- 著者
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並松 信久
- 出版者
- 京都産業大学
- 雑誌
- 京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, pp.25-53, 2017-03
わが国における栄養学の創始者は佐伯矩である。しかし佐伯に関する先行研究は数少ない。その理由は二つある。一つは栄養が強く意識されたのが、震災時(関東大震災)や戦争時であり、平常時には意識されなかった点である。二つは佐伯には体系的な著書がなかった点である。 本稿は佐伯の事績をたどることによって、栄養学の形成過程を考察した。佐伯の栄養への関心から始め、栄養研究所の設立と展開、学会や栄養士の設置などを中心にして考察した。佐伯は震災や戦争という非常時に、食物と人間の関係を見直した。それによって単に食物が多くあればよいというのではなく、人間が食物から効率よく栄養摂取することを考えた。 佐伯は効率の良い栄養摂取を実験やフィールド調査によって明らかにすることによって、科学としての栄養学の確立に努めた。佐伯の試みは栄養学の体系化に至ったとは言い難いかもしれない。しかし国内外に栄養概念を広め、栄養研究所・栄養学会・栄養学校などの制度に対する貢献は大きいものがあった。