著者
大鷹 円美 菅原 正和 熊谷 賢 Ohtaka Marumi Sugawara Masakazu Kumagai Satoshi
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.119-129, 2009

近年,我が国においては少子化と核家族化が進み,急激に人間関係は希薄化している。物が溢れている反面,子どもたちの対人関係能力やソーシャルスキルを育むことが困難になっている。不登校,ひきこもり,いじめ等の増加に歯止めがかからず家庭の中でさえ個室化し,地域社会ではお互いを知らず孤独である。親の養育力の低下に伴い,養育態度は二極化して,放任又は過保護・過干渉といった養育態度が問題となっている。一般的に,子どもが生まれて初めてこの世で出会い強い杵を形成する相手は母親およびその家族であり,家族は子どもの社会化の最初の大切な担い手となる。子どもはそのプロセスの中でソーシャルスキルを獲得していくが,特に母親がどのような養育態度で育てるかは,スキル獲得に強い影響を及ぼす。 戸ケ崎ら(1997)は,母親の拒否的な養育態度は,子どものソーシャルスキルの獲得を低くすることを報告し,Hoffman(1963)は,罪や脅しを用いて社会的行動をとらせようとする養育態度は子どもに恐怖心や怒りを引き起こし,向社会的行動を育てないと報告している。生まれてまもない乳児の行動にも様々な特徴的個人差が見られ,またそれらは乳幼児期以降も一貫性を持つことが明らかにされている(三宅,1983;Rutter,1987こうした乳幼児期の個人的特性を,HtemperamentHという概念で捉え直し,子どもの環境-の適応や対人行動の発達,愛着形成,人格形成等との相互作用を追求する研究が盛んになってきている。Temperamentに関する研究において,Thomasとchessらは9年間にわたる縦断研究HNewYorkLongitudinalStudyHにより,多くの子どもたちが元来持っていた気質的特長は何年も変わらずに残っていると結論づけた。彼らは環境要因だけでは子どもの行動障害の発生を説明しきれないとして,個人差要因の可能性を示唆し9つの気質カテゴリーを見出した(Thomas&Chess,1986)。Cloninnger(1993)らは,1988年,自ら開発した自己記入式質問紙TridimensionalPersonalityQuestionnaire(TPQ)(Cloninger,1987)を更に発展させ,TemperamentandCharacter\Inventory・(TCI)を開発した。cloninrerの気質と性格の7次元モデルにおける気質とは遺伝性であり,主として幼児期に顕われ,認知記憶や習慣形成の際に本人の意思とは無関係に行動に影響を与えるとされている。母子関係においても母からの一方的な働きかけだけではなく子どもからの積極的働きかけが関係しており,母子の相互交流が形成されることが明らかになった。村井(2002)は,子どもの問題行動が(母親の現実的育児態度ではなく)「子どもからみた親の態度」と関係していることを指摘している。子どもの気質が母親の行動特性の変化と養育態度に及ぼす影響について森下(2006)は,男児と女児では母親に及ぼす影響が異なり,男児より女児の方が影響力が強いことを報告している。次に親の養育態度研究において看過できない要因の中に,ⅠnternalWorkingModel(以下IWM)がある。Bowlby(1969,1973,1980)によると,ⅠWは,乳幼児期,児童期および思春期という重要な発達過程において徐々に形成され,少なくとも15歳までは可塑性は継続し,その後生涯を通して比較的変化は少なく持続する傾向があると考えられている。数井・遠藤(2000)は,日本人母子を研究対象として,親の愛着が子の愛着にどのように影響を及ぼすかという注目すべき愛着の世代伝達を調べた。その結果,自立・安定型の母親の子どもは,不安定型の母親の子どもよりも愛着安定性が高いことと,相互作用や情動制御においてポジティブな傾向が高くなるという世代間伝達傾向の存在を報告している。金政(2007)は,青年期をむかえた子どもと母親双方の愛着スタイルを検討した結果,母親の愛着スタイル-母親の養育態度の認知-子どもによる母親の養育態度の認知-千どもの愛着スタイルというプロセスを辿って愛着の世代間伝達が起こり得るとしている。養育の送り手と受け手が変わったとしても,愛着スタイルと養育態度との関連性が変化することなく,つまり養育の受け手である子どもが,親となった際に,自身が親から受けた養育態度の認知によって形成された愛着スタイルが自身の子どもに対する養育態度に同様の形での愛着の伝達が継承されていくと報告している。 IWM のタイプについてはAinsworthら(1978,1991)により,乳幼児期の愛着パターンを安定型(secure),アンビバレント型(ambivalent),回避壁(avoidant)の3タイプに分類され,その後の対人関係のスタイルやパーソナリティの形成に影響していくと考えられている。Hazan,C.とshaver,p.(1987)は,現在の自己にあてはまる愛着の分類と想起した過去の愛着の質との関わりは,現在の対人関係スタイルや社会的適応性との関連性があることを指摘している。IWM とソーシャルスキルの研究において,相谷ら(2000)はsecure得点が高いものはソーシャルスキルが高くなり,ambivalent且つavoidant得点の高いものはソーシャルスキルが低くなると報告している。三浦(2003)は子どものIWM の安定性が学校適応に影響を及ぼし,また養育者からの暖かい指示(情緒的指示)を高く認知する子どもは社会的ルールを受け入れやすくなることから,IWM は学校適応にも影響を及ぼすとしている。ソーシャルスキルに影響を及ぼしていると思われる要因に養育態度がある。戸ケ崎(1997)の研究では,母親の養育態度一家庭におけるソーシャルスキル-学校における社会的ソーシャルスキル-クラス内地位というモデルが探索的に支持された。 かくして,気質・養育態度・IWM ・ソーシャルスキル等に関する研究は個々になされているが,気質・養育態度・IWM ・ソーシャルスキルの因果関係を総体的に明らかにした研究は皆無に等しい。そこで本研究は,中学生・大学生を調査対象に社会化の最小単位と考えられる母子関係に注目して,生得的であるといわれる気質に焦点をあて,「損害回避」と「中学生・大学生から見た二極化した極端な養育態度」「IWM」の構造を明らかにし,如何なる要因が「ソーシャルスキル」の低下に影響を与えるかを共分散構造分析のモデリングによって解明しようとする。
著者
久次米 真吾 野呂 眞人 中島 香織 板倉 英俊 森山 明義 沼田 綾香 熊谷 賢太 酒井 毅 手塚 尚紀 中江 武志 原 久男 坂田 隆夫 杉 薫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.97-107, 2005

<BR>【症例】33歳,女性.<BR>【主訴】動悸.<BR>【経過】生後より,全内蔵逆位・右胸心・右室性単心室・肺動脈弁狭窄症・共通房室弁閉鎖不全症と診断され,3歳時にBlalock-Taussig短絡術を,8歳時にWaterston手術を受けている.23歳時に心房内リエントリーを機序とする心房頻拍(AT)に対してカテーテルアブレーション(CA)を行い,以後,動悸は消失した.最近,週に1回程度の動悸を自覚するようになり来院,Holter心電図でQRS幅の狭い持続性頻拍を認めたため入院した.電気生理学的検査の結果,この頻拍は,前回と類似した房室接合部近傍を起源とするATであり,少量のATPで停止した,AT中の最早期興奮部位に通電したところ,通電中にATは停止し,その後は誘発されなくなった.<BR>【まとめ】成人期まで生存し得た右室性単心室症例に合併した,AT再発例に対するCA成功例を経験したので報告する.
著者
熊谷 賢太 杉 薫 円城寺 由久 坂田 隆夫 川瀬 綾香 酒井 毅 手塚 尚紀 中江 武志 高見 光央 野呂 眞人 池田 隆徳 平井 寛則
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.114-119, 2002

症例は25歳男性.突然死の家族歴あり.繰り返す失神の精査目的に入院.標準12誘導心電図では下壁誘導と側胸部誘導に0.2mVのST上昇と下壁誘導でQRS終末にnotchを認めた.Holter心電図で最短R-R間隔が200msで最大15連発の非持続性心室頻拍が認められた.エドロフォニウム投与下の右室流出路からの2連早期刺激で血行動態破綻を来す多形性心室頻拍が誘発された.各種検査で器質的心疾患を認めなかったが,失神の既往がありICD植込みを行った.ICD植込み後の失神時心内心電図記録で心室細動が確認された,植込み後約2年の観察期間中Brugada様の心電図特徴(右胸部誘導のST上昇,不完全右脚ブロック)は認められなかったが,pilsicainide負荷によりV2誘導でcoved typeのST上昇が生じNa channelの障害が示唆された.典型的心電図特微を示さず注意すべきBrugada症候群の一亜型と考えられたので報告する.
著者
小樽 麻美 溝口 記広 小柳 傑 陣貝 満彦 渡邊 佳奈 一ノ瀬 真弓 赤垣 武史 熊谷 賢哉
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.52, 2006 (Released:2007-05-01)

【はじめに】内側縦アーチが低下した状態は、足部や膝関節の障害を生じる原因となっており、下肢や骨盤などに及ぼす影響についての報告も散見される。また臨床現場において、内側縦アーチが低下した症例で股関節の関節可動域制限も生じている例を経験することがあった。そこで今回は、内側縦アーチが低下した状態が股関節に及ぼす影響について、内側縦アーチ正常群との比較検討を行った。【対象と方法】対象は健常成人5名(男性2名、女性3名、平均年齢23.4±2.4歳)の内側縦アーチ正常群(以下、正常群)と、健常成人5名(女性5名、平均年齢25±3歳)の内側縦アーチ低下群(以下、低下群)とした。内側縦アーチはアーチ高率を算出し、毛利らの先行研究を基に11%以上を正常群、11%以下を低下群とした。検査項目は、1)開排可動域:一方の下肢を伸展し、反対側の下肢のみを開排した。この時、開排した側の踵部が伸展側の膝関節に接するように位置させた。この状態で、脛骨外側顆と床との距離を測定した。2)股関節関節可動域3)Q-angle 4)股関節内外転筋力比:HHD(日本メディックス社製パワートラックII)を用いて測定を行った。測定方法は、Danielsらの徒手筋力検査に準じて、側臥位にて股関節内・外転筋をそれぞれ測定した。抵抗は、大腿の最大遠位部にHHDを当て、各筋の等尺性収縮の筋張力を測定した。測定は各筋において3回行い、その平均を測定値とした。股関節内・外転筋それぞれの測定値において外転筋筋力を内転筋筋力で除し、股関節内外転筋力比とした。【結果】股関節内旋可動域の平均値は正常群で41±14°、低下群では53±12°と低下群で大きかった。また、開排の平均値では正常群で4.6±2.9cm、低下群では6.05±2.05cmと低下群で大きかった。Q-angleの平均値では、正常群で10.4±9.6°、低下群で17±18°と低下群で大きかった。筋力については、股関節内外転筋力比の平均値が正常群で1.55±0.79、低下群で1.23±0.25と低下群において小さかった。【考察】今回、低下群において開排可動域が制限されるという結果が得られ、股関節内旋角度やQ-angleについても平均値が大きかった。内側縦アーチが低下することにより後足部が回内し、下腿内旋、膝関節外反し、股関節が内転・内旋位をとるアライメント変化がおこる。その結果、開排制限が生じることが推察される。また、筋力に関しては低下群において股関節のアライメント変化により股関節外転・外旋筋の筋力が低下し、内外転筋力比が減少したと推察される。本研究において、内側縦アーチの低下が下肢アライメントや股関節周囲筋の走行に変化を及ぼし、股関節関節可動域や股関節筋力に影響を及ぼしていることが考えられた。今後は、本研究結果を基に臨床でのアプローチにおいて活かしていきたいと考える。
著者
榎本 善成 野呂 眞人 伊藤 尚志 久次米 真吾 森山 明義 熊谷 賢太 酒井 毅 坂田 隆夫 杉 薫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.2, pp.S2_111-S2_116, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
12

症例は29歳,男性.17歳時に不整脈原性右室心筋症(ARVC)による心室頻拍(VT)から心肺停止となり,植込み型除細動器(ICD)を植え込み経過観察していた.2011年3月11日の東日本大震災以降,動悸の訴えあり3月14日ICD作働を認めたため,当院緊急入院となった.入院時心電図は,左脚ブロック型,右軸偏位のHR100台の心室頻拍(VT)であり,over-drive pacing,各種抗不整脈投与でも停止しないため鎮静下でVTコントロールを開始した.約1週間の鎮静でコントロール後,持続するVTは消失したため,第48病日に独歩退院となった.しかし,その後も心不全悪化のために短期間で再入院を繰り返し,6月4日に再入院となった.心臓超音波検査(UCG)では,右心系の著明な拡大のみならず左室駆出率10%程度の両心不全の状態であり,入院後再度VT storm状態となった.鎮静下でのコントロールも無効であったため,補助循環装置(PCPS)導入したが,VT stormが鎮静化することなく,死亡した.震災を契機にVT storm状態となり心機能悪化が助長されたARVCの1例を経験した.