著者
押田 龍夫 ANTIPIN A. Maksim BOBYR G. Igori NEVEDOMSKAYA A. Irina 河合 久仁子 福田 知子 石田 彩佳 外山 雅大 大泰司 紀之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-16, 2016

北海道の北東部に位置する国後島において,北海道に広く分布する樹上性の3種の小型哺乳類(タイリクモモンガPteromys volans,ヒメネズミApodemus argenteus,キタリスSciurus vulgaris)の分布調査を行った。タイリクモモンガおよびヒメネズミの生息を確認するため,国後島の南部に位置する寒帯性の針広混交天然林に30個の木製巣箱を2年間(2013年7月〜2015年8月)設置した。加えて,2012年7月には,キタリスを目撃した経験の有無について30名の島民を対象にアンケート調査を実施した。巣箱調査の結果,タイリクモモンガおよびヒメネズミの個体或は巣材等の痕跡は一切観察されず,また,アンケート調査の結果でもキタリスを目撃したことがある島民はいなかった。国後島におけるこれら3種の分布記録はこれまでも無かったが,本島でこれまでに用いられたことのない巣箱調査法によってもタイリクモモンガ・ヒメネズミが確認できなかったことから,本島には樹上性小型哺乳類が生息しないことが改めて示唆された。更新世氷期に生じたと考えられる国後島内の森林の縮小は,これら3種を含む森林性哺乳類にとって生息の可否を決定づける重要な環境変化であり,森林の縮小に伴い森林環境によく適応した哺乳類種は絶滅したのかもしれない。