著者
荒尾 禎秀 Yoshihide ARAO 清泉女子大学 SEISEN UNIVERSITY
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 = BULLETIN OF SEISEN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE FOR CULTURAL SCIENCE (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
pp.23-40, 2020-03-31

近世から近代にかけて刊行された漢文資料の中には、補読のための訓点の他に本行の漢字語の左側に振仮名のようにして訳解を付したものが少なからずある。この訳解の性格については、その付された漢字語の意味内容を補足するものだとされることが多い。しかしその証明は十分ではなく、訳解の性格や機能については未だ十分には明らかにされていない。本稿は、この訳解が口語的性格を持つことを確認した。 用いた資料は、中国版本を江戸時代後期に和刻した『福恵全書』である。その漢字語の左側に付された訳解に出現する助詞「ヘ」の多くが、同じ漢字語の漢文訓読としての助詞は「ニ」であることを指摘した。これまで、近世江戸言葉では口語に於いて助詞「ヘ」の使用は格助詞「ニ」の領域を著しく浸蝕していることが明らかにされている。『福恵全書』での事実もそれと軌を一にしている。ここから両者を重ね合せると、訳解に用いている助詞は漢文訓読の伝統的な助詞の用法に対して口語によるものであると考えられる。