著者
矢板 晋
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.433-455, 2012-12-26

外国人子弟が日本の教育に関する場面において不利益を被る,すなわち周 辺化(marginalize)するのはなぜか。この点について,栃木県真岡市に着目 し,ラベリング論,言語コード論,文化的再生産論,社会関係資本論による アプローチを試みた。 データは,筆者が2010年8~9月に栃木県真岡市で行った調査に基づく。 調査対象は真岡市内の市立小学校2校,市立中学校1校,教育委員会,真岡 市国際交流協会(MIA),NPO団体2つである。調査方法は学校の日本語教 室やNPO主催の地域日本語教室での参与観察,各担当教員やNPO団体の代 表者,教育委員会,国際交流協会に対する構造化面接調査と半構造化面接調 査である。 同調査によると,外国人子弟の周辺化には以下の4つの要因が考えられる。 第一に,積極的ラベリングと消極的ラベリング,つまり,外国人に対する偏 見と「日本人と同様」に扱うラベリングである。第二に,児童生徒の限定コー ドとしての日本語の不習得と教師の使用言語の無差別性である。外国人子弟 が日本において普段の生活に必要な限定コードを習得できていない点や,教 師が授業で用いる言語に限定コードや精密コードを区別していない点が確認 された。第三に,「接触」「適応」「継続」の各段階における必須要素の欠如で ある。外国人子弟が日本の教育現場に定着するには,まず学校と「接触」し, 次に学校生活に「適応」,最後に「継続」して学校に通い続けるという3段階 が存在する。その各段階でアイデンティティや言語資本,社会関係資本が不 足する現状がある。第四に,外国人子弟の教育をめぐる社会関係資本の「限 定」「陥没」「拒絶」である。すなわち,社会関係資本が日本人同士あるいは 外国人コミュニティ内に「限定」して存在する場合,またはうまく外国人が 日本人と接触できたとして,その日本人どうしの関係が「陥没」している場 合,さらに外国人側がホスト社会との関係を「拒絶」する場合が確認された。 2012年8月下旬に再度真岡市を訪問した際には,「接触」段階における社会 関係資本の「陥没」の改善が見られた。今後もこうした社会・文化的側面か らの解決が重要となるだろう。

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