12胸椎から第4腰椎との回旋角度差を腰椎部とした。OpenとCloseの2条件について各区間の回旋角度を比較検討した。統計手法には対応のあるT検定を用い,有意水準は危険率5%未満として解析を行った。【結果】最大回旋時の区間別での回旋角度は上位胸椎部でのOpenで有意に増加した(p<0.05)。下位胸椎部でのCloseで有意に増加した(p<0.05)。胸腰椎部,胸椎部,腰椎部では有意差を認めなかった。【考察】Openでは腰椎,胸椎,頸椎と同方向への回旋が上位性に積み重なっていくが,Closeでは脊柱内での回旋を腰椎からの上行性への回旋と,頸椎からの下行性への回旋が相殺することが考えられた。今回の結果からはOpenとCloseでの胸腰椎部,胸椎部,腰椎部での回旋角度は有意差が見られなかった為,頸椎部での逆回旋で相殺していることが示唆された。また上位胸椎部ではOpenに比較してCloseでは減少しており,逆に下位胸椎部ではOpenに比較してCloseでは増加している。今回は自動運動での脊柱回旋動作を行っており,Openに比較してCloseでは脊柱内での回旋に対するStabilityの要素がより必要になり,そのStabilityが確保されることで逆回旋のMobilityが獲得される(Mobility on Stability)。Closeでは頸椎部で逆回旋に対して,胸腰椎でのStabilityが必要になり,下位胸椎部の肋骨に付着している同側内腹斜筋や逆側外腹斜筋や腹横筋などの収縮がより必要であり,結果として下位胸椎部での回旋量が増加したと考えられる。胸椎は肋骨と共に胸郭を形成している。上位胸椎の肋骨に付着している筋肉は頸椎と連結し,下位胸椎の肋骨に付着している筋肉は腰椎や骨盤と連結している。これらの筋が求心性・遠心性・等尺性とコントロールされることで安定した脊柱回旋動作が行わられていると考えられる。脊柱回旋動作の分析において胸椎または胸郭を一方向の動きでは捉えず,逆回旋などねじれの力を発生することでStability高め,他の部位にMobilityを出していることなどにも着目することが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果より頭部固定位と非固定での脊柱回旋動作時に,胸椎での上位と下位の動きに変化があることが示唆された。臨床場面における評価・治療の一助となると思われる。
著者
齋藤 涼平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第36回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.177, 2017 (Released:2019-04-03)

【はじめに】ボクシングのパンチは、ジャブ、ストレート、フック、アッパーの4 種類とされている。今回左フックでの痛みが強いと訴える左肩インピンジメント症候群と診断されたボクシング選手を担当する機会を得た。各パンチ動作の動作分析を行い、患部への力学的負荷を推察し理学療法を実施したので報告する。【症例紹介】症例は30 歳代男性。職業プロボクサー、中量級の日本トップランカー。主訴は左フックの時に左肩が痛い。現病歴、1 年ぐらい前から左肩の痛みが発生、試合後に疼痛が強くなり当院受診し理学療法開始。ヘルシンキ宣言に基づき症例には同意を得た。初期理学的所見関節可動域(Lt)肩関節屈曲160°1st 外旋/60°2nd 内旋/50 °疼痛評価安静時- 動作時痛+( 左フックNRS7/10 左ストレートNRS2/10) 整形外科テスト Neer- Hawkins+ CAT+ HFT+ EPT+【理学療法および経過】3 か月後に試合が決まっておりスケジュールを考え理学療法(週2 回)を行った。1 カ月で肩関節の可動域制限の改善と肩甲骨と胸郭のmobility とstability の向上。2 か月目では、ミット打ちでの強さを向上。フォームによって疼痛がありビデオでのフォームチェック等行った。3 か月目ではよりステップを踏んだ中やスパーリング等の実践を行っていく事で、競技復帰を行った。【考察】シャドーでの動作分析を行った際に、ジャブやストレートやアッパーは両股関節での重心移動や胸郭の動きは、矢状面上の前後/ 上下系になるが、フックでは両股関節と胸郭では回旋系の動きであった。症例はインファイタータイプでステップが少なく、両股関節での回旋が少ない中で肩甲胸郭を固めてしまい肩甲骨の動きが少ない中でフックをすることで、肩甲上腕関節に負荷が増大したと考えられる。【まとめ】ボクシングのパンチの種類の力学的課題を考え、症例の動作分析を行い力学的負荷を推察し、それを軽減するための運動療法を実施することは重要と考える。
著者
齋藤 涼平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.177, 2017

<p>【はじめに】</p><p>ボクシングのパンチは、ジャブ、ストレート、フック、アッパーの4 種類とされている。今回左フックでの痛みが強いと訴える左肩インピンジメント症候群と診断されたボクシング選手を担当する機会を得た。各パンチ動作の動作分析を行い、患部への力学的負荷を推察し理学療法を実施したので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>症例は30 歳代男性。職業プロボクサー、中量級の日本トップランカー。主訴は左フックの時に左肩が痛い。現病歴、1 年ぐらい前から左肩の痛みが発生、試合後に疼痛が強くなり当院受診し理学療法開始。ヘルシンキ宣言に基づき症例には同意を得た。初期理学的所見関節可動域(Lt)肩関節屈曲160°1st 外旋/60°2nd 内旋/50 °疼痛評価安静時- 動作時痛+( 左フックNRS7/10 左ストレートNRS2/10) 整形外科テスト Neer- Hawkins+ CAT+ HFT+ EPT+</p><p>【理学療法および経過】</p><p>3 か月後に試合が決まっておりスケジュールを考え理学療法(週2 回)を行った。1 カ月で肩関節の可動域制限の改善と肩甲骨と胸郭のmobility とstability の向上。2 か月目では、ミット打ちでの強さを向上。フォームによって疼痛がありビデオでのフォームチェック等行った。3 か月目ではよりステップを踏んだ中やスパーリング等の実践を行っていく事で、競技復帰を行った。</p><p>【考察】</p><p>シャドーでの動作分析を行った際に、ジャブやストレートやアッパーは両股関節での重心移動や胸郭の動きは、矢状面上の前後/ 上下系になるが、フックでは両股関節と胸郭では回旋系の動きであった。症例はインファイタータイプでステップが少なく、両股関節での回旋が少ない中で肩甲胸郭を固めてしまい肩甲骨の動きが少ない中でフックをすることで、肩甲上腕関節に負荷が増大したと考えられる。</p><p>【まとめ】</p><p>ボクシングのパンチの種類の力学的課題を考え、症例の動作分析を行い力学的負荷を推察し、それを軽減するための運動療法を実施することは重要と考える。</p>