- 著者
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マハムト ハリク
増田 隆一
アブリミット アブダカディル
大泰司 紀之
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.1, pp.1-17, 2003 (Released:2008-06-11)
- 参考文献数
- 44
- 被引用文献数
-
1
中国西部のチベット高原から新疆ウイグル自治区(以後,新疆とよぶ)にかけての一帯は,旧北区産哺乳類の進化の舞台であり,現代の哺乳類群集の形成や進化の要因を解明する際の鍵となる地域である.新疆の動物群集は,チベット高原の隆起に伴う古テチス海の退行,中央アジアの乾燥化,氷河期の気候の影響などにより南北および東西の地域に地理的に隔離された.新生代(第三紀後期から特に第四紀初頭)における激しい自然環境の変化により,徐々に現在のような動物小区画の構成および生態地理的分布様式が形成された.多様な自然環境を有す新疆には7目23科136種程の哺乳類が分布している.新疆では,1980年から自然保護区制度が導入され,現在20ヶ所の自然保護区が作られている.従来の哺乳類研究には,牧畜業ならびに病原体に関係のある齧歯類に関して比較的多くの蓄積がある.しかし,近年人為的な活動が哺乳類の生息環境に影響を及ぼし,その生息域の減少と分断化が進行しているため,希少哺乳類の保護が緊急の課題となっている.特に,その起源,系統進化的歴史,形態的·生態的特徴ならびに種内の遺伝的多様性などを明らかにし,その生物学的情報に基づいた保護管理と生息地保全を施策することが必要である.