- 著者
-
Norio Niwa
丹羽 典生
- 出版者
- 国立民族学博物館
- 雑誌
- 国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.4, pp.625-682, 2020-03-16
人類学が学問として制度的に確立する前の移行期にはさまざまな探検という調査プロジェクトが存在していた。本稿では,そうしたなかでも日本人博物学者朝枝利男の参加したアメリカの探検隊に注目したい。朝枝利男は,多様な経歴を経た人物であるが,1923 年の渡米後,アメリカで活躍した博物学者・学芸員とさしあたりまとめられる。彼は,剥製から水彩画と写真撮影までの多才な博物学的技術を身に着けていたことから,1930 年代に企画された半ば私的な調査隊に数多く参加していた。その結果,数多くの博物学的な写真と水彩画を残している。しかしそれらは世界各地の博物館に散在して資料としての整理の段階から進められていないままにおかれている。そこで本稿では,以下3 点を目的としたい。まず,これまで基礎的な資料整備の水準で取り扱われていなかった朝枝利男コレクションの資料が作られた背景を精査することで,資料としての特徴を明確化すること。その際,あわせていまではほぼ忘れられた朝枝利男の活動を傍系的に復元すること。そして最後に,本稿からみえてくるアメリカで行われた史的探検に関わる資料を読み解くに際しての留意点を指摘することである。