著者
平田 昌弘 HIRATA Masahiro
出版者
食品資材研究会
雑誌
New Food Industry
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.65-73, 2011

前号Vol.53 No.6に引き続き,インドの都市と農村での乳製品の種類とその製造法,そして,乳製品の利用のされ方について紹介する。本稿では,乳のみの乳製品に様々な添加物を付加して加工した「乳菓」を概説する。そして,インドの乳加工体系の特徴を分析し,複雑なインドの乳加工体系の本質に迫ってみたい。http://www.newfoodindustry.com/information/cn11/cn17/pg260.html
著者
平田 昌弘 HIRATA Masahiro
出版者
食品資材研究会
雑誌
New Food Industry
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.73-81, 2011

インドには,ユーラシア大陸においてインドのみにしか観られない乳加工技術がある。ライム汁(植物有機酸)を凝固剤にしてチーズを加工したり,加熱濃縮系列群の乳加工を採用したりと,大変珍しい技術が存在している。また,乳製品の菓子である乳菓にも種類が多い。鴇田の報告(1992)からも分かるように,類似した乳加工技術や乳製品がインドでは多種多様に発達している(図1)。新しい乳菓を開発しようとしている菓子職人,和食と乳製品との融合を図ろうとしている開発者には,ぜひインドを訪問されてみられるとよい。斬新なアイデアが得られることであろう。 本稿と次号Vol.53 No.7ではインドの都市と農村での事例を中心にして,乳製品の種類とその加工法,そして,利用のされ方について紹介する。インド乳製品の多様性の整理を試みるために,本稿では類型分類法として,乳のみを素材とした乳製品と添加物を付加した菓子的な乳製品とを区別するために,乳のみを原材料として加工した乳製品を「乳のみの乳製品」,乳を主な材料にし,砂糖やナッツ類などを添加して加工した菓子様乳製品を「乳菓」として区別する。「乳のみの乳製品」には,酸乳,バター,チーズ,バターオイル,バターミルク,クリームなどを含み,その製造工程は乳のみを原料とした加工技術により構成される。一方,「乳菓」を加工する工程は,「乳のみの乳製品」に添加物を付加し,乳製品を様々な菓子に加工する乳加工技術となる。本稿では,インドの複雑な乳製品の土台となる「乳のみの乳製品」について先ずは報告する。http://www.newfoodindustry.com/information/cn11/cn17/pg259.html
著者
平田 昌弘 Hirata Masahiro
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会
雑誌
ヒマラヤ学誌
巻号頁・発行日
no.11, pp.61-77, 2010

The food intake of agro-pastoralists was surveyed in the hilly high altitude of Ladakh,northern India tounderstand the characteristics of those subsistence,to discuss their adaptation strategy to high altitudecircumstances and to reconsider the pastoralism theory through the case study of transhumance. The characteristicsof their food intake are 1) the daily food intake is composed by 5 times such us morning tea,breakfast,lunch,evening tea and dinner,2) they don't take any meat in normal daily life, 3) necessary nutrients are mostly suppliedby taking beans,fresh and dry vegetables,milk products and cereals,4) cereals contribute mostly to the nutrientintake,5) the intake of purchased wheat and rice become bigger than self-supplied barley,6) the milk products usedas butter salty tea and sweet milk tea has been important traditional food resources to supply fat to their intake,7)beans are important to supply protein to their intake especially in winter and spring,8) they basically use hot spicesto add strong taste to dishes. The adaptation strategy of Ladakh agro-pastoralists into high altitude circumstances issummarized from the point of food intake as 1) they could extend their life space into high altitude by utilizingcereals,cow-yak crossbred,and beans which are cultivatable in high altitude and 2) they chose not to eat meat,butto take directly cereals,vegetables,milk products to increase food efficiency maximally for sustaining a certainpopulation in such limited land area for food production as hilly high circumstances. It was considered that Ladakhagro-pastoralists put high intention into "modesty" to coexistence with more peoples in high altitude circumstances.栄養学的視点から、移牧民の生業構造の特徴を把握し、高地環境への適応戦略を考察し、移牧という事例を通した牧畜論を再考するために、インド北部のラダーク山岳地帯において移牧民世帯と定住世帯について現地調査をおこなった。食料摂取の特徴は、1)起床後直ぐの目覚めのお茶、朝食、昼食、夕方のお茶、晩食のl日5回の食事で組み立てられていること、2) 日常の食において肉は摂取されていないこと、3)肉を摂取せず、豆類、新鮮・乾燥野菜と乳製品を多用し、穀物類を摂取することにより、必要な大部分の栄養素はまかなわれていること、4)食料摂取における穀物類の貢献度は食材の中では最大であること、5) 自給する大麦よりも購入した小麦・米の方が摂取量は多くなっていること、6) 塩バター茶や甘乳茶を頻飲するために脂肪摂取において乳製品は伝統的に重要な食材となっていたこと、7) 特に冬・春において豆類の存在はタンパク質供給源としては重要であること、8) 味付けに強烈な風味を添えるスパイスを多用していること、とまとめることができる。そして、栄養摂取の視座からラダーク移牧民の高地環境への適応を分析すると、l) 穀物類、ヤク交雑種、そして、高地でも栽培可能な豆類を巧みに利用し、また、2) 限られた土地面積という山岳環境で、ある一定の人口を扶養するために肉を摂取せず、食材の利用効率を最大限に高めるために穀物類、野菜、乳製品とを摂取する戦略をとっていると、その特徴をまとめることができる。ラダークの人びとは、肉という贅沢品を食うという貪欲性よりも、より多くの人びとと共存せんがために穀物類、野菜、乳製品を食うという「謙虚性」で生きているのである。