- 著者
-
西尾 知己
- 出版者
- 関東学院大学人文科学研究所
- 雑誌
- 関東学院大学人文科学研究所報 = Transactions of the Institute of Humanities (ISSN:03867919)
- 巻号頁・発行日
- no.44, pp.21-42, 2020
近年、日本中世後期の寺社強訴に関する研究では、通説的な強訴の認識に再検討を迫る重要な見解が提示されている。しかし、強訴の研究では各時代の政治史における位置づけを明確にしようとする傾向が強く、時系列的な変遷に焦点を当てるような視点が形成されにくい。そのため、中世後期の強訴論で示された見解が中世前期を盛期とする通説的見解と切り結ぶことなく並存している点に問題を残す。そこで本稿では、中世を通じた強訴事例の分布を示したうえで、中世後期の強訴に関する近年の成果を整理し、これまでの通説的な見解を再検証するとともに、中世後期強訴論が直面する課題を明確にしようとした。その結果、〔1〕通説的見解では院政期をピークとするが、鎌倉後期から南北朝期こそが強訴が最も多様性を備えた最盛期とみなすことができること、〔2〕通説で中世後期の強訴終焉の原因として強調された武家政権の武威による圧倒という点が、必ずしも直接的な原因とは言えないこと、を指摘した。このほか中世後期の強訴をめぐる課題を5点提示した。