- 著者
-
東島 仁
- 出版者
- 京都大學人文科學研究所
- 雑誌
- 人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
- 巻号頁・発行日
- vol.100, pp.129-144, 2011-03
近年,心・行動の生物学的な基盤を遺伝子の働きや遺伝情報を手掛かりに探る心・行動の生命科学が,急成長を続けている。その進展には,公共の福祉への大きな貢献と同時に,多くの社会・倫理的な課題が伴うことは人類の歴史から明らかである。本稿では,心・行動の生命科学の研究領域で世界的な注目を集め,今や100名に1人が持つとも言われる自閉症スペクトラム障害に着目し,関連領域の学術的な発展に伴う障害概念の変遷と,社会的影響を論ずる。自閉症スペクトラム障害概念、が形成される道のりは,医学的な症例研究に端を発した心・行動の生命科学研究における自閉症スペクトラム障害領域の発展と展開,そして社会との関わりの歴史である。本論では,まず自閉症スペクトラム障害を取り巻く世界,そして我が国の社会的な状況を概観する。次に,医学や生命科学が科学表象の産出を通じて該当概念、を形作る歴史的な流れを振り返る。そして,生命科学によって自閉症スペクトラム障害の生物学的な基盤が解明され,様々な技術が開発される過程で現代社会にもたらされつつある課題を考察する。