著者
大宮 卓 小野 智子 菅原 正和 OMIYA Takushi ONO Chieko SUGAWARA Masakazu
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.99-109, 2012-03-31

茶道の歴史は長く、古くは奈良時代にまでさかのぼる。茶ははじめ、薬用として用いられたが、時代が変わると、茶を飲用だけに使うのではなく、作法と茶の精神を合わせた「茶の湯」となった。これが現代で言う茶道である。茶道の精神は「和敬清寂」にあらわされ、和して敬い合い、清らかな心を持ち、不動の精神と心を持つことによって、何事にも動じない、どんなことにもゆとりを持つだけの心の広さが生じることを指向する。そして、日常の喧騒と雑事から一時離れ、ささやかな、いっぷくのお茶をとおして"well-being"たらんとする。本研究の目的は長年茶道をたしなんできた人々(SV)と、茶道部学生(GS)、一般学生(CS)のSWB 並びにその下位6因子の相違を探求することにより、茶道が有するSWB(Subjective Wellbeing)への影響を明らかにしようとすることであった。分析の結果、SWB に影響を与える要因は加齢と茶道歴の双方であり、加齢と茶道歴のどちらか片方のみでは、SWB に影響を与えることがないことが明らかとなった。
著者
大鷹 円美 菅原 正和 熊谷 賢 Ohtaka Marumi Sugawara Masakazu Kumagai Satoshi
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.119-129, 2009

近年,我が国においては少子化と核家族化が進み,急激に人間関係は希薄化している。物が溢れている反面,子どもたちの対人関係能力やソーシャルスキルを育むことが困難になっている。不登校,ひきこもり,いじめ等の増加に歯止めがかからず家庭の中でさえ個室化し,地域社会ではお互いを知らず孤独である。親の養育力の低下に伴い,養育態度は二極化して,放任又は過保護・過干渉といった養育態度が問題となっている。一般的に,子どもが生まれて初めてこの世で出会い強い杵を形成する相手は母親およびその家族であり,家族は子どもの社会化の最初の大切な担い手となる。子どもはそのプロセスの中でソーシャルスキルを獲得していくが,特に母親がどのような養育態度で育てるかは,スキル獲得に強い影響を及ぼす。 戸ケ崎ら(1997)は,母親の拒否的な養育態度は,子どものソーシャルスキルの獲得を低くすることを報告し,Hoffman(1963)は,罪や脅しを用いて社会的行動をとらせようとする養育態度は子どもに恐怖心や怒りを引き起こし,向社会的行動を育てないと報告している。生まれてまもない乳児の行動にも様々な特徴的個人差が見られ,またそれらは乳幼児期以降も一貫性を持つことが明らかにされている(三宅,1983;Rutter,1987こうした乳幼児期の個人的特性を,HtemperamentHという概念で捉え直し,子どもの環境-の適応や対人行動の発達,愛着形成,人格形成等との相互作用を追求する研究が盛んになってきている。Temperamentに関する研究において,Thomasとchessらは9年間にわたる縦断研究HNewYorkLongitudinalStudyHにより,多くの子どもたちが元来持っていた気質的特長は何年も変わらずに残っていると結論づけた。彼らは環境要因だけでは子どもの行動障害の発生を説明しきれないとして,個人差要因の可能性を示唆し9つの気質カテゴリーを見出した(Thomas&Chess,1986)。Cloninnger(1993)らは,1988年,自ら開発した自己記入式質問紙TridimensionalPersonalityQuestionnaire(TPQ)(Cloninger,1987)を更に発展させ,TemperamentandCharacter\Inventory・(TCI)を開発した。cloninrerの気質と性格の7次元モデルにおける気質とは遺伝性であり,主として幼児期に顕われ,認知記憶や習慣形成の際に本人の意思とは無関係に行動に影響を与えるとされている。母子関係においても母からの一方的な働きかけだけではなく子どもからの積極的働きかけが関係しており,母子の相互交流が形成されることが明らかになった。村井(2002)は,子どもの問題行動が(母親の現実的育児態度ではなく)「子どもからみた親の態度」と関係していることを指摘している。子どもの気質が母親の行動特性の変化と養育態度に及ぼす影響について森下(2006)は,男児と女児では母親に及ぼす影響が異なり,男児より女児の方が影響力が強いことを報告している。次に親の養育態度研究において看過できない要因の中に,ⅠnternalWorkingModel(以下IWM)がある。Bowlby(1969,1973,1980)によると,ⅠWは,乳幼児期,児童期および思春期という重要な発達過程において徐々に形成され,少なくとも15歳までは可塑性は継続し,その後生涯を通して比較的変化は少なく持続する傾向があると考えられている。数井・遠藤(2000)は,日本人母子を研究対象として,親の愛着が子の愛着にどのように影響を及ぼすかという注目すべき愛着の世代伝達を調べた。その結果,自立・安定型の母親の子どもは,不安定型の母親の子どもよりも愛着安定性が高いことと,相互作用や情動制御においてポジティブな傾向が高くなるという世代間伝達傾向の存在を報告している。金政(2007)は,青年期をむかえた子どもと母親双方の愛着スタイルを検討した結果,母親の愛着スタイル-母親の養育態度の認知-子どもによる母親の養育態度の認知-千どもの愛着スタイルというプロセスを辿って愛着の世代間伝達が起こり得るとしている。養育の送り手と受け手が変わったとしても,愛着スタイルと養育態度との関連性が変化することなく,つまり養育の受け手である子どもが,親となった際に,自身が親から受けた養育態度の認知によって形成された愛着スタイルが自身の子どもに対する養育態度に同様の形での愛着の伝達が継承されていくと報告している。 IWM のタイプについてはAinsworthら(1978,1991)により,乳幼児期の愛着パターンを安定型(secure),アンビバレント型(ambivalent),回避壁(avoidant)の3タイプに分類され,その後の対人関係のスタイルやパーソナリティの形成に影響していくと考えられている。Hazan,C.とshaver,p.(1987)は,現在の自己にあてはまる愛着の分類と想起した過去の愛着の質との関わりは,現在の対人関係スタイルや社会的適応性との関連性があることを指摘している。IWM とソーシャルスキルの研究において,相谷ら(2000)はsecure得点が高いものはソーシャルスキルが高くなり,ambivalent且つavoidant得点の高いものはソーシャルスキルが低くなると報告している。三浦(2003)は子どものIWM の安定性が学校適応に影響を及ぼし,また養育者からの暖かい指示(情緒的指示)を高く認知する子どもは社会的ルールを受け入れやすくなることから,IWM は学校適応にも影響を及ぼすとしている。ソーシャルスキルに影響を及ぼしていると思われる要因に養育態度がある。戸ケ崎(1997)の研究では,母親の養育態度一家庭におけるソーシャルスキル-学校における社会的ソーシャルスキル-クラス内地位というモデルが探索的に支持された。 かくして,気質・養育態度・IWM ・ソーシャルスキル等に関する研究は個々になされているが,気質・養育態度・IWM ・ソーシャルスキルの因果関係を総体的に明らかにした研究は皆無に等しい。そこで本研究は,中学生・大学生を調査対象に社会化の最小単位と考えられる母子関係に注目して,生得的であるといわれる気質に焦点をあて,「損害回避」と「中学生・大学生から見た二極化した極端な養育態度」「IWM」の構造を明らかにし,如何なる要因が「ソーシャルスキル」の低下に影響を与えるかを共分散構造分析のモデリングによって解明しようとする。
著者
藤原 哲 菅原 正和 FUJIWARA Satoshi SUGAWARA Masakazu
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.9, pp.109-116, 2010

心理学における「不安」の研究には膨大な蓄積があるが、"あがり"は「不安」に比して一過性であり、神経生理学的指標を用いれば一見取り扱い易いように見える。しかし"あがり"に対応する英語の定訳はなく,定義はまだ曖昧である(有光,2001,2005)。大勢の人前での発表,入学試験,大舞台や大試合のとき等,人は所謂"あがり"を経験する。プレッシャーに耐えられず、準備し考えていたことがどこかに飛んでしまって、頭が真っ白になる人がいる一方、めったに"あがらない"人も確かに僅かながらいる。"あがり"のメカニズムを科学的に究明しようと試みるようになったのは東京オリンピック以後であり、あがってしまい萎縮して普段の力が発揮出来なくなる日本人と、本番に力を発揮する欧米選手との違いが注目された。ところで"あがり"の定義は様々である(例:不安は「不結果(最悪の事態)に対する恐れに支配されて,落ち着かない様子」とある一方、"あがり"は「血が頭に上がる意,のぼせて普段の落ち着きを失うこと」(金田一ら,1997)とある。スポーツ研究を通して市村(1965)は,「スポーツ競技前に経験される自律神経系の緊張,心的緊張,運動技能の混乱,不安感情といった要因の複合的な心理学的および生理的現象」とし,野和田(1994)は,不安との関係を重視し「実際の、あるいは潜在的な他者の存在によって評価の対象となる状況において生理的変化をともない、行動の結果を予測することから生じる不安感や期待感を含んだ状態」と定義している)。"あがり"には,自分が評価される場面において他者を意識し,身体的,生理的な変化を伴う。有光の「当落や社会的評価など自分自身に否定的評価を受ける場面で,他者を意識し,責任感を感じ,自己不全感,身体的不全感,生理的反応や震えを経験することであり,状況によって他者への意識や責任感の程度が変化すること」(有光,2005)という定義はよく纏まっている。菅原(1984,2005)は,"あがり"を「コミュニケーション不安」のなかの,人前で自信がもてないときに経験する「対人緊張」というカテゴリーに含ませて考えている。"あがり"と混同されやすい情動語「緊張」は神経生理学的要素であり,"あがり"と不可分である。"あがり"を測定する尺度としては,スピーチ状況におけるPRCS(Personal Report ofConfidence as a Speaker; Paul,1966 ), テスト状況におけるTAS(Test Anxiety Scale;Sarason,),コミュニケーション状況におけるSCAM(Situational Communication Apprehension Measure;McCroskey & Richmond, ),演奏状況におけるPAQ(Performance Anxiety Questionnaire; Cox &Kenardy,1982)等が用いられてきた。
著者
佐々木 正輝 菅原 正和 SASAKI Masaki SUGAWARA Masakazu
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.107-117, 2009

文部科学省のアンケート調査(2008)では,いじめられたことを親や教師にいう児童は約3割弱,いじめられた児童が在籍する学級の担任教師の約4割が「自分の学級にいじめはない」と答えている現状を指摘している。教師が日常の教育実践の中で行う児童理解は,日常観察や言葉かけなどの面接法が主となっており、児童の表面的な行動や態度だけを見て「自分の学級にいじめはない」などと判断するのは危険である。いじめや不登校等の問題が生じてからから対応する後追い型の指導-ではなく,児童同士のふれあいを深め,問題を起こさない予防的指導の重要性が指摘されている。囲分.・中野(2000),図分.・図分(2004)の「育てるカウンセリング」は,いじめや不登校の予防を意識して考案されたカウンセリング技法である。学級における望ましい人間関係づくりに有効と思われる構成的グループ.・エンカウンター(SGE)のねらいは,エンカウンターの具体的な体験である自己知覚,感情表現,自己主張,他者受容,宿頼感,そして役割遂行をとおして,参加者間の人間関係をつくり,参加者の自己発見を促進し,人間関係を援助することである。本研究は,SGEの継続的な実施によって,小学生の学校生活満足度や,学校生活意欲度に及ぼす影響を検証し,学校心理士やスクールカウンセラー(SC)の介入法の一助になることを目指している。 SGEの実施効果を検証した報告は多数あるが<例えば,石隈,1999 ; 四杉・加藤,2003 ; 田上,2003a,2003b>,本研究の特徴は,(i)学級担任以外のリーダーが学級のアセスメントを行い,SGE実施後の学級担任-のコンサルテーションの有効性を検証していることと,(ii)学校現場は,即効性.・実効性をどうしても求めるので,吹の3点を注視しながら,SGEが学校生活満足度,学校生活意欲度の向上にどの程度影響を及ぼすかを分析した点にある。 (1) 3校10クラスにおいてSGEエクササイズを学級活動や道徳活動に盛り込み,約1か月程度の短期集中プログラムとした。 (2) 実施前(Pre),実施後(Post),フォローアップ(For)データを取り,各クラスの担任の先生方とコンサルテーションを行い,効果を確認しながら実施した。 (3) 担任以外の外部講師(学校心理士:筆者)が仝10クラスを3時間ずつ(45×3)sGEを実施。これによりスクールカウンセラー(SC)等の学級への介入の方法を探った。