著者
西尾 久美子 NISHIO Kumiko
出版者
京都女子大学
雑誌
現代社会研究科論集 : 京都女子大学大学院現代社会研究科博士後期課程研究紀要 (ISSN:18820921)
巻号頁・発行日
no.6, pp.17-31, 2012-03

エンターテイメント産業の人材育成と事業システムとの関連について考察するために、京都花街や宝塚歌劇などの日本の事例研究の結果とイタリアのバレエ産業の事例の調査結果とを取りあげ、国際比較する。日本とイタリアの事例の比較検討の結果から、共通点として、① 学校と興行に綿密な連携があり、育成途上の人材がその能力に応じて現場経験を重ねる仕組みがあること、② 興行経験を通じて芸術的センスが磨かれること、③ 舞台に立つことで自分の被育成者に能力の自覚を促すこと、④ 若手者の技能形成に組織内外の専門家がかかわること、の4点があげられた。一方、相違点として、イタリアのバレエ産業の人材育成では、① 海外のバレエ団で雇用されうるグローバルに通用する能力の育成を目的にした人材育成がなされていること、② 育成側の人材がグローバル化していること、③ 被育成者が就職先として国外も視野に入れていること、の3点があげられる。これらのことから、日本とイタリアのエンターテイメント産業では、① 人材育成に外部の専門家が関わりその業界に固有の専門技能について早期から育成と選抜が実施されること、② 人材育成のプロセスと興行が密接に結びつく劇場型選抜がされる仕組みを有することが指摘され、この特徴が日本とイタリアのエンターテイメント産業に長期的な継続性をもたらすと考えられる。
著者
西尾 久美子 NISHIO Kumiko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.81-93, 2013-12

本稿の目的は、日本独自のエンターテイメント事業の事例を取り上げ、その事業はどのように構築されたのかを明らかにし、日本のオリジナルのエンターテイメント事業の特色について考察することである。事例として女性だけの劇団員が演じる歌劇という形式を継続し約100年の歴史を有する宝塚歌劇と、近年日本発の新しいエンターテイメントとして着目され海外にも展開しているAKB48を取り上げる。これら二つのエンターテイメント事業には、①サービスを消費者に届ける「場」を当初から設定、②サービス提供の責任を担う人材育成の仕組みの制度化、③ファンとの関係性構築による付加価値の創出、④選抜のプロセス明示による差別化の創出、という四つの特色があることが明らかになった。The Takarazuka Revue is based in Takarazuka, Hyogo Prefecture. Its forerunner was created in 1913 by Ichiro Kobayashi, the founder of Hankyu Corp., and gave its first public performance in 1914. Each year, the revue selects 40 girls from across Japan to train at its Takarazuka Music School. It currently has about 400 members. AKB48 is a popular idol group launched in 2005 by Yasushi Akimoto, a songwriter and the producer of the group. AKB48's performing theater is in Tokyo's Akihabara area. There is also an NMB48 group in Osaka and other sister groups within and outside Japan. This study focused on the common factors shared by the two groups including that they each run own training school, own a performance theater and encourage competition between members for purpose of selfimprovement.
著者
西尾 久美子 NISHIO Kumiko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.49-62, 2010-12
被引用文献数
1

本論は、宝塚歌劇という日本独特の興行組織がなぜ発展・定着したかについて、トップスターのキャリア形成と興行の仕組みに焦点を当てて考察するものである。100年近い伝統のある宝塚歌劇団のメンバーは、宝塚音楽学校の卒業生であるという限定がある。そのため宝塚音楽学校在学中の10代後半の早い時期からスター候補生を見出し、劇団に所属後も技能進捗に応じた場を与えて育成することが可能になっている。また、この仕組みは、ファンがスター候補生を見つけることを容易にし、スター候補生をファンが応援し、自分たちで育て上げ退団まで見送ることにつながっている。さらに、スターになったタカラジェンヌは自ら退団という節目を選択するというキャリア形成の流れができている。このスター選抜システムと退出をうながす二つの機能が興行の仕組みに織り込まれていることによって、組織内の新陳代謝も促され人件費の高騰も抑えることができている。宝塚劇団の運営は、トップスターのキャリア形成と興行の形態が結びつくビジネスシステムになっているからこそ、その長期的継続につながっているといえる。This paper is considered paying attention to the structure of personnel training about how the Takarazuka, a performance organization peculiar to Japan expands. The Takarazuka is established in 1913 and she must graduate the Takarazuka music academy attached to the opera to be a member of the opera. This system is the foundation of the star selection system that the opera and also enthusiastic loves of the opera can find a future star and support her since before she enters the opera. There is also a career development mechanism that the members in the opera who are not to be a star have make a choice whether she drop out of the opera. Management of the Takarazuka opera has the personnel system which brings up the star performers continuously and this connects with the succeed of a show and make the Takarazuka a tradition of about 100 years.
著者
西尾 久美子 NISHIO Kumiko
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.69-78, 2008-12

350年継続する京都花街では、どのようなマーケティング・マネジメントがおこなわれているのか。それは、いったい何を大事にしてきたから、今日まで継続できたのだろうか。本稿では、リレーションシップ・マーケティングのフレームワークを用いて、日本の伝統産業である京都花街の一見さんお断りの取引慣行を分析し、お茶屋を中心とする取引仕組みが、顧客満足度を高め複数の事業者の取引を円滑にするとともに、事業者の提供するサービスの質そのものを高めていることを指摘する。そのうえで、おもてなしというサービスの提供に特化した地域産業が、複数の事業者間の競争と協働により、長期継続的な顧客との関係構築を志向していることを考察する。