著者
松本 清
出版者
富山大学教育学部
雑誌
富山大学教育学部紀要 A(文科系) (ISSN:02859602)
巻号頁・発行日
no.48, pp.15-25, 1996-03

1994年10月に初演。プログラムノートには次のように記した。「言葉が意味を持たなくなった時,そこには歌だけが残ります。楽器は声と関わりを持とうと様々な仕掛けをしますが,単語の海の上をただ漂流するばかり。鉛筆と五線紙をキーボードとディスプレイに持ち替えた第3作目」最初の歌曲作品で山村暮鳥の詩を用いて自分の音楽構造を見つけるのに成功して以来,発音そのものに意味がある通常の言語を歌わせることに非常な困難を感じ,もっぱらヴォカリーズによる声楽作品を創ってきた。しかし,やはり子音の響きも捨て難く,前作ではラテン語の詩をヴォカリ-ズの中に取り入れて声の表現の拡大を試みた。今回の作品ではラテン語にイタリア語とドイツ語を加え,それぞれの言語が持つ独特のリズムと発音形態の上に音を放つことで,それぞれ異なる響きを持つ5つの小品を得た。使われた語はそれぞれの辞書より任意の単語を抜き出し,ベーシックで組まれた乱数配列プログラムのデータとし,いくつかの文法を決定した上で取り出したものから選択した。こうすることによって単語の持つ音韻構造はそのままに,構文的な意味を消し去ることが出来,自由な旋律構造を与えることが可能となったのである。ただし5曲目だけは聖書の中からそのまま取られている。