- 著者
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鈴木 仁
- 出版者
- 北海道大学文学研究科
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.1-23, 2016-01-15
本論は、昭和期に内地で広まった郷土教育運動を背景に、「外地」樺太における郷土研究・郷土教育の活動をまとめた。内
地では、文部省により昭和五年度からの十二年度までに、師範学校への研究設備施設費の補助や、講習会の開催が実施され、
民間団体の郷土教育連盟による普及啓発が、各地の学校、教職員に影響を与えた。そこには、明治期からの地方(郷土)研
究の実績を教育への実践に取り入れ、郷土愛からの愛国心涵養の目的があった。「外地」である樺太は、教育行政を樺太庁が担っており、文部省の補助は適用されていないが、教職員は独自の郷土教育活動を模索している。他の「外地」が、郷土教育において重要視された「地域性」と、愛国心涵養を目指した「同化」との矛盾を抱えているのに対し、住民の九割以上が日本人(内地人)である樺太では、内地と同じく日本人子弟を対象とした教育政策がとられていた。だが、日本人移民の入植が広がることで新に社会が形成された樺太には、内地のような「郷土史」や、郷土研究の蓄積を有しておらず、郷土教育では樺太の「郷土像」を作り上げることが課題となる。本論は、第一節で樺太における郷土研究と郷土教育の活動についてまとめ、第二節では郷土教育の教授方法の一つである「郷土読本」について、編纂の記録や残された資料を事例に取り上げた。第三節では郷土史としての樺太史の研究と顕彰、教育への導入について、豊原中学校・樺太庁師範学校の校長となった上田光の発言、事績から、「郷土像」の形成過程を考察している。