- 著者
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新井 かおり
- 出版者
- 北海道大学アイヌ・先住民研究センター
- 雑誌
- アイヌ・先住民研究 (ISSN:24361763)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, pp.57-74, 2022-03-01
現在、アイヌと「共生」という用語は頻繁に結び付けて語られるが、多義的に解釈される言葉である「共生」の意味や、その内実についての議論はほとんど存在しない。本論では後に二風谷(にぶたに)ダム裁判となった、貝沢正(かいざわただし)の二風谷ダムの問題に関する最晩年の記録などから、二風谷ダム問題における貝沢の「共生」の内実を探った。その結果、貝沢にとっての「共生」のナラティブは、アイヌの生きた土地と人々の尊重のためであり、ローカルな文脈に依拠し具体的に語られていることを見出した。また当時の事情に鑑みてアイヌの生きていることへの承認が急がれたため、テレビのインタビューで貝沢はステレオタイプ的な「共生」を語っていた。一見、矛盾するかのように見えるこの二つの「共生」のナラティブは、貝沢の中ではアイヌを尊重するという思いから来たもので実は矛盾ではない。「共生」の二つの側面を見ることで、今後のアイヌと「共生」の議論に貢献したい。