1 0 0 0 OA 雜録

出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.524, pp.461-466, 1930-08-20 (Released:2011-01-26)
著者
村上 浩
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.857, pp.438-442, 1959
被引用文献数
17

先に, 著者は, ペーパークロマトグラフイーに, イネ苗試験法を併用して, マメ科の末熟種子にジベレリン が含まれていることを明らかにした。本報告には, 同様な方法を用いて, 双子葉植物の完熟種子にも広く, ジ ベレリンが含くまれているか否かを調査した結果が記されてあるヒマワリ, レタス, キウリ, スイカ, ヘチマ, ネナシカズラ, アサガオ, ルコウソウ, サツマイモ, ヨルガオ, フウセンカズラ, ノウゼンハレン, ルーピン, ソラマメ, ンゴの完熟種子にはジベレリンが含まれていた。 トマト, ナツダイダイ, ダイコンの種子では検出しえなかった。一般に, 「よじのぼり植物」の種子には, ジ ベレリンの含量が多く, 特に, ヒルガオ科の完熟種子は, 1g. 当り, 0.1~1μg. のジベレリンAに相当する 量があった
著者
Sanshi Imai
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.585, pp.603-610, 1935 (Released:2007-05-24)
被引用文献数
1
著者
中野 治房
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.911, pp.159-167, 1964
被引用文献数
8 1

1. 本論交は1913年ドイツ国の植物雑誌(Bot.Jahrb.<b>50</b>(4)440)に公表された研究の追加補足を目的とするものであるが, また訂正を志すものでもある. 研究方法は前著におけるように培養試験により, 諸器官の発生を調べ, また特に果実の遺伝性を観察したが, さらに諸外国の博物館や膳葉館における該当種の標本との比較研究にもよった.<br>2. 前論文においてはヒメビシ (<i>Trapa incisa</i> S.et Z.) にふたつの形(Formen)(小形と大形)を含むとしたが, その後の研究によると小形が実はヒメビシで, 大形はオニビシの変種 <i>Trapa natans</i> var. <i>pumila</i> auct. (コオニビシ) であることがわかった. この二形の間には推移はなく葉も異なり, また果実の大きさも違うほか, ヒメビシの果実の竪角にはほとんど逆刺が認められない. 培養の結果ではこれが全く認められなかったが, 自然の場合では2~3% くらい,しかも不完全の逆刺 (前後の竪角のうち1本だけにあったり,また1本の逆刺で代表されるという不完全さ) が認められるにすぎない.<br>3. 2本角のヒシの場合2本の横角 (lateral) の存在がその特徴であるが,まれに前後の面 (transversal sides) に角状の突起が成立することが特にvar. <i>Jinumai</i> に見られ奇異の感にうたれるが, これはよく見ると決して逆刺を具えず, また4本角のもののようにとがってもいないのでこれを擬角と命名した. 実にこの擬角はがく片から発生する四角ヒシの竪角とは発生が異なり, がく片脱落後そのこんせきから生ずる特殊の突起にすぎない. 著者の経験によれば二角ビシの5形が見られるが, この角の反曲性(recurving)のコウモリビシ(<i>T</i>. <i>bicornis</i> L.f.)が代表種と認められ, 他の4形はその変種と認めるのを妥当とするのである.<br>4. 4本角の外国種 <i>T. natans</i> L. の標本を種種しらべたが, これにもいろいろ変化があるとはいえ, 邦産のオニビシ' <i>T. quadrispinosa</i> Roxb. とシノニマスであることがわかった. また邦産のオニビシの三角のものが間々現われるが, これは子の代に皆四角に返えり安定性を持たないことを明らかにした. すべて四角性のヒシ, すなわち, オニビシ, コオニビシ, ヒメビシはがく全部が角を構成するが, ヒメビシの竪角には逆刺の発達が不完全で二角性のヒシに, ある連関性があるように見える.<br>5. がく片の全部が脱落して,無角のヒシが形成されることが中国上海附近嘉興南湖産のもので証明され, これを <i>T.acornis</i> Nakanoとした.<br>6. 不連続ながら長年の研究で本邦および隣接地域のヒシ属には少なくとも4種, 5変種が存在することが明らかにされた.

1 0 0 0 OA 雜録

出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.336, pp.515-523, 1914 (Released:2013-05-14)
被引用文献数
1
著者
IKUSIMA Isao
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.924, pp.202-211, 1965
被引用文献数
21

生嶋功: 水生植物群落の生産力についての生態学的研究 I. 光合成の強さの測定沈水植物の光合成率と呼吸率を測定するための大形酸素ビンを工夫した. 特に測定方法を吟味し, ことなった測定条件不における測定値の妥当性を検討した. 夏季の光飽和での総光合成率は最高38mgO<sub>2</sub>/g乾重/hr (ほぼ 5mgCO<sub>2</sub>/100cm<sup>2</sup> 葉面積/hrに換算される) に達し, 呼吸率は 3-4mgO<sub>2</sub>/9/hrであった. 一般に繁茂期の沈水植物では, 光の強さの広い範囲で種に関係なく 5-10mgO<sub>2</sub>/g/hr 程度の光合成率を示した. これは, 葉面積あたりにすれば, 陸上植物の光合成率の1/2から1/10の値である.クロモやマツモは冬季を越冬芽 (winter bud, turion) ですごす. 越冬芽の光合成は, 同種の植物体のそれにくらべ1/10以下の値をとることが多い. 直射日光があたるような水中では, 越冬芽の1日の剰余物質生産量は0ないし, わずか+の値をとることが期待される. しかし自然条件下では, 越冬芽は泥や浮泥にうもれていることが多く, 全く貯蔵物質に依存した越冬様式をとるといえる.水生植物の生産構造には, 陸上植物群落の grass type と herb type にそれぞれ対応する2つの型がみられた. セキショウモのように, 線形ないしへら形の葉をもつ種類の群落は前者であるが, エビモそのほか大多数の種類では後者である. そして十分に発達した後者の群落では, 植物体の尖端部が水面になびく結果として水面近くに同化系器官のあつい層ができ, herb type の特徴が極端に強調される.群落の光合成の <i>in situ</i> をつかうことによって測定した. 光合成率は群落の上部では大きい値をとり, 下部では小さい値をとる. この現象は, 主として群落内での葉の位置による能力の差にもとつくことが実測されたが, さらに水中では深さにともなう光の減少がこれに加算的に作用するもの解としてよい. 呼吸率は群落の上下の部分で著しい差はみられなかった.群落全体について, 1日あたりの生産量を近似的に求めた. 6月のセキショウモ群落では純生産が-0.59g乾重/m<sup>2</sup>/day であり, 群落形成の初期では根茎中の貯蔵物質の消費が同化器官の生長, とくに伸長生長に対し大きな役わりをはたしていることがわかる. 5月のエビモ群落では, 0.50g 乾重 /m<sup>2</sup>/dayであり, 生育の末期においても純生産量は小さい. 総生産量はそれぞれ, 0.66およびで2.39乾重/m232/day であった.(千葉大学文理学部生物学教室)
著者
Kanehira R. Hatusima S.
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.676, pp.147-155, 1943
被引用文献数
3

<b>木蘭科</b><br>從來<b>ニユーギニヤ</b>カラ知ラレテヰタ木蘭科ハ <i>Aromodendron</i> ト <i>Drimys</i> ノ2屬30種デアツタガ今囘我々ハ更ニ6新種ヲ發見スルコトガ出來タ。<br><b>Aromodendron</b> 本屬ハ<b>マレーシヤ</b>ニ廣ク分布シ, 從來南米産ノ <i>Talauma</i> ト一緒ニシテアツタガ東亞産ハ南米産ト種々ノ點デ相異スルノデ區別スルコトニシタ。<br><i>Aromodendron oreadum</i> (DIELS) K. et H. 從舊獨領<b>ニユーギニヤ</b>カラ知ラレテヰタガ今囘アンギ地方ノ男湖湖畔ノ森林内デ發見シタ。嘗テ BECCARI ハ <i>Arfak</i> 山脈デ不完全ナおがたまのき屬ノ一種ヲ發見シタト報ジタガ, 恐ラク本種ノコトデアラウ。<br><b>Drimys</b> 本屬ハ<b>メラネシヤ</b>-濠洲要素トモ見ルベキモノデ北ハ比律賓迄來テヰル。<b>ニユーギニヤ</b>ハ極メテ種類ニ富ミ從來24種知ラレテヰタガ今囘我々ハ更ニ6新種ヲ發見シタノデ計30種トナル譯デ將來倍加スル可能性ガアルト信ズル。<b>ニユーギニヤ</b>産ノ <i>Drimys</i> ハ <i>Sarcodrimys</i> (9種) ハ <i>Tasmannia</i> 節 (27種) ノ2節ニ分レ, 前者ハ通常蘇林以下400米位迄ノ間ニ多ク, 喬木性トナルモノガ多イガ, 後者ハ蘚林以上ノ森林, 殊ニ硬葉灌木樹林内ニ多ク, 通常灌木トナルモノガ多イ。時トシテハ蘚林内デ着生生活ヲ營ムモノモ見ラレル。今囘我々ノ採集シタ <i>Drimys</i> ハ9種デ, ソノ内3種迄ガ<b>アンギ</b>地方ノ蘚林以上ノ地域デアツタ事カラ見テモ高地帶ニ斷然種類ガ多イコトガ判ル。<br>以下未記録種ニ就キ略述スルト次ノ通リデアル。<br><i>Sarcodrimys</i> 節<br><i>D. monogyna</i> K. et H. 内地ノあをきヲ思ハセル高サ2米内外ノ灌木デ<b>ダルマン</b>地方ノ産デアル。花ガ赤紫色デ雌蕊ガ通常1個 (稀ニ2個) ナル點ガ變ツテヰル。木蘭科デハ最モ雌蕊ノ數ガ減少シタ型デアラウ。<br><i>D. novo-guineensis</i> K. et H. <b>モミ</b>ヨリ<b>アンギ</b>ニ通ズル路, 海拔1500米附近ノ蘇林内デ落下セル小枝ヲ拾ツタモノデ母樹ヲ發見スルコトハ出來ナカツタガ喬木ナルコトハ間違ナイ樣デアル。一番近イノハ舊獨領<b>ニユーギニヤ</b>産ノ <i>D. oligocarpa</i>SCHLTR. ヂアルガ, 葉ハ小サク, 下面灰白色デ, 側脈ハ彼ト反對ニ上面ニ凸出シ下面ハ殆ンド不明デアリ, 果序ハ大キク且三囘モ繖形状ニ分岐ヲナシ, 雌蕊ハ各花ニ4-6個アル點デ容易ニ區別出來ル。<br><i>D. oblongifolia</i> K.et H. <b>アンギ</b>男湖ノ湖畔ノ森林内ニ産スル高サ4-5米ノ小喬木デ一番近イノハ <i>D. calothyrsa</i> DIELS デアルガ, 葉ハ小サク, 長橢圓形ヲナスノデ一見區別出來ル。<br><i>Tasmannia</i> 節<br><i>D. angiensis</i> K. et H. <b>モミ</b>ヨリ<b>アンギ</b>ニ通ズル路, 海拔1500米附近ノ蘚林内ニ産スル3米内外ノ灌木デ <i>D. hatamensis</i> BECC. ニ近イ種類デアル。<br><i>D. subreticulata</i> K. et H. <b>アンギ</b>男湖湖畔ノ平地林内ニ多イ灌木デ <i>D. reticulata</i>DIELS ニ最モ近イ。<br><i>D. tenuifolia</i> K. et H. 高サ1米内外ナ纎弱ナ灌木デ <i>D. myrtoides</i> DIELS ノ仲間デアル。<b>モミ</b>カラ<b>アンギ</b>ニ通ズル路ノ海拔1800米附近ノ蘚林内ニ見プレ, 場所ニヨツテハ着生生活モヤリ相ナ灌木デアル。<br>利用方面 <i>Drimys novo-guineensis</i> K. et H. <i>Aromodendron oreadum</i> (DIELS)K. et H. ノ兩者ハ良質ノ材ヲ産スルト思ハレル。<br>ナホ <i>Drimys</i> 屬ハ <i>Trochodendron, Tetracentron</i> 及ビ <i>Zygogynum</i> ト共ニ濶葉樹中, 材部ニ導管ヲ有セザルノ故ヲ以テ著名デアル。
著者
金平 亮三 初島 住彦
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.663, pp.105-119, 1942
被引用文献数
2

クノニア科<br>Aistopetalum tetramerum K. et H. 本屬ハニユーギニヤノ特産デ從來舊獨逸領カラ2種知ラレテヰタガ今囘更ニ一種ヲ發見シタ。SCHLECHTER ハ屬ノ特徴トシテ花ハ5數, 葉ハ3出トシテヰルガ, 面白イ事ニハ本種デハ葉ハ通常5個ノ少葉ヲ有スル羽状複葉 (稀ニ3出) デ花ハ4數 (極メテ稀ニ5數) ヨリナル點ガ異ナツテヰル。<br>Betchea aglaiaeformis K. et H. 本屬モニユーギニヤ特産デ從來2種知ラレテヰタガ今囘第3番目ノ種類ヲ海拔1900米附近ノアンギ(男湖)湖ニ注グイライ河ノ河岸林内デ發見シタ。一番近イノハ B. rufa SCHLTR. デアルガ, 本新種デハ葉ニ鋸齒ガアリ, 先端ハ鋭頭, 小枝, 葉ニ黄色ノ密毛ガアリ, 雄蕊ハ長ク, 柱頭ハ5裂 (彼ハ3製) シ、花瓣ノ背面ニ毛ヲ有スルノデ容易ニ區別出來ル。<br>Ceratopetalum 本屬ハ濠洲系ノ植物デ濠州ニ4種, ニユーギニヤニ一種知ラレテ居ル。<br>Opocunonia papuana K. et H. 本屬モニユーギニヤノ特産デ從來3種知ラレテヰタガ今囘ナビレ附近ノ低地林ニ更ニ一種ヲ發見スル事ガ出來タ。一番近イノハ舊獨領産ノ O. kaniensis SCHLTR. デアルガ本新種デハ花瓣ガ著シク短イ點デ一見區別出來ル。<br>Pullea sp. 本種ハアンギ(女湖)湖畔ノ森林内デ採集シタガ, オシクモ花モ實モナイ標本デアル。然シ一般的樣子カラ見テ Pullea 屬ニ屬スル事ハ間違ナイ樣デ, P. mollis SCHLTR. ニ最モ近イ新種ト考ヘル。若シ萬一本屬デナイトスレバ次ノ Spiraeanthemum 屬カモシレナイ。<br>Spiraeanthemum Pulleanum SCHLTR. 本種ハアンギ湖附近ノ乾燥シタ尾根通リノ硬葉灌木樹林内ニ普通デ, 葉縁ガ著シク内曲シ上面ガ泡状ニ凸凹シテヰルノガ特微デアル。GIBBS 女史ハ1917年 S. buttatum GIBBS ヲ記載シタ時, 既ニ SCHLECHTER ガ1914年ニ S. Pulleanum SCHLTR. トシテ種ノ檢索表内ニ發表シタモノヲ見テヰナイラシク, 本種トノ比較ハ何等擧ゲテヰナイガ, 兩種ガ同一物ナル事ハ疑ナイ。花ハ4又ハ5數ノモノガ同一花序内ニ見ラレルノデ此點ハ兩種ノ區別點トハナラナイ。<br>Schizomera homaliiformis K. et H. 本屬ハ北濠 (一種), アンボン島 (一種), ニユーギニヤ (6種) ニ分布シ, ソノ分布ノ中心地ガニユーギニヤナル事ハ容易ニ想像スル事ガ出來ル。本種ハニユーギニヤ産ノ S. floribunda SCHLTR. 及アンボン島ノ S. serrata HOCHR. ニ近イガ前者トハ葉ガ大キク, 楔脚デ, 花序ハ常ニ葉ヨリ短カク, 蕚片ハ幅廣ク内面無毛ナル點デ區別出來ル。後者ハ記載ニヨレバ花序ガ疎デ, 花モ大分大イノデ同一種トハ考ヘラレナイ。<br>Weinmannia hypoglauca K. et H. 本屬ハ Cunoniaceae ノ内デ最モ大キナ屬デ, ソノ種類ハ全種數ノ約半數, 即チ126種ヲ占メ南ハ南米, メキシコ, マダガスカル島及附近ノ島々, ニユーカレドニヤ, フィージー, タヒチ, 爪哇カラ北方ハボルネオ, モルツカ群島, 比島迄北上シテヰル。ニユージーランド及濠洲ニ全然産シナイノハ面白イ。<br>本種ハ舊獨領ニユーギニヤ産ノ W. tomentella SCHLTR. ニ最モ近イガ, 葉ハ3~5個ノ小葉カラナリ, ソノ裏面ハ粉白デアルコト, 雄蕊及花柱ガ著シク長イコト, 蕚ハ狹ク無毛デ先端ガ著シク尖ツテヰルコトデ一見區別出來ル。<br>利用 本科ノ植物ハ全部木本ヨリナリ, 大喬木トナリ硬材ヲ産スルモノガ多イ。殊ニ Ceratopetalum 屬ニハ有名ナ硬材ヲ産スルモノガアルカラ本屬ニ屬スル C. tetrapterum MATT. モ同樣ニ有用材ヲ産スルモノト考ヘル。Opocunoia papuana K. et H. モ30米以上ノ大喬木トナルノデ有用材ヲ産スルデアラウ。Weinmannia 屬ノ或種類ノ樹皮カラハ赤色染料ガ採レル。又濠洲産 Schizomera 屬ノ果實ハジヤムノ原料トシテ上等ナモノトサレテヰル。
著者
岩波 洋造
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.892, pp.371-376, 1962
被引用文献数
2

マツバボタンの花の雄ずいの運動に関する研究の一部として, 花糸の内部構造について調査を行なった.<br>マツバボタンの花糸は, 周囲が厚い膜にかこまれているにもかかわらず, 全体がたいへん柔らかい感 じで, たとえば, ピスにはさんで切片を作ると, 花糸がつぶれてしまう. したがって, パラフィン法, 凍 結法によって切片を作り, その横断面, 縦断面を観察したところ, マツバボタンの花糸は, 表皮, 柔組織 および管東組織の3つの部分からなっていることがわかった.<br>表皮の細胞は縦に長く(10×30×100μ<sup>3</sup>), 外側の膜だけが大へん厚くなり, その一部が突起となってい た. 柔組織の細胞も縦長で, 表皮細胞よりはかなり小型であるが, その大きさは大小さまざまで, ここに は細胞間げきが多くみられた. このような柔組織中の細胞間げきは, とくに花糸の基部において多くみら れ, そのため, ときには個々の柔細胞が細胞間げきのなかに浮いている状態にちかいところもあった. 花 糸の中央部にある管束の部分には, 3~4本の道管と, これを囲んで多くの師管が存在していた.<br>マツバボタンと花の形や葉の形はたいへんちがうが, これと同属であるスベリヒユにおいても雄ずいの 運動がみられる (後報). このスベリヒユの花糸の内部構造は, 全体にマツバボタンのそれより小型である が, 細胞の並び方や細胞間げきがあることなど, ほぼマツバボタンと同様であった.<br>マツバボタンの花糸を水で封じ, これを凍結させ (炭酸ガスの噴出による) て切片を作ったとき, 組織 が凍っているときはパラフィン切片と同様のことが観察されたが, 氷が溶けるにしたがってその切片は強 く収縮した. この収縮の過程において, 表皮の大きな細胞は, 突起の部分から内側に折れ曲るようにして 収縮してきた. したがって, 花糸の表皮細胞は, 本来そのように曲る膜の性質をもっていて, 自然状態に おいては, これが吸収による内圧によって押し拡げられていると考えられる. 生体のまま切片を作ると, 花糸の横断切片はすべてつぶれた状態になることや, 花糸が厚い膜につつまれていながら全体としてはご く柔らかい感じがするのは, そのためであろう. この表皮細胞の膜のうちがわに曲る物理的な性質は, 雄 ずいの運動の機構にある程度関与していると想像される. (横浜市立大学生物学教室)