著者
石田 彩佳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.179, 2013 (Released:2014-02-14)

近年ヒトへの警戒心が薄れることによって,人為的環境に接近するキツネが増加しており,畜産や農業被害あるいはエキノコックス症の感染リスク拡大が問題となっている.そのため北海道帯広市においては,キツネは有害鳥獣駆除の対象として年間約 150頭が駆除されている.キツネにとって家禽や農作物などは容易に手に入る餌資源であるため,しばしば利用することが知られている.しかしながら,キツネがどの程度の割合で農作物・家禽等を利用しているのかについて詳細に調べた事例は少なく,農地に出現するものの農作物ではなく専らネズミ類等の餌資源を利用していた場合,キツネの駆除施策そのものを見直す必要があるかもしれない.またエキノコックス症に関しては,キツネの糞中に排出される虫卵を経口摂取することでヒトへの感染が成立するため,排糞頻度の高い場所の環境要因を明らかにし,ヒトへ積極的に注意を促すことで,キツネの駆除個体数を減らしてもエキノコックス症感染リスクの低減が可能であるかもしれない. 本研究では日本を代表する農畜産業地域である十勝地方において,キツネの糞を用いて,その食性を明らかにする.さらにエキノコックス症感染リスク低減を目指して,キツネの糞が頻繁に排泄される地点の周囲環境要因を特定する.これらを把握することで現在のキツネの個体数管理方法の妥当性を検討し,農地におけるヒトとキツネとの共存を目指すための基礎情報を呈示することを目的とした.2012年の 5月から 10月にかけて 20ヵ所の調査区について月ごとに踏査を行い,合計 247個の糞を収集した.そのうち DNA分析によりキツネのものと認められたのは 141個であった.本発表では,これらのキツネの糞を用いた食性分析の結果および位置データによる排糞頻度の高い環境要因の特徴について考察する.
著者
押田 龍夫 ANTIPIN A. Maksim BOBYR G. Igori NEVEDOMSKAYA A. Irina 河合 久仁子 福田 知子 石田 彩佳 外山 雅大 大泰司 紀之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-16, 2016

北海道の北東部に位置する国後島において,北海道に広く分布する樹上性の3種の小型哺乳類(タイリクモモンガPteromys volans,ヒメネズミApodemus argenteus,キタリスSciurus vulgaris)の分布調査を行った。タイリクモモンガおよびヒメネズミの生息を確認するため,国後島の南部に位置する寒帯性の針広混交天然林に30個の木製巣箱を2年間(2013年7月〜2015年8月)設置した。加えて,2012年7月には,キタリスを目撃した経験の有無について30名の島民を対象にアンケート調査を実施した。巣箱調査の結果,タイリクモモンガおよびヒメネズミの個体或は巣材等の痕跡は一切観察されず,また,アンケート調査の結果でもキタリスを目撃したことがある島民はいなかった。国後島におけるこれら3種の分布記録はこれまでも無かったが,本島でこれまでに用いられたことのない巣箱調査法によってもタイリクモモンガ・ヒメネズミが確認できなかったことから,本島には樹上性小型哺乳類が生息しないことが改めて示唆された。更新世氷期に生じたと考えられる国後島内の森林の縮小は,これら3種を含む森林性哺乳類にとって生息の可否を決定づける重要な環境変化であり,森林の縮小に伴い森林環境によく適応した哺乳類種は絶滅したのかもしれない。